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TVドラマ「FAKE MOTIONー卓球の王将ー」に見る卓球の現在地

伊藤条太卓球コラムニスト
長崎美憂(左)と張本智和(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

4月8日から日本テレビ系列で始まったテレビドラマ「FAKE MOTION-卓球の王将ー」を非常に興味深く見ている。

「空前の卓球ブームでトレンドの中心は卓球、高校生同士の優劣を決めるのは勉強や喧嘩の強さではなく卓球の勝敗」という架空の世界を舞台に繰り広げられる学園青春ドラマだ。かつての卓球暗黒時代を知る身としては、この設定がフィクションだとわかっていても感無量だ。卓球が褒められてさえいれば嘘でも何でもいい。

「FAKE MOTION-卓球の王将ー」オフィシャルサイト

1980年代に卓球界を襲った卓球ネクラブーム。タモリが卓球をギャグのネタにし「暗い」「ダサい」と言ったのが発端だった。確かに当時のユニフォームは地味だったし、練習場には日光と風を嫌って真夏でも暗幕を張って黙々と素振りをしていたのだから暗いと言われるのも当然だった(おまけにラケットの両面に性質が違う同じ色のラバーを貼ってラリー中にクルクルと反転したり、打つところを腕や身体で隠して回転をごまかしていたのだから、実態はタモリが思っていたより数段暗かったわけだが)。

さすがタモリ、上手いことを言うものだと思っているうちはよかったが、そのうち大衆が真似をしてギャグとして言い出し、影響を受けやすい人たちが本気にし、中学高校の卓球部員が激減した。

これは大変と日本卓球協会がプロジェクトを発足し「リッチ、ライト、ファッショナブル」をスローガンに卓球のイメージアップ活動を始めた。ビルの屋上や屋外テニスコートに白い卓球台を置いて上下白のユニフォームで卓球をする様子がワイドショーで取り上げられた。明るいってそういうことか・・・。さらに、正装でフランス料理のフルコースを食べながら卓球の試合を見る3万円の「卓球ディナーショー」が新高輪プリンスホテルで催された。リッチってそういう・・・。

こうした活動の成果のひとつとして、ユニフォームに複数の色が使える「カラー化」が実施された。結果、かつての地味な色使いの反動からか、ごちゃごちゃしたド派手なデザインが卓球界の主流となり、今度はその派手すぎるユニフォームがダサいと評判になった。作っている卓球用品メーカーが悪いのだと思っていたらそうではなく、卓球愛好者のニーズを反映した結果であることが判明。そういうデザインばかりが売れるのだという。ダサいのはメーカーではなく卓球愛好者自身であるという根本的な問題にぶち当たり、万事休した。

以後、この問題が残ったまま現在に至っていると私は思っていたのだが、今回のドラマを見て驚いた。「ユニフォーム、カッコいいじゃねえの」。慌ててそのユニフォームを調べたが、なんと作ったのは卓球メーカーで、冷静に見ればデザインも典型的な卓球のユニフォームだった。何のことはない、イケメンが着ていればカッコいいのだ。

同時に、少し前にネットで見たある意見を思い出した。それは「サッカーのユニフォームがカッコ悪い、なぜ卓球のようにカッコよくできないのか」というものだった。かつて卓球人が言っていたことと正反対だ。当時は「卓球選手はJリーグのユニフォームをそのまま着てやれ」という意見があったくらいなのだ。

結局、デザインの優劣というものは科学ではないのだから、所詮は思い込みと気紛れで遷ろうものにすぎない。日本が強くなってスター選手が現れれば、それらの選手が着れば自然とカッコ良く見えるのだ。そして卓球はすでにそうなっていたのだ。そうしたことに気づかされた「FAKE MOTION」だった(「そんなことはない、卓球のユニフォームは相変わらずカッコ悪い」という意見はもう聞くつもりはない)。

もうひとつ気づいたことは、卓球の速さだ。当然ながらこのドラマではラリー中のボールの多くがCGで描かれているが、それが異様に遅い(正確に言えば、ラケットの振りの割に遅い)。日々卓球を見ている目からすると、極端に言えば紙風船か蛍が飛んでいるような感じに見える。制作者にとってはこれが「自然な速さ」なのかあるいは、これ以上速く描くと視聴者が見えないためにあえて遅く描いているのだろう。いずれにしても、現実の卓球はフィクションで描くことが憚られるほど速いということなのだ。フィクションより速いのだ。

そうした卓球の現在地に、あらためて気づかされたテレビドラマ「FAKE MOTION」だった。

※登場人物たちが卓球のルールをさっぱり守らないのはご愛敬だ。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

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