Yahoo!ニュース

かすみうペアに期待が高まる東京五輪 「ダブルスの重要性」は本当?

伊藤条太卓球コラムニスト
2020年ドイツ・オープンでの石川佳純(左)と平野美宇(右)(写真:アフロ)

ドイツ・オープンが1月28日からドイツ・マクデブルグで開催された。日本チームとしては、東京五輪の出場メンバーが正式に決まって初の国際大会となる。そこで、東京五輪の女子団体戦でダブルスを組む公算が大きい、石川佳純(全農)と平野美宇(日本生命)のペアが、準決勝で丁寧/孫穎莎(中国)という超ド級の中国ペアを破る大金星を挙げた。決勝ではやはり中国の陳夢/王曼イクに敗れたが、東京五輪に期待が持てる素晴らしい結果だった。

ダブルスといえば、近年、卓球の団体戦についてよく言われる定説がある。それは1番の試合の重要性だ。団体戦で1番の試合を勝つと、そのチームが勝つ確率70%にもなり、そのため、1番の試合が重要なのだという。東京五輪では1番がダブルスなので、ダブルスが団体戦の勝敗のカギを握るというわけだ。どの試合も重要なのは当たり前なのだから、その中であえて「1番が重要」と強調するからには、1番が他の試合に比べて特に重要だということだろう。繊細な競技である卓球の場合、1番の結果が2番以降のプレーに特別に大きな影響を与えるとしても不思議ではない。

しかし、この法則を聞くたびにいつも不思議に思うのが「1番を勝ったチームの勝率は70%にもなる」という数字を何度か目にする一方、「2番を勝ったチームの勝率」「3番を勝ったチームの勝率」についてはただの一度も見たことがないことだ。これでは「もっとも重要」かどうかわかりようがない。こういう場合、この定説自体が怪しいというのが「定説」である。

そこで今回、東京五輪と同じく1番がダブルスである唯一の団体戦であるTリーグについて、「2019-2020シーズン」の2月2日までの男女団体戦の全64試合を分析してみた。その結果、各試合を勝ったチームの勝率(「チーム勝利寄与率」と定義する)は次のようになった。

筆者作成
筆者作成

  

4番と5番は試合の終盤だから勝敗に直結するのは当然なので、それを除くと、1番と2番のチーム勝利寄与率は同程度に高い結果となった。男子と女子に分けてもこの傾向は同じなので、Tリーグにおいてこれは普遍的な傾向だと考えられる。Tリーグと東京五輪では、選手起用のルールが違うので、今回の結果がそのまま当てはまるとは言えないが、東京五輪ともっとも近い形式であるTリーグの試合結果からは「1番がもっとも重要」と言うことはできない結果となった。2番、3番の勝利寄与率の数字を見たことがないのは当然であろう。定説が覆ると、一見科学的で面白そうな話が台無しになるからだ(調べていないとしたら驚きである)。

ちなみに、今回の分析で、試合の推移をまとめると次のようになった。最終的に勝ったチームをA、負けたチームをBで表示してある。

Tリーグ2019-2020の2月2日までの男女全64試合の勝敗推移別の発生数 筆者作成
Tリーグ2019-2020の2月2日までの男女全64試合の勝敗推移別の発生数 筆者作成

顕著な傾向としては、全試合の25%が3-0、19%がA-A-B-Aの形の3-1になるというものが見られた。これが1番と2番の勝利寄与率が高い結果につながっているわけだが、精神面を含めた試合の「流れ」を反映した結果なのか、単にチーム間の実力差があるために3-0や3-1が多くなるだけのことなのか、その区別はつかないが、おそらく後者だろう。

興味深いものとしては、先に2点目を取ったチームは、直後の試合で取られる確率が61%になる傾向があった。細かく見ると、2-0になると57%の確率で2-1になり(これが3番のチーム勝利寄与率をわずかに落としている)、1-1から2-1になると67%の確率で2-2になっている。これも、王手をかけた方が油断するのか、あるいは、王手をかけられた方が追い詰められて実力以上を発揮するためだと考えたくなるが、そうとは限らない。単にオーダーによる選手の実力配分のためかもしれないからだ。強い選手を出したから2点取ったのであり、強い選手を続けて出さないために次を取られるだけかもしれないのだ。これも恐らく後者の可能性の方が高いだろう。

以上のように、団体戦の推移に何らかの傾向があることは事実だが、それを戦略に生かすことができると考えるのは、選手間の実力差を無視し、試合結果は精神的なものや実体のない「流れ」なるものによって決まると考えることによる錯覚なのだ。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

伊藤条太の最近の記事