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採用中止・内定取り消しがトレンドワード入り~朝日新聞・ANA人件費削減記事の見出し変更が火種か

石渡嶺司大学ジャーナリスト
朝日のデジタル記事とTwitter(下)。見出しが「内定者を採用中止」と変更

◆朝日が8日朝刊でANAの人件費削減を掲載

伝言ゲームで最初の内容が変わる、ということがよくあります。

ANAの採用中止についても、全く同じであり、それが本日、起きました。

朝日新聞は本日、2020年10月8日付けの朝刊で経済面にANAの人件費削減について記事を掲載しました。

そのときの記事見出しがこちら。

ANA苦肉の人件費削減 希望退職募集 路線見直しも

8日付け朝日新聞のANA記事。「採用中止」は見出しに出ていない
8日付け朝日新聞のANA記事。「採用中止」は見出しに出ていない

記事で採用中止については、わずか1行しかありません。

来春入社を予定していた大学生などの8割弱の採用中止にも踏み込んだ。

※記事より引用

記事内容は、人件費削減、特にボーナスのゼロ提案や資金繰りが中心となっています。

◆朝日新聞デジタルでは「採用中止」が見出しに

7時公開の朝日新聞デジタルでは「ANA、コロナで人件費にメス 来春の採用8割弱を中止」との見出しで掲載されます。ここで「採用中止」が見出しに出ます。

朝日新聞デジタルの記事見出し。ここで「採用中止」が出てくる
朝日新聞デジタルの記事見出し。ここで「採用中止」が出てくる

採用中止について触れている部分は新聞掲載のものと同じです。

◆朝日新聞Twitterでは「内定者8割弱を採用中止」

ところが朝日新聞Twitterでは記事見出しが「内定者8割弱を採用中止」と変わりました。なお、記事リンクで出てくるものは、朝日新聞デジタルの見出し・内容と同じです。

朝日新聞Twitterの記事リンク(8日7時時点)。ここで「内定者8割弱を採用中止」と変わる
朝日新聞Twitterの記事リンク(8日7時時点)。ここで「内定者8割弱を採用中止」と変わる

しかし、採用中止と「内定者を採用中止」では捉え方が大きく異なります。

内定を出してから採用を中止した、つまり、内定取り消しをした、とも読めてしまいます。

実際に、Twitterでは内定取り消しと混同する書き込みや、困惑の書き込みが多数出ています。

採用中止?内定取り消しって書かないの?

内定を取り消したみたいに聞こえるね・・

ANAがごまかしてるのか実はわからんが・・・

会社都合による内定破棄や採用中止もあるのですから、入社後数日で退職したくらいで後ろめたい気持ちにならなくても良いと思います

内定取消→内定してたけど取り消すわスマンな

採用中止→まだ採用する予定だったけどもうここで打ち切るわゴメンな

混同してそうな感じですがどっちでしょう。大きく違いますね。

◆採用中止自体はすでに7月に公表済み

ANAは5月8日、書類選考などが進んでいた学生に選考を中断する、と連絡します。そして、採用中止とすることについて、7月10日に公表。翌日11日には各紙が掲載しています。

ANA 新卒採用を中止 21年度入社 需要減、人員余剰に

読売新聞2020年7月11日朝刊

ANAホールディングス(HD)は10日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一時中断していた2021年度入社のグループ新卒採用について、パイロットなど一部の職種を除き中止すると発表した。

中核の全日本空輸などグループ37社で3200人程度を採用する予定だった。パイロットと障害者を対象とする計約100人の採用活動は続けるほか、地上職採用の専門学校生ら約600人に出した内定は取り消さないという。

採用中止の理由についてANAHDは、「感染収束が見通せず、航空需要の減少で人員の余剰が発生している」(広報)と説明。志望学生に対し「苦渋の決断を下すことになり、謹んでおわび申し上げます」と謝罪した。

採用中止は、重症急性呼吸器症候群(SARS)流行などの影響で全日空が03~04年度入社の客室乗務員の採用を見合わせて以来で、全社的な中止は極めて異例という。

読売記事にあるように、すでに内定を出していた地上職など600人については内定を取り消していません。

◆内定取り消しと選考取り消し・中止は全く別

詳しい内容は以前書いた記事に譲りますが、内定取り消しは違法となる可能性がきわめて高いです。一方、選考取り消し・中止は合法です。

内定通知を受けている学生は労働者に準じる立場、と見なされるため、もし、内定取り消しをするためには、合理的な説明が求められます。

一方、選考の中断や取り消しは、内定が出ていない以上、学生の立場はあくまでも学生であり、労働者に準じる立場、とはなりません。となると、労働法などは適用されない可能性がきわめて高い、と言えるでしょう。

実際に、リーマンショック後の内定取り消し騒動では、学生が訴訟を起こした事例もあります。そして、その模様をまとめた『終わりがない就職活動日記 内定取消!』(間宮理沙、日経BP、2010年)という本も刊行されています。

リーマンショック後では、選考取り消し・中止を決めた企業もありました。が、そうした企業はその後、学生から訴訟を起こされる、あるいは、メディアで非難される、という事例はほとんど起きていません。

◆Twitterの見出し入力ミスが元か?

今回の騒動、時系列を見ていく限り、朝日新聞のTwitterで記事見出しを出す際に、「内定者8割弱を採用中止」としているところが問題を引き起こしています。

ただ、この見出しだけで全てを判断しようとする方も、いかがなものでしょうか。

本日の騒動は、伝言ゲームのようなもの、と冒頭に出しました。

伝言ゲームであれば、もし、内容に違和感をもった場合、先頭に戻って聞き直せば、正確な内容が分かります。

中身をよく見てから判断することは今日の朝日記事だけでなく就活全般にも言えます。企業のイメージだけでなく、実際のビジネスや働き方はどうか、インターン・セミナーなどに参加してみないと分かりません。

より良い就活にするためにも、イメージだけで判断せず調べることを忘れないようにしてください。

追記(2020年10月8日16時20分)

15時に朝日新聞はTwitter公式アカウントで

きょう午前7時10分のツイートで「内定者8割弱を採用中止」としていたのは「来春の大学生などの採用も、当初の計画から2割に絞った」の誤りでした。元のツイートは削除し、訂正しておわびします。

と、訂正を出しました。

朝日記事を使用していたライブドアニュースも15時55分にTwitter公式アカウントで、

【訂正とお詫び】今朝のツイートで「内定者8割弱を採用中止」としていましたが、正しくは「来春の大学生などの採用も、当初の計画から2割に絞った」でした。元のツイートは削除し、訂正しておわびいたします。

と訂正を出しました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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