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大学独自のコロナ給付、全国に広がる~支援制度は90校に拡大

石渡嶺司大学ジャーナリスト
ノートPCで受講する女子学生(写真はイメージ)。オンライン授業対応の給付が広がる(写真:アフロ)

◆学生の「#学費減額運動」、160校以上に増加

学生による「#学費減額運動」が全国に広がっています。

毎日新聞2020年4月28日朝刊によると、学費減額運動は100校に拡大(「新型コロナ:新型コロナ 親が減収、バイト先休業…大学生困窮『学費減免を』 運動拡大、100校で要求」)。

4月30日現在では、その数はさらに増え、NHKWEB4月29日配信記事によると、NHK調査では「160校以上」に拡大しているとのこと。

一方、大学としては学費減額や施設料返還にはおいそれと応じられません。一方で、オンライン授業の対応費用などを学生に給付する方策を決める、言うなればコロナ給付を決める大学が増加しています。

4月23日に就実大学と明治学院大学の給付策について記事としました。

「#学費返還運動」に苦慮する大学~就実・明治学院は神対応も

この記事がきっかけ、ということはないでしょうけど、その後、同様の方策を決める大学が続出しています。

◆一律給付は立教・近畿など60校

各大学のサイト等を調査したところ、5月1日9時時点で、一律給付(または学費・施設料の減額)を決めた大学は60校あります。

公表日順にまとめたのが、以下のリストです。

一律給付の大学その1/表は全て著者作成
一律給付の大学その1/表は全て著者作成

早かったのは、前の記事でも出した通り、岡山県にある就実大学。次に明治学院大学。

施設・設備費の一部返還に限るともっとも早かったのが、京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)。

一律給付の大学その2
一律給付の大学その2

金額は、10万円とした獨協大学、桐朋学園大学、愛知学院大学、東京音楽大学、鶴見大学の5校。続いて、8万円の国士舘大学、広島修道大学。最多は5万円(神奈川大学、近畿大学など)。

一律給付の大学その3
一律給付の大学その3

給付方法は、未定(5月以降に決定)とする大学が大半です。後期学費からの減額が6校(芝浦工業大学、京都外国語大学など)、郵便為替が4校(就実大学、京都ノートルダム女子大学、大正大学、大阪経済法科大学)。福岡大学は相当額のギフトカードを郵送とのこと。

一律給付の大学その4
一律給付の大学その4

◆条件付給付は早稲田大学など30校

一方、条件付きの給付は30校あります。

なお、こちらのリストは、コロナショックによる家計急変の奨学金・給付制度やオンライン授業対応の給付制度を対象としています。

大半の大学ではコロナショック以前から学費支出者の家計急変に対応する奨学金や家計困窮者に対応する支援制度を設けています。そうした奨学金・支援制度はこのリストには入れていません。

それから、一律給付を決めた大学は、一律給付とは別に条件付き給付の支援制度を決めた大学もあります。近畿大学や立命館大学などで、こちらは掲載しております。

条件付きの給付の大学その1
条件付きの給付の大学その1

メディア等で大きく注目されているのは早稲田大学です。学生1人当たり10万円とあり、明治学院大学と同様、一律給付としているメディアもありました。ただ、早稲田大学の公表資料によると、学生だけでなく高校も対象であり、総額は約5億円とあります。これだと、5000人が対象であり、早稲田の全学生・生徒数からは大きく下回ります。学生・生徒数から考えれば一律給付ではなく条件付給付と見る方が妥当でしょう。

条件付きの給付の大学その2
条件付きの給付の大学その2

こちらの条件付給付は国立大学も入っており、大分大学は新入生70人全員に給付。名古屋大学・岐阜大学は自宅外の学生全員に給付を決めています。

しかし、名古屋大学・岐阜大学の自宅通学の学生からは「大変な思いをしているのは自分も同じなのに貰えない」と恨み節も。

条件付きの給付の大学その3
条件付きの給付の大学その3

詳細はまだ未定ながら、最大50万円と金額では最多としているのが芝浦工業大学です。

◆運動の学生団体、目標はそれぞれ

「#学費減額運動」は、それぞれの大学で展開されています。大きく分けると、「一律学費半額を求めるアクション」、「高等教育無償化FREE」、そして、青山学院大学の学生を中心とする署名活動と連携する4校(明治、立正、白百合女子、東京都市)の連合、3つにわかれるようです。

「一律学費半額を求めるアクション」はオンライン署名で1万663筆を集め、4月30日に文部科学省に提出しました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で家計が苦しくなり、学費が払えない大学生らが増えているとして、複数の学生団体が30日、文部科学省を訪れ、国の予算で学費を半額にするよう求める1万663筆のオンライン署名を亀岡偉民副大臣に渡した。要請文で「このままでは進学や在学が危ぶまれ、世代ごと未来を奪われる」と訴えた。

※共同通信2020年4月30日配信記事「学生団体『国予算で学費半額に』文科省に要請」

一方、青山学院大学の学生が主体となる署名活動は4月30日、都議会公明党と東京みらいの2会派に対して、5校連名の要望書を提出しました。

私は青山学院大学の署名活動の発起人である大庭啓太さんに取材をしました。

学生の現状については、やはり苦しいとのこと。

自分の周りのほぼ全ての友人がアルバイトのシフトを削られてしまっている状況です。

そんな中、大学側からは使用することもできない施設料の請求を迫られており、さらに学生たちは苦しめられています。

オンライン授業についても、そう簡単には進んでいないのが事実です。

授業が始まったは良いものも、参考書の購入が求められ、Amazonで見てみても売り切れ状態だったりすることは珍しい話ではありません。

普段は、大学の図書館で借りたり、購買部で購入が可能なのですが、そうはいきません。

友人と話していても、参考書は値段が高く細かい出費が重なっていると言っています

青山学院大学が5万円給付を決めた点については、あくまでも施設設備料の支払い免除を求めるとのこと。

まず、この支援を実現するまでに、多くの青山学院大学教職員の方々の努力があると思います。本署名活動発起人としても、一学生としても、そういった方々へ感謝しています。

しかし、オンライン授業を受講する上で、必要な通信環境や機器を揃える為には5万円程度の資金は必要ですし、学生によってはこの金額では足りない学生もいます。

そうした中、本給付は必要最低限の措置であり、本署名活動は施設設備料の支払い免除やさらなる支援の拡充を求め、これからも活動をし続けて行きます。

4月28日には、その旨を記載した要望書を大学側にも提出を致しました。

他大学との連携については、以下のようにご回答いただきました。

前提として、お伝えしたいことは、青山学院大学に対し、施設設備料の免除や透明性を持った公表を求めていく姿勢には変わりありません。

しかし、大学側に求めていくだけでは、解決することのできない問題やスピード感が遅くなってしまうことも多くあります。

より早いスピードで、確実に学生への支援を広げるために、他大学との連合を自分自身で立ち上げる決断をしました。

本連合は、全国の大学が連名で求めている「一律学費半額」を求めていくのではなく、より本質的で実現可能性が高い要望を東京都に提出する目的で立ち上がりました。

※本取材は都議会会派への要望書提出前に行われました

現在までに、5大学が合流しています。

具体的には、

・大学生の雇用を守り、収入を得る方法をつくる

・経済的に困難な学生への通信環境を支援する

・施設設備料等の支払い免除に関する国への働きかけ

上記3点を要望書に盛り込むよう調整しています。

最初の2点は、既に都で行っている支援措置を拡充させることができ、実現のスピードは高いと考えています。

また、最後の施設設備料についても、大き過ぎるスローガンを掲げ声を上げ続けるのではなく、本質的で現実的な要望をまずはより身近な都政の方々へ提出し、彼らに国政へ私たちの声を届けてもらう方がスマートです。

本連合は、自分たちの目的が実現された時にはスムーズに解散をすることを既に決めています。

本質的な要望を実現できるよう、この問題について一緒に考えていただける関係者の方々と意見交換を重ねていきたいと考えています。

このように、学生によって、目標は異なるようです。

◆大学教職員からは反対論も

こうした学費減額や臨時給付について、大学教職員によっては、不安げに、あるいは不満げに見ているようです。

私が就実大学、明治学院大学などの動きをまとめた4月23日記事についても、Yahoo!トピックスに入ったこともあり、批判的なご意見もいただきました。

・大学ジャーナリストが煽りすぎ

・大学が給付だの貸与だのをしていくと、大学の体力が失われる。ひいては、将来の学費値上げなどにつながる。

・本来は国が出す話で、大学が出すのは筋違い

大学が急な入構禁止措置やオンライン授業の構築で例年以上に苦労している、それは私も理解できます。

しかし、そうした苦労と、学生支援策は別の話です。

現実問題として、多くの学生はアルバイトができず、一方で、急なオンライン授業に対応するためにノートPC・タブレットなどを用意するなど、支出が増えています。

困っている学生が多く、だからこそ支援策が必要なわけです。

それを、大学の体力が失われるとか、筋が違うと言った理由で、結果として放置するのはおかしい、と私は考えます。

そもそも、大学の財務体質は世間一般や大学教員が思っている以上に良好であり、そう簡単に揺らぐことはありません。

2000年代に入ってから、経営難を理由に廃校を決めたのはわずか15校しかありません。一方で、2000年から2019年までに133校も増えています。

このあたりは、以前書いた記事

週刊東洋経済「危ない私大」記事・ランキングを徹底検証~不快感示す大学、東経記者は否定(2018年2月28日公開)

をどうぞ。

それから、まず大学が支援策を決めて、その費用を国に請求する、という手法だってあるはずです。

実際に、

すでに一部通信費を負担するなど、さまざまな支援を講じている大学がある。努力をする大学に対して財政的なものも含めてサポートしていきたい」と述べ、独自に学生へ経済的な支援などを行っている大学に対し文部科学省として支援を行う考えを示した。

※NHKWEB2020年4月28日配信記事

と、萩生田光一文科相は、記者会見で述べています。

私の記事の書き方についてのご批判は甘んじてお受けしますが、それと学生支援をやらなくていい、という免罪符になるかどうかは別問題、と私は考えます。

◆一律給付がなくても強いICU学長の言葉力

私はコロナ給付や学費減額をした大学が良くて、それ以外が良くない、と断じるものではありません。

今の学生、特に新入生は入学式もなく、同級生とはzoomでつながってもリアルには会っていない、サークル活動もできない、図書館も利用できない、というないない尽くしです。

この不安な状況にどう寄り添うのか、仮に財務状況の良くない大学でもできることは多いのではないでしょうか。

その回答の一つが国際基督教大学です。

同大でも、学費減額運動が起き、大学にもその要望が伝えられています。これに対して、学長名での返信が学生にメール送信されました。

これについて、同大の学生がnoteで記事としています。

「話してもわからん」をひっくり返したある日の学長からのメール(あべまおこ note2020年4月26日公開)

記事のネタバレになりますが、国際基督教大学は学費減額やコロナ給付を決めていません。学長のメールではそうした方策を否定しています。

しかし、このメールの素晴らしい点は、なぜ、学費減額や施設設備料の返還に応じることができないか、懇切丁寧に説明しているところです。

施設費は、意外に思われるかもしれませんが、じつは施設利用料としてではなく、大学の運営に必要な施設の取得・維持費および物件費の支出に充てられています。つまり、学生の皆さんへの直接的なサービスの対価として設定されているのではありません。「施設の取得」には、施設建設費の借入金の返済(たとえば体育館)も含まれます。

そのため、たとえば、体育館が使えないのだから体育館使用料に相当する分の施設費を減額する、ということにはならないのです。

別の視点から付け加えておきたいことがあります。図書館は、論文執筆中の学部6卒生と大学院生には、送料大学負担で図書の貸し出しを行っています(学期中、1回、1人5冊まで)。これは、このサービスを受けられない学生からすると、不公平な対応に見えるかも知れません。ある意味では確かにそうです。皆さんにはぜひ、この「不公平」について考えてみることをお願いしたいと思います。学生全員に同じ対応をするのは財政的にも人手の面からも不可能です。大学として採った措置は、それをしないと極めて大きな不利益を蒙る人(ここでは、論文が書けなくて卒業できなくなってしまう人)にたいして特別な手当てをする、というものです。今あなたがその対象者ではなくても、ある日、あなたが、図書の貸し出しとは別のことで、そのような類の不利益を蒙りそうになったときには、大学は適切なサポート体制を整える、ということを覚えていてください。大学も市民社会と同じで、全体で支え合うという精神で運営されています。

記事執筆者は同大の学生です。記事執筆者はこの学長のメールに感銘を受け、次のように記しています。

わたしは「結局、大きい組織が個人の意見や考えにとりあってくれるわけない」とおもっていたんです。

でも大学からのメールは違いました。学生のことばにまっすぐ向き合う。ひとの葛藤、ひとの思考が見え、大学を支えて下さる職員の方々の存在もたしかに感じることができる。大学としてもどんな大変さや困りごとがあるのかを隠さずに説明し、質問に答えるということを超えて、こちらのモヤモヤまで溶かしてくれました。

本稿読者には、この記事を全文、読むことを強くお勧めします。

全部読んでいただければ、ICU学長の言葉の強さ、そして学生に寄り添う誠実な姿勢がよく分かります。

私が各大学に求めるのは学生に寄り添う姿勢を示すことです。

コロナ給付や学費減額などの学生支援策はあくまでも手段でしかありません。

結果として、給付・減額という方策でなかったとしても、大学ができることはあるのではないでしょうか。

◆コロナ給付以外のヒントは近大にあり

本稿執筆中に、近畿大学はコロナ給付を含む総額27億円の支援策を発表しています。

一律5万円の給付以外には、近畿大学コロナ対策緊急奨学金の新設(20万円・無利子・貸与/近畿大学応急奨学金とは別)なども決めています。

総額27億円の支援規模は私が確認した限りでは、最高金額です。

もう、この時点で「そりゃあ、受験者数日本一の近大だからできること、うちでは無理」とやさぐれる大学関係者が多いでしょう。

私が大学関係者に参考にして欲しいのは、支援規模ではありません。

オンライン診療や図書館利用サービスについても出している点です。

●メディカルサポートセンターでのオンライン診療・カウンセリングの実施

(対象:大学生、大学院生)

東大阪キャンパス内の学生・教職員の健康をサポートする近畿大学メディカルサポートセンターでは、新型コロナウイルス感染拡大により、医療機関の受診が困難となりつつあることに鑑み、本学の学生・教職員限定でオンライン診療を開始いたします。新型コロナウイルスに感染したかもしれないとの不安を感じる場合やその他の体調不良の訴えにオンラインで診療し、場合によっては医療機関を紹介するなど学生の不安に寄り添います。また帰省自粛による一人暮らしの不安や就職活動の遅れ等、精神的不安を抱える学生にカウンセラーによるオンラインカウンセリングも実施します。

※近畿大学プレスリリースより

●全学生に「今だから読んでもらいたい本」の贈呈、書籍の宅配サービスの実施

(対象:大学生、大学院生)

自宅(下宿)等から外出ができない学生の心のケアも兼ねて、この機会に今後の人生を大切に生きていくために読んでほしい本を贈ります。学長・副学長・各学部長等が「今だから読んでもらいたい本」を選び、学生にオンライン書店で利用できるギフトコードに、メッセージを添えて送信する形で進呈します。また、中央図書館でオンライン授業期間に図書の宅配サービスを実施し、貸し出しを希望する図書を自宅に届けます(送料大学負担)。さらにはWEBで閲覧できる図書を拡大するなど、読書をすることで読解力や想像力を磨いてもらうことを目的としています。

※近畿大学プレスリリースより

私が感銘を受けたのは、書籍の宅配サービスです。

オンライン授業や課題提出型授業が中心となる中、学生からはこんな不満が出ています。

課題図書を読んで感想文を書け、という課題が出た。でも、大学図書館は閉鎖。公立図書館も閉鎖。書店も閉まっているところが多い。これでどうやって課題を出せ、と言うの?

※複数の学生Twitterを編集

書籍の宅配サービスやWEB閲覧可能な図書の拡大など、コロナショックという制約下にあっても、できることをやろうとする近畿大学の姿勢は他大学の参考にもなるのではないでしょうか。

お金がない、人手も足りない、政府が悪い。

そう批判するのは簡単です。

しかし、そうした批判だけでは学生は救われません。

オンライン授業で苦労をしていても、大学入構の禁止が続いていても、お金がなくても、学生に寄り添える大学か、そうではない大学か。

このコロナショックでは、そうした差が如実に現れる、と感じました。

さて、皆さんの大学はどうでしょうか。

追記(2020年5月1日・加筆修正)

・文中の一律給付の大学について、「その2」と「その3」が重複しておりましたので修正しました。

・立命館大学について、文中で一律給付の額を「5万円」としていましたが、正しくは「3万円」でしたので修正しました。関係者の方にお詫びするとともに、ご指摘いただいた、佐竹様、ぎゃばん様、ありがとうございました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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