Yahoo!ニュース

コロナの影響でマイナビ・ディスコも合説中止~企業・学生は困惑と冷静に二分

石渡嶺司大学ジャーナリスト
合説のブースに集まる学生(2018年、著者撮影)。今年はこの光景が消える?

◆リクナビに続きマイナビ・ディスコも中止

新型コロナウイルスの影響は就活にも強く出るようになりました。

2月20日、リクナビは2月22日~3月31日の合同説明会中止を発表しました。本日、2月26日、マイナビは3月1日~3月15日の合同説明会について中止・延期を発表しました。

マイナビだけでなくディスコ(キャリタスナビを運営)も3月1日~3月15日の合同説明会中止を発表。

リクナビ、マイナビ、ディスコはどちらも就職情報会社の大手です。その大手3社が合同説明会を一定期間、中止としたのは過去にありません。

2011年の東日本大震災時は広報解禁が3年生10月1日(選考解禁は4月1日)ですでに合同説明会は実施済み。選考を遅らせる企業があった程度です。

それ以外だと、新型インフルエンザ(2009年)の影響でマイナビが神戸会場の合同説明会を中止とした例もありました。ただ、こちらも就活シーズンから外れた時期であり、かつ、小規模なものだったため、影響はそれほどありませんでした。

今年は2月26日時点で大手3社の合同説明会が中止となったわけで、前代未聞の事態とも言えます。

◆企業側の反応は意外と冷静

ただ、採用担当者の受け止め方はそこまで深刻なものではありません。

「これが去年の秋とか、今年の1月あたりで中止となっていたら、相当、苦しいところでした。でも、3月ならそれほど実害はないので、『ああ、そうか』という程度」(機械)

なぜ、冷めた反応か、と言えば、就活スケジュールの変化が背景にあります。

今年(2021年卒)の選考スケジュールは政府主導の策定により、3月1日広報解禁、6月1日選考解禁となっています。

ただし、これはあくまでも目安であり、法制化したものでもなく、罰則も特にありません。

そのため、3年生の夏・秋ごろからインターンシップが始まり、続いて秋・冬にまたインターンシップ(大半は1日インターンシップ)を実施。これが実質的には会社説明会となり、選考を始める企業も。

と言って、選考時期が一期のみというわけではなく数期に分ける企業がここ数年、増加しています。私はこれを「採用時期の分割化」と呼んでいますが、言い方を変えればこれは「通年採用」です。

つまり、前倒し傾向が強いわけです。

そうなると、2019年(3年生)秋から今年2020年1月・2月にかけて、インターンシップや関連の合同説明会が多数開催されていきます。

名目上はインターンシップ合同説明会ですとか、業界研究フェアですが、いずれも実質的には3月以前に合同説明会が多数、開催されているのです。

早く動く学生は当然ながら、こうした合同説明会に参加して、業界や企業を選定しています。そのため、3月1日の広報解禁日の合同説明会に参加する必然性はそこまでないのです。

◆2016年から半減「どうせガラガラだし」がホンネ

実際に、私も広報解禁日の合同説明会を見学すると年を追うごとに参加者が減っています。

そこで新聞記事を検索したところ、ほぼ半減していることが明らかになりました。

3月1日に大阪ではインテックス大阪で大規模な合同説明会が開催されます。主催企業はリクナビ、マイナビが交互で開催していますが、参加企業などの規模は例年、ほぼ同じ。

2016年は2日間で「約4万人の見込み」(2016年3月2日朝日新聞朝刊)。

これが2019年には2日間で「学生約1万6千人の参加を見込む」(2019年3月2日産経新聞朝刊)。

3月1日と2日とでは参加者数が違うでしょうけど、仮に同数だったとして、2016年は2万人。それが2019年には8000人にまで減少しているわけです。

これは大阪だけでなく、東京や他の地域でも同じです。

「3月合説は年々、集客できなくなってきている。どうせガラガラになるのだし、だったら中止してもいいじゃないか、と考えたのではないか」(印刷)

◆中小企業合説は実施が多数

リクナビ、マイナビ、ディスコ(キャリタスナビ)が中止を発表する一方、あさがくナビは2月26日18時現在、中止を発表していません。

あさがくナビを運営する学情は、

株式会社学情では、新卒学生向けのイベントの開催について、国内の感染状況などを注視し、対応について日々検討をしておりますが、

就職活動という人生における大切な機会を奪うことのないようするため、万全の体制で実施いたします。

とのプレスリリースを発表しました。

一方、ブンナビ(文化放送キャリアパートナーズ)は3月4日開催予定の合説を中止。

ダイヤモンドナビ(ダイヤモンドヒューマンリソース)は3月4日開催予定だった合説を4月12日に延期。

中小企業合同説明会も対応に苦慮しています。

ただでさえ大手企業や学生の動きが早い中で、合同説明会を開催しないと企業をアピールする機会が失われます。

2月26日時点では大半の中小企業合説が開催の見込みです。

なお、複数回参加だと、はりまっち(兵庫県播磨地区)の合同説明会が「合同説明会6回参加・各回5社以上参加」で2万円の就活支援金支給、というのが最大でした。

2月26日開催分から6回なので、これから参加する学生は2万円は無理でしょう。ただ、2月28日~3月31日開催の残り5回のうち、4回出ると1万円が支給されるようです。

◆マイナビ、ウエブ合説で独り勝ち

3月合説が徐々に集客できなくなる中、マイナビは2017年から「マイナビ就職WEBEXPO」を展開しています。

これは名称にある通り、ネット上の合同説明会です。

今年は3月1日の10時~21時に開催。

マイナビWEB合説のトップページ。食事しながら視聴する写真を出すことで手軽さをアピール
マイナビWEB合説のトップページ。食事しながら視聴する写真を出すことで手軽さをアピール

学生は場所がどこであれ、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなど視聴可能な機器があれば参加できます。

事前予約制で予定数に達した人気企業は視聴できません。ただし、生配信後にアーカイブを視聴することはできます。

生配信で視聴する学生はチャット機能で質問もできますし、採用担当者もそれに答えられます。

マイナビはこのWEB合説をインターンシップ時期からすでに2019年10月27日から2月1日まで4回開催しています。

一方、WEB合説をリクナビやキャリタスナビなどは展開していません。

「大規模合説が開催されず、学内合説や自治体主催の合説も続々と中止が決まっている。となると、あとは中小企業が中心の合説か、個別の企業説明会・セミナーを回るしかない。その点、WEB合説は企業にとっても学生にとってもどちらもメリットがある。例年以上に視聴学生が増えるのではないか」

こう話すのは、首都圏私立大学のキャリアセンター職員。

一方、悔しがるのは、土壇場でマイナビWEB合説の参加をやめた採用担当者(小売)です。

「マイナビの営業がもってきた資料だと、視聴者数は2月以前が平均500人前後。3月1日でも平均1200人。あくまでも平均だから不人気業界のうちだと、下手すれば数十人ということもあり得る。それで通常の合説と変わらない金額。高すぎる、という判断で結局、申し込みをやめた。が、続々と合説が中止している今年は別。視聴者数は昨年平均の数倍、あるいはもっと行くだろう。状況を見誤った」

この採用担当者氏の話、まだ続きがあります。

「リクナビが合説を中止してからマイナビの営業担当者が来て、また、WEB合説やセミナーをプッシュしていった。はっきりとは言わないが『ほらー、早く申し込んでくれればよかったのに』と言わんばかりの対応がなんかイラっとする。が、そうも言っていられず、WEBセミナーを申し込んだ。リクナビなど他の就職情報会社はマイナビほど、WEB合説・セミナーや面接に力を入れていない。今年はマイナビの独り勝ちになるのでは?」

マイナビはWEB合説は4月11日にも開催します。2019年は開催せず、2018年は実施。つまり、それほど視聴者数が伸びなかったからなのですが、今年は相当、伸びそうです。

◆説明会も続々中止だが学生の反応は真っ二つ

合同説明会だけでなく、説明会も三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほ銀行、NTT、シチズン時計、大和ハウス工業など中止を発表する企業が相次いでいます。

こうした状況を受けて、就活生は全員が困っているだろう、と思いきや、その反応はきれいに分かれました。

まずは困惑派から。

「これから就活を始めるところだったので合同説明会やセミナーが中止、というのは困ります。これからどうなるのか…」(明治大学・男子)

「企業を知る機会が失われるので、どうしたらいいのか、わかりません」(新潟大学・女子)

一方、冷静な学生も。

「もう2月中に業界や企業はすでに絞り込み済み。あとは選考を受けるだけだったから、合同説明会やセミナーが中止になっても、それほど実害はない」(早稲田大学・女子)

「志望企業からセミナー中止の連絡が来ました。ただ、この企業の話、すでに去年夏のインターンシップである程度聞いているので、中止でも構いません。選考時期が変わっても、その期間にできることをやっておこうと思います」(広島大学・女子)

中にはこんな意見もありました。

「実はもう内々定を2社貰っています。本命企業は合説中止でスケジュールが変わりそうですが、それほど慌てなくても、という程度」(一橋大学・男子)

学生の反応が分かれるのは就活が進んでいるかどうか。

まだ、進んでいない学生は合説やセミナーの中止で大きな影響を受けます。

一方、就活が進んでいる学生やすでに内々定を得ている学生は、それほど影響を受けません。

この個人差が学生の反応の違いにもつながっているようです。

◆選考スケジュールはやや変化か?

今年の就活に話を戻すと、前記の通り、選考時期を分割する企業が多数を占めつつあります。その選考時期を数期に分けるにしても、オリンピック・パラリンピックの影響で6月中には一度、採用活動を終了させたい、とする企業が多数でした。

では、この新型コロナウイルスの影響で選考スケジュールは変わるのでしょうか。取材すると、影響は若干、ありそうです。

「基本的には同じで変更はない」(専門商社)

「実はすでに選考を始めている。そのため、合説中止などはそれほど影響しない」(外食)

「内々定まで出している採用時期は影響がない。これから選考を始める予定だった採用時期だとスケジュールがタイトになりそうだ」(専門商社)

まとめると、6月中に一度、内々定出しまで行く予定は大きくは変わらなさそうです。

ただし、選考スケジュールは変化します。

「WEB面接を導入することにした」(小売)

「面接はじっくり話す予定だったが、スケジュールが詰め詰めになる以上、短くするしかない」(IT)

「ゴールデンウィークは休む予定だったが、選考を何日か入れるかもしれない」(機械)

前例のない、合説中止。企業も就活生も、それぞれの方向性が問われることになりそうです。

追記(2020年2月26日19時15分)

マイナビに続き、ディスコ(キャリタスナビを運営)も中止を発表しました。記事執筆時点では把握していなかったため、該当部分を加筆修正しました。

追記(2020年2月27日11時)

記事公開の翌日にブンナビ、ダイヤモンドナビがそれぞれ、合説の中止・延期を発表しましたので、記事該当部分を加筆修正しました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

教育・人事関係者が知っておきたい関連記事スクラップ帳

税込550円/月初月無料投稿頻度:月10回程度(不定期)

この有料記事は2つのコンテンツに分かれます。【関連記事スクラップ】全国紙6紙朝刊から、関連記事をスクラップ。日によって解説を加筆します。更新は休刊日以外毎日を予定。【お題だけ勝手に貰って解説】新聞等の就活相談・教育相談記事などからお題をそれぞれ人事担当者向け・教育担当者向けに背景などを解説していきます。月2~4回程度を予定。それぞれ、大学・教育・就活・キャリア取材歴19年の著者がお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

石渡嶺司の最近の記事