専業主婦の終わりの始まり?~ポスト記事「無職の専業主婦」が注目される

掃除機をかける主婦(イメージ写真)。専業主婦は消滅職種となる?(ペイレスイメージズ/アフロ)

週刊ポスト記事「無職の専業主婦」が注目される

週刊ポスト2019年5月3・10日号の「働く女性の声を受け『無職の専業主婦』の年金半額案も検討される」記事は当初、全く反響がありませんでした。

ところが、5月5日、マネーポストWEB記事としてYahoo!ニュースにも配信されると、一気に反響が出ます。

記事中にある「無職の専業主婦」が大きく注目されたようです。

本来なら無職と専業主婦は別なのですが、週刊ポスト記者は何の意図あって、一緒としたのでしょうか。そのあたりは不明ですが、パワーワードとなったことは確かです。

話題となった理由としては3点ほどあります。

1点目は「無職の専業主婦」というワードが家事育児を軽視するニュアンスがあるのではないか、という点。

2点目は、専業主婦は年金を払っていないのは不公平、という不公平論。

3点目は、専業主婦という職種は今後どうなるのか、という点。

本稿では2・3点目について取り上げたいと思います。

不公平論は国民年金への誤解が元

週刊ポスト/マネーポストWEB記事には

「第3号については共稼ぎの妻や働く独身女性などから『保険料を負担せずに年金受給は不公平』という不満が根強くあり、政府は男女共同参画基本計画で〈第3号被保険者を縮小していく〉と閣議決定し、国策として妻たちからなんとかして保険料を徴収する作戦を進めている」

とあります。

記事にある第3号とは、国民年金第3号被保険者を指します。

国民年金の加入者は3区分あり、第1被保険者は自営業・農漁業などが中心。第2被保険者は会社員、公務員です。そして第3被保険者は「第2号被保険者の被扶養配偶者」(国民年金法)と定められおり、実質的には専業主婦の女性が99%を占めます。

この第3号被保険者という区分は国民年金法が制定された1959年当時からあったわけではありません。歴史は意外と浅く、1985年の公的年金制度改正時にできています。

それまで専業主婦は、国民年金への任意加入制度があり、約7割が加入していた。未加入者はこのままでは無年金になる恐れがあった。

このため、「婦人の年金権を確立する」ことを狙いに、収入が一定額までの配偶者については保険料を負担せずとも、第2号被保険者全体の保険料で年金が受けられるようにした。

※読売新聞朝刊2015年9月12日「1980年代(22) 女性(下)仕事と家庭 両立に壁」

公的年金制度の大改正から2年後の1987年には配偶者特別控除制度が創設されます。

専業主婦が年収を130万円未満に抑えていれば、社会保険料の負担なく夫(第2号被保険者)本人と同じ医療を受けられます。

ここにいわゆる「130万円の壁」ができました。

第3号被保険者の区分、配偶者特別控除制度、それぞれ、低所得の女性を保護する、という観点ではいい制度です。

しかし、一方ではできた当初から批判があり、配偶者特別控除制度については、1987年、全国婦人税理士連盟(現・全国女性税理士連盟)は「高まりつつある女性の社会進出の意欲を減退させる」、「時代に逆行するもの」(読売新聞記事)と反対しています。

第3号被保険者区分についても、批判はできてから現在までずっと続いています。

1994年には女性グループが社会保険庁に対して第3号被保険者区分の見直しを申し入れています(毎日新聞朝刊1994年11月4日記事「『第3号被保険者』女性の間に反発、批判 おかしい『結婚・退職=被扶養者』」)。

本題は社会保険庁の作成した年金パンフレットがおかしい、というものなのですが、第3号被保険者区分についても、

「当事者による保険料の負担がなく、共働き、単身者、自営業者などの人々にとっては不公平」

としています。

その後も第3号被保険者区分への批判は「専業主婦は社会保険にタダ乗りしている」との批判が付きまとい、現在に至っています。

このタダ乗り批判、第1号被保険者区分、つまり、自営業者と比較すれば確かにその通りです。

その通りなんですが、第3号被保険者は第2号被保険者、つまり配偶者が第3号被保険者の分も含めて保険料を支払っています。

まとめますと、

第1号被保険者…個人単位/世帯単位ではない/自営業者の妻も保険料を払う

第3号被保険者…世帯単位/第2号被保険者が世帯分の保険料を支払っている/保険料を支払う必要はない

となります。

比較対象が個人単位・世帯単位と別物であって、第3号被保険者たる専業主婦について「保険料を払わずにタダ乗りしている」との批判は論点がずれています。

専業主婦の年金減額策は2015年から

論点がずれているにもかかわらず、第3号被保険者区分への批判はずっと付きまとってきました。

それもあって、政府は2015年、第4次男女共同参画基本計画を閣議決定します。

この中で、第3号被保険者区分については、次のように明記しています。

「社会保障制度について、平成 28 年 10 月からの短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大を着実に実施するとともに、更なる被用者保 険の適用拡大を進めていく中で第3号被保険者を縮小していく方向 で検討を進める」

週刊ポスト/マネーポストWEB記事もこの男女共同参画基本計画に触れています。なお、男女共同参画基本計画にある「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大」は厚生年金の適用要件緩和(2016年/平成28年の年金法改正)です。これにより、パート主婦が厚生年金に加入するようになりました。

では、なぜ専業主婦に対する年金減額策が進められているのでしょうか。

背景には安倍内閣が進めるウーマノミクスがあります。もっと言いますと、専業主婦を大幅に減らして兼業世帯を増やそうとする施策の一環、と私は見ています。

教育費に医療費、親の介護費などはいずれも高騰を続けています。

配偶者1人でカバーできるほどの所得があればいいのですが、そんな高所得のビジネスマンなど、一握りです。

家計を支えられる世帯を増やすためには、現状以上に兼業の世帯を増やす必要があります。

そのためには、専業主婦が99%を占める第3号被保険者区分を変える(要するに年金の減額)ことでこれから結婚しようとする女性に対して「専業主婦は損」「兼業の方が家計を支えられる」と意識させようとしているのではないでしょうか。

専業主婦は戦後の産物

家事・育児労働の是非や第3号区分の縮小の是非はおくとして、現代における専業主婦とは、私は相当なリスクがあるもの、と考えます。

そもそも専業主婦は戦後の一時期に急増したにすぎません。

パオロ・マッツアリーノ『歴史の「普通」ってなんですか?~忘れられた庶民の伝統』(ベスト新書、2018年)は第1章が「保育園と共働きはなぜ憎まれるのか」。パオロ氏は歴史文献やデータを丁寧に積み上げていく名コラムニストで私もファンなのですが、同書も、パオロ氏のデータがさえわたっています。同書の中でパオロ氏は共働き世帯について1980年代だけ多かった、それより前は少ないのでは、と仮説を立てています。

専業主婦世帯と共働き世帯の推移(1980年~2018年)/独立行政法人労働政策研究・研修機構サイトより/1980年と2018年とでは共働き世帯・専業主婦世帯が逆転している
専業主婦世帯と共働き世帯の推移(1980年~2018年)/独立行政法人労働政策研究・研修機構サイトより/1980年と2018年とでは共働き世帯・専業主婦世帯が逆転している

本稿でも提示している独立行政法人労働政策研究・研修機構の「専業主婦世帯と共働き世帯の比較」は古くて1980年です。それ以前はこの統計は取られていません。

パオロ氏は昭和30年~昭和60年の国勢調査から出した女性労働力率の変動データに注目。ここから

一九七五年から八〇年あたりの時期だけが、たまたま共働きの少なかった時代

と指摘しています。

私は専業主婦が増えたのは戦後の1950年代からと見ています。

理由は短大の卒業者データ。学校基本調査によると、1954年の卒業者中、30.8%が進学・就職に該当しない「無業者」「不詳」でした。短大を卒業しても就職できなかった、というわけではありません。当時は短大を卒業してすぐ結婚、という女子学生が多かったからです。

これは戦後の一時的なものではなく、その後も続きます。短大卒業者に占める「無業者」「不詳」の割合は1958年の38.2%をピークに下がりますが、それでも1962年までは30%台、1980年までは20%台という高い割合が続きます。

もちろん、時代の変化につれて、就職・進学をせず、すぐ結婚して専業主婦、という卒業生は減っているでしょう。が、ある程度の割合が卒業後の結婚を選択していたことが推察できます。

パオロ氏と私とでは時期の若干のズレがありますが、専業主婦の世帯が戦後の一時期に急増したことは確かです。

専業主婦は成立する条件として、家計を支える配偶者が必要です。戦後の高度成長期、会社員の平均給与は増加していきました。これも専業主婦が増加していった一因です。

現代では専業主婦はリスク大

では、現代はどうか、と言えば、専業主婦は本人にとっても世帯にとってもリスクが結構あります。具体的には4点。

その1:年収

国税庁の民間給与実態統計調査によると、2017年の平均給与は432万円(男性532万円)。リーマンショック後の2009年と比較すると持ち直してはいます。が、1997年の同調査は平均467万円(男性577万円)。伸びているわけではありません。

その2:配偶者のリストラ・給与カット

配偶者の勤務先が倒産ないしリストラのリスクは戦後よりも現代の方がはるかに高いです。それから倒産・リストラまで行かなくても、給与カットやパワハラ等の理由で退職、無職となる可能性は当然ながらあります。

その3:離婚(死別を含む)

白河桃子『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書、2014年)では「3組に1組が離婚する日本ですが、6割が子どもがいて離婚しています。そして8割が養育費をもらっていません」と指摘しています。

2014年刊行の同書は2011年刊行本に加筆修正したものですが、このデータは2019年現在も大きく変わっているわけではありません。

なお、離婚リスクと似たところでは死別のリスクもあります。

その4:専業主婦からの再就職の難しさ

離婚にしろ、配偶者のリストラ・給与カットにしろ、それなら専業主婦が再就職すればいいではないか、となるかもしれません。が、専業主婦から正社員に再就職するのが難しいのは転職業界の常識となっています。

よほど、配偶者が高所得者で、専業主婦となっても上記のリスクに耐えられるだけの貯蓄・資産があれば問題ないでしょう。

が、そこまで裕福な方、というのはきわめて少数であることは言うまでもありません。

専業主婦の終わりの始まりか

一方で、共働きの女性を支援する政策は次々と進められています。

2018年には東京都がベビーシッターの補助を発表しました。

「待機児童を抱える保護者が働く場合、ベビーシッター利用料を月28万円を上限に補助する。期間は子どもの保育所への入所が決まるまでで、所得制限は設けない」(時事通信2018年5月22日記事)で、東京都以外でも都市部を中心にベビーシッター利用補助や保育所の拡充が進んでいます。

経済的な合理性があって、子育て支援策も充実していれば、女性がキャリアを選択するにあたって、専業主婦を選択する意味は薄れてきます。

社会保障や労働問題の専門家である永瀬伸子・お茶の水女子大学基幹研究院教授は「エコノミスト」2019年1月22日号記事「〔本誌版「社会保障制度審」〕第30回 非正規のキャリア阻む「第3号」制度 改正で低賃金と少子化克服を」で次のように指摘しています。

子育て期は、サラリーマンの被扶養配偶主婦にとどめず、シングルマザー等を含め、社会全体で社会的保護をする仕組みを拡充すべきであり、また前回述べたように、特に非正規雇用層への支援を拡充すべきだ。また人生100年時代に対応するためには、有収入者は原則社会保険料の納付を前提とした上で、子育て期間には社会が十分に配慮し、保険料納付は給付に反映する。低収入雇用者への再分配も改めて拡充が求められる。

 共働き社会の実現には、転勤や長時間労働を前提とし、仕事を持つ女性がそのキャリアの途上で出産することを罰する雇用慣行の変革も同時に必要である。簡単ではないが、女性や高齢者の労働力を生かす必要がある日本の人口構造を考えれば避けて通れないことである。

「無職の専業主婦」が物議を醸しましたが、令和時代は専業主婦の終わりの始まり、となるかもしれません。