就活生も大学も炎上リスクゼロで得するSNS~桃山学院大学の挑戦

桃山学院大学キャリアセンターの相談ブース(著者撮影)

SNSを利用する学生も就活では使わず

今や、LINEにインスタグラムにFacebook、TwitterなどSNSを全く利用しない学生はほぼいません。

しかし、こと就活となると、SNSを就活で積極的に利用する学生もまたほぼいません。

学生に広がるSNS疲れに加えて、就活で利用しようにも利用しようがない、というところが現状です。

後述しますが、かつて一瞬だけSNSを就活で利用する「ソー活」が盛り上がりました。

しかし、2017年現在では、採用Facebookページを設ける企業が多数ありますが、それ以上の展開は特にありません。

むしろ、ネット、特にSNSについては就活では相性が悪い、と2000年代前半から言われ続け、現在でも、同様の批判は根強くあります。

そんな中、SNSをあえて積極的に利用しようとする大学が登場しました。

2000年代は「SNS=炎上=ネガティブチェック」

その前に、ネット・SNSと就活の関連性とその歴史についてまとめていきます。

1990年代後半に就活ナビが登場、ネットの普及と合わせて、就活市場にITが導入されます。

就活市場でネットは急速に広まっていきますが、その反面、大学側などからは拒否反応がありました。

『青鴎』2005年秋号「IT時代における就職活動のポイント」にはこうあります。なお、同誌は東海大学の学園誌『望星』の増刊号です。

※「鴎」は正しくは印刷標準字体

資料請求やエントリーが、早い段階からできるようになったため、とりあえずエントリーだけをして安心感を得てしまう学生が増えている。

(中略)

学園では、対面式で、人と人とのコミュニケーションを重視したさまざまな施策を展開している。

(中略)

就職活動を軌道に乗せるには、一日も早く就職課を訪れるべきだろう。

「IT時代の」と言いつつ、対面でのコミュニケーションが重要、と記事では説いています。

一方、SNSが普及するにしたがって、ネガティブな書き込みが炎上。それがもとで内定辞退に追い込まれる学生が2000年代半ばごろから目立つようになります。

ディズニーランドを高校生料金で入場したとミクシィでコメントした首都圏私大生、レイプ事件について擁護コメントをした首都圏私大生、キセル乗車を自慢した国立大生など、いずれも内定取り消し、または内定辞退に追い込まれたものと思われます。

付言すると、大学名と事件(または関連のキーワード)を合わせて検索すると、いまだに炎上した学生の個人名が出てしまいます。

※本稿では、過去の炎上事件について、当事者を非難することが目的でないため、該当大学、内定先等についてはあえて記載していません

2010年ごろまでは、ミクシィかTwitterでの書き込みがもとで炎上する、というパターンでした。

それが2011年ごろからおバカ写真(コンビニの冷蔵庫に寝そべる、など)がもとで炎上する、というパターンに変化していきます。

どちらにしても、SNSへの本人による書き込みがもととなっています。そのため、世間、特に社会人の間では「SNS=炎上=怖い」というイメージが醸成されていきました。

2010年「ソー活」の登場~Twitter・facebookの活用進む

2010年~2012年には、炎上・ネガティブチック一辺倒だったSNSが就活市場で脚光を集めます。いわゆる「ソー活」です。

最初のエントリーや説明会の予約などから内定までの過程を自社のホームページとフェイスブックで行う、通称「ソー活」だ。

※『エコノミスト』2011年11月8日号「グローバル化と『ソー活』が新しい流れ、『就活格差』は広がる」

企業と学生が双方、SNS(当時はFacebookかTwitter)でコミュニケーションを取りながら選考を進める手法は、ECナビが2011年卒で導入(2009年10月ごろから開始)しました。

Twitterで「社内見学ツアー」参加者を募集

10人以上のフォロアーがいることが条件

※『人事実務』2012年8月号「『ソー活』『SNS採用』の現状と行方」

その後、サイバーエージェントが追加募集をTwitterで告知、応募も許可することが話題になりました。

翌年、2010年(2012年卒)ではサイバーエージェント、トレンダーズがFacebook枠を設け、こちらも話題に。

2011年1月には、リクルートが「2011年のトレンド予測」の中でSNS利用の採用手法について「ソー活」という造語を登場させます。

2010年6月には『Twitter就活』(増永寛之、ダイヤモンド社)、2011年7月には『Facebookで就活に成功する本』(高橋暁子、自由国民社)『Facebook1000%就活・転職マニュアル』(メディアボーイ)が刊行されるなどしました。

2010年刊行の『Twitter就活』表紙写真(著者撮影)。「内定なう」の時代が来た、とあるが、2017年10月4日現在、「内定なう」の書き込み(2017年1月~10月)は28件のみ。
2010年刊行の『Twitter就活』表紙写真(著者撮影)。「内定なう」の時代が来た、とあるが、2017年10月4日現在、「内定なう」の書き込み(2017年1月~10月)は28件のみ。

背景には、就職ナビサイトへの手詰まり感に加えて、リーマンショックの影響による就職氷河期への変化、さらに、「SNSユーザー=情報感度が高く、新しい技術に積極的な学生」(『人事実務』記事より)という図式が成立していました。

SNSと言えばスマホですが、マイナビの「大学生のライフスタイル調査」によると、2011年卒ではスマホ所有率は5.5%。2012年卒(調査期間は2010年11月)では16.4%にすぎませんでした。

なるほど、SNS利用の学生が情報感度は高い、との図式が成り立ちます。

かくて、優秀な学生を採用したい企業からすれば、SNS利用・ソー活は使える、ということで一気に盛り上がります。

ああっという間にすたれた「ソー活」

ところが、このソー活、2012年ごろには、ああっという間にすたれてしまいました。

後述しますが、採用Facebookページを設ける企業は2011年ごろから増加、現在も設ける企業は少なくありません。

しかし、選考手法にFacebook・TwitterなどSNSを利用する、という意味でのソー活は下火となってしまいました。

2017年現在、「ソー活」は、一部のIT企業が利用する程度にとどまっています。

『人事実務』2012年8月号記事には、こうあります。

2013年卒採用になると、SNSユーザー層は徐々にマス化し始めた。それによりターゲットリクルーティングとしての効果は薄れ始め、この採用手法は下火となっていった。前年「Facebook枠」採用を行ったサイバーエージェントもトレンダーズも、今年は実施していない。代わって広がったのが、企業(採用)Facebookページの開設だ。(中略)

Facebookページ上の学生のアクションは「いいね!」ボタンを押すことが中心だ。企業(人事)の書き込みに対して、コメントを付ける学生はきわめて少ない。コメントを付けたとしても、感謝の言葉などの挨拶程度で、自分の考えや意見を書き込む学生は、ほぼ皆無といえる。こうした姿勢は、実は企業側も同様だ。本音をさらけ出すような突っ込んだ内容を書くことはほとんどない。

(中略)

日本では、SNS上のパブリック・コミュニケーションに対するノウハウや経験が少ない。そうしたなかで、生身をさらけ出し合うのは、学生・企業双方にとってハードルが高かったようだ。

2012年の記事ですが、「ハードルが高い」という事情は2017年現在にも通じる話です。

スマホの急激な普及、変わらないコミュニケーション

『人事労務』記事にある「マス化」をもう少し、ご説明すると、スマホの普及が進んだことを意味します。

マイナビの「大学生のライフスタイル調査」によると、2011年卒ではスマホ所有率は5.5%。2012年卒は16.4%だったものが、2013年卒は59.3%、2014年卒は83.9%と急増。2017年卒では97.4%と今やスマホを所有していない学生の方が珍しいくらいになりました。

スマホ所有率
スマホ所有率

※マイナビ「大学生のライフスタイル調査」から著者が作成

当然ながら、それだけSNSを使いこなすわけで、「SNSで人と交流することに疲れたと感じることはあるか」という問いには、「(時々+よく)ある」と回答した割合は、43.9%と半数近くを占めるまでに至っています(男子37.0%、女子52.7%)。

スマホ・SNS利用が急激に進む一方、変わらない部分もありました。それはコミュニケーションです。

就活におけるコミュニケーションは、学生同士のものだけでなく、採用担当者対学生のものでもあります。その採用担当者がどう考えるかによって、事情は大きく変わります。

たとえば、『Twitter就活』には、Twitterがゆるいメディアである側面もある、とする反面、「オープンなつぶやきは面接のうち」「毎日の行動をつぶやく」ともしています。

さらに、「受けている会社はオープンにして大丈夫」とも書いていますが、これを否定的にみる採用担当者は少なくありません。

「どこを受けたとか、そういうのは面接で話してくれればいい。あるいはなさなくてもいい。それをTwitterでつぶやく、オープンにする、というのは情報管理の危機意識が低すぎる。怖くて採用できない」

どこまでオープンにしていいかどうか、これは採用担当者や企業の考え方によって大きく変わります。公式などあるものではなく、人対人のコミュニケーションによるものです。

このあたりの事情は就活全般にも言えます。いくら、SNSが普及したところで、本音ベースの話は、学生も企業もオープンにはしづらいところ。

こうした曖昧さも、ソー活は読み取れなかったからこそ、衰退していったのでしょう。

桃山学院大学、SNSを就活生に導入

2017年10月4日、桃山学院大学はSNSを就活生に導入することを発表しました。

桃山学院大学にて(著者撮影)
桃山学院大学にて(著者撮影)

炎上リスクが恐れられ、ソー活ともてはやされたのも遠い昔となったSNS。

それをいまさら、なぜ導入するのか、そこにはしたたかな戦略がありました。

導入するSNSはEDGE株式会社において、企業向けSNS「エアリー」として展開するの新ラインナップです。

このSNSを大学向けにカスタマイズした「Airy for Campus」(以下、エアリーと略)として展開、その第一号が桃山学院大学なのです。

内定者SNSは、企業が内定者(学生)に書き込みを推奨。内定者研修の課題についても、この内定者SNSで展開します。

FacebookやLINEのグループでもできそうですが、内定者SNSのメリットは、学生の書き込み履歴を利用企業が管理できる点にあります。

つまり、書き込みが少ない、課題提出も遅れ気味などの履歴を利用企業側は明確にわかります。書き込みが少なければ、学生はそれだけ内定企業への思い入れが薄れていることを意味します。

利用企業からすれば、その内定者を早めにフォローするなり、追加募集の準備をするなど、早めに対策を考えることができます。

そのため、FacebookやLINEであれば無料でできるところを、有料であっても利用しようとする企業が増加。

「導入企業はこれまで3000社以上を超え、内定者SNSの先駆け、かつ、国内トップを自負しております」(佐原資寛社長)

この内定者SNSを桃山学院大学は就活生に対して導入しようとしています。

「SNS活用で学生同士の切磋琢磨を期待」

桃山学院大学キャリアセンター事務課でエアリーを担当する堀井由貴恵さんは、次のように話します。

「まず利用してもらうのは、本学の就活塾生に対してです。就活塾は早期に就活を準備したい、とする3年生が対象です。自己分析や業界研究など就活塾生のみの講座・セミナーを展開しています。この就活塾の学生にひとまず利用してもらい、いずれは全学の学生に利用してもらうことを考えています」

就活塾の学生は言うまでもなく、これから就活を迎える学生であって内定者ではありません。

では、なぜ、元が内定者SNSだったエアリーを導入するのでしょうか。

「就活塾の学生は内定者ではありませんが、このエアリーの機能は就活支援に向いている、と感じました。このエアリーを利用することで具体的には講座の告知、それから、講座前の意気込み、講座終了後の感想を提出してもらう予定です」(堀井さん)

就活塾と同様の取り組みは桃山学院大学だけでなく、他大学でも展開しています。それから、似たところではキャリア講義、というものもあります。

講義終了後に感想文を提出するのも他大学ではよくある話です。

これによって学生の文章力を上げようとするのも他大学の取り組みの目的でよくある話です。

では、この桃山学院大学の目論見はよくある話か、実は意外な効用が隠されていました。

「学生の文章力アップが重要である点は他大学と変わりません。では、なぜ、エアリーを導入するか、と言えば、他大学以上に学生の文章力アップを図れるためです。従来の感想文提出だと、学生が感想文を書く、それを担当の教職員が読む、という流れでした。これだと、流れが一方向です。担当の教職員は感想文を相当数読むため、ノウハウが身についていきます。しかし、学生はそうではありません。その点、エアリーだと、学生は感想文を提出するだけでなく、他の学生の感想文を読むこともできます。これまでは担当の教職員にしか蓄積されていなかったノウハウが学生にも蓄積されていくことになります」(堀井さん)

なるほど、文章力を上げる方法は文章を書くだけでなく、読むことも当てはまります。

「SNSを導入する、と言っても、人対人のコミュニケーションが大事であることは言うまでもありません。ネットやSNSはあくまでも『道具』。うまく使いつつ、同じ目的の学生同士で連携を強化していけばコミュニケーション能力も上がっていくのではないでしょうか」

2000年代から現在に至るまで、ネット・SNSはリアルなコミュニケーションとは相反するもの、としてネガティブな見方が大学関係者の間では支配的でした。

桃山学院大学では、この二項対立を飛び越えて、SNSを使いつつ、リアルな人間関係を深めようとしている、という点が新しいと言えます。

「もともと、学内でも一方向のサイトだけでなく、双方向性のSNSを就活支援でも導入したい、との意見がありました。ただ、炎上リスクなどを考えると、躊躇していた部分はあります。その点、エアリーだと学内だけなので、炎上リスクはゼロですし、効果も期待できます。今は売り手市場と言っても、採用の難易度自体は変わっていません。学生同士で情報を共有し、もっとコミュニケーションを取るためにも、このエアリーは有効、と判断して導入を決めました」(堀井さん)

ポータルサイトより安く「億単位での節約も可能」

エアリーの優れている点は学生同士がコミュニケーションを取れるだけではありません。利用する大学の教職員と学生、あるいは教職員同士もコミュニケーションを取ることができます。

当然ながら、教職員側からイベント・講座などの告知をすることもできます。

告知、という点では、どの大学でもポータルサイトを開設、運営しています。

ただし、学生からすれば、ポータルサイトを積極的に利用するか、と言えばそうではありません。流れは「大学→学生」の一方向ですし、単なる告知を毎日チェックする学生もそうそういないでしょう。

そのため、

「一応、ポータルサイトはあるが、利用する学生はほとんどいない」(関東私大・IT部門職員)

のが、実情です。

しかも、このポータルサイト、利用する学生がほぼいないにもかかわらず、少なくない費用がかかります。メンテナンス費用は数千万円から数億円以上。

「大学ごとにカスタマイズされているとは言え、順送り人事でITを理解していない職員も多い。全部、とは言わないが、ボラレている大学も正直ある」(IT企業担当者)

その点、エアリーだと、一方向のみのコミュニケーションから双方向のコミュニケーションに変わるだけではありません。費用の節約、という副次効果もあります。

「エアリーは1人月625円が基本です。この費用には、メンテナンス費用も含まれています。仮に学生数2万人規模の大学が全学で導入した場合、ポータルサイトだと、初期投資以外にメンテナンス費用だけで年間2億円以上かかるでしょう。それが弊社のエアリーだと、初期投資込みで約1億円。導入後も年1億円以上の差がでてきます」(佐原社長)

なぜ、ここまで差が出るのでしょうか。

「ポータルサイトだと、利用する企業や大学ごとにカスタマイズして、個別にOSの検証もしていく必要があります。どうしてもその費用は高額になってしまいます。その点、弊社のエアリーであれば、エアリーというシステム全体でのメンテナンスになります。システム全体でメンテナンスしていくので、個別の利用企業・大学は相対的に費用負担が軽くなっていきます」(佐原社長)

炎上リスクで危険視され、一瞬だけ採用手法として盛り上がるもすぐに衰退。

これまで、就活市場においてSNSは相性の悪さしか注目されていませんでした。

それがEDGE社の内定者SNS(エアリー)によって、相性の悪さに終止符を打つことになるかもしれません。

すでに導入事例がない段階で、

「首都圏を中心として、全国の大学から問い合わせをいただいています。2018年末までに全国で30校での導入が目標です」(佐原社長)

とのこと。

この桃山学院大学の取り組みが成功すれば、これまでの「ネット・SNSは就活においては人間関係を希薄化させる」との単純な図式が一変します。

ネット・SNSはあくまでも道具、そのうえでリアルな人間関係やコミュニケーション能力を深める、ということが大学の就職支援として可能となります。

導入事例の第一号となった桃山学院大学が今後、エアリーをどう活用していくか、注目したいと思います。(石渡嶺司)