Yahoo!ニュース

受験生が騙される「お化け」資格~取得はホント。では、コスパは?

石渡嶺司大学ジャーナリスト
岡山理科大学獣医学部獣医保健看護学科サイトより。食品衛生監視員が学科の特徴?

ウソでなくても、就職直結というイメージからはほど遠い

世の中には、ウソではないけどホントでもない、という話がよくあります。

消火器販売の、

「消防署の『方』から来ました」

などは、その典型です。

「消防署の方角から来た」という点においてはホント。

しかし、消費者側の、

「消防署の関係者」

というイメージからすればウソ。

消費者が誤解してくれて買ってくれたら、売る側は儲けもの。

こういうの、詐欺とまでは言い切れませんが、と言って、真っ当な商法とも言えないでしょう。

さて、この手の話は大学の宣伝でもそこそこあります。

今回は大学の宣伝の中でも資格についてご紹介します。

資格とは、受験生や一般人の持つイメージからすれば、

「就職に直結している、または就職に有利になるもの」

というところでしょう。

医学部の医師(正確には医師国家試験の受験資格)、看護学部の看護師(正確には看護師国家試験の受験資格)などは資格と就職が結びついています。

それから、日商簿記1・2級などを取得していれば、金融業界も含めて就職でプラス評価を受けます。

一方、趣味に結びついた資格、たとえば時刻表検定とか、歴史能力検定などは、話が別です。

こうした資格は、受検する側は、

「趣味の能力を推し量るもの、就職などとは無関係」

という前提条件を理解したうえで受検しています。

医師、看護師などのような就職に直接結びつく資格、日商簿記などのように就職に有利になる資格、時刻表検定などの趣味系資格のいずれにも当てはまらない資格を一部の大学は宣伝しています。

それも、

「就職に直結している、または就職に有利になるもの」

というイメージで宣伝しておいて、実は、それほど就職に効果がありません。

こういう資格を、私は「お化け」資格と命名しました。要するにコスパがきわめて低いのに、大学が「就職に有利」と宣伝したがる資格です。

あの加計学園が推す食品衛生監視員・管理者

 お友達だったとか、忖度をしたとかされたとかで何かと話題の岡山理科大学獣医学部。

 2018年開設予定ということですでにホームページが出ています。

 獣医学科と獣医保健看護学科の2学科制。さて、獣医学部全体へのツッコミどころが多くて、あまり話題になっていませんが、獣医保健看護学科の「特徴」に気になる一文を発見。

家畜防疫官(国家公務員)、食品衛生監視員・管理者、産業動物獣医看護師として防疫・畜産振興の最前線で即戦力となるVPPを育成します

岡山理科大学獣医保健看護学科サイトより。食品衛生監視員・管理者を学科特徴に挙げているが…
岡山理科大学獣医保健看護学科サイトより。食品衛生監視員・管理者を学科特徴に挙げているが…

この中で「食品衛生監視員・管理者」を「家畜防疫官」「産業動物獣医看護師」と並列の職業として紹介しています。

食品衛生監視員・管理者はどちらも国家資格であり、「取得可能な資格」として紹介されています。

そうか、食品衛生監視員・管理者は、すごい職業なのか。

…。

……。

ところが、食品衛生監視員・管理者は取得可能な動物看護師関連の学科、農学系学科、栄養系学科、理学系学科などほとんどの大学では大きく宣伝していません。

同じ岡山理科大学の理学部臨床生命科学科でも食品衛生監視員・管理者は取得できます。

獣医保健看護学科では目指す職業として紹介していますが、理学部には特になし。

取得可能な資格も、中学校・高等学校教諭1種(理科)と並列で紹介されているだけです。

岡山理科大学理学部臨床生命科学科サイトより。同じ大学の獣医保健看護学科と違い、食品衛生監視員・管理者の扱いは簡素
岡山理科大学理学部臨床生命科学科サイトより。同じ大学の獣医保健看護学科と違い、食品衛生監視員・管理者の扱いは簡素

あの人気漫画にカラクリの答えあり

同じ岡山理科大学でも獣医学部は強調、理学部は軽視。この落差は何なのか、意外なところに答えがありました。

人気漫画『ラブホの上野さん』(博士、上野、メディアファクトリー/2017年7月現在6巻まで刊行)です。

ラブホテルスタッフが恋愛相談に乗る(念のため付言すると、非・18禁)マンガで、2017年には本郷奏多・主演でテレビドラマにもなりました。何でもシーズン2も制作予定とか。

さて、この『ラブホの上野さん』の最新刊6巻の38話が資格について触れています。

この中で、「ラブホスタッフが取ることが多い資格」として食品衛生管理者についても書かれています。

超簡単 講習を受ければ取れるので資格学校なんてありません

マンガに書いている内容は、厚生労働省の説明文にもあります。

食品衛生管理者は、次のいずれかに該当する者でなければなりません。

(1) 医師、歯科医師、薬剤師、獣医師

(2) (大学で)医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学、農芸化学の課程を修めて卒業した者

(3) 都道府県知事の登録を受けた食品衛生管理者の養成施設において所定の課程を修了した者

(4) (関連業務に)3年以上従事し、かつ、都道府県知事の登録を受けた講習会の課程を修了した者

他大学、それから岡山理科大学理学部が食品衛生監視員・管理者をそれほど宣伝していないにも無理ありません。

所定の単位さえ取得すれば、資格も取得できてしまいます。仮に大学に進学していなくても、関連業務の従事者であれば講習を受講するだけで取得可能。

逆に言えば、その程度の資格ということなのです。

私とすれば「お化け」資格の典型。

そのことがよくわかっているからこそ、他大学や岡山理科大学理学部ではそれほど宣伝していないのでしょう。

それをわざわざ宣伝する岡山理科大学獣医学部。

よほど焦ったか、それともアピールポイントがなかったのを無理に作り出したか……。

任用資格の落とし穴

食品衛生管理者・監視員はともに国家資格、かつ、任用資格です。この任用資格が実は「お化け」資格に当てはまりやすいのです。

食品衛生管理者は、食品関連企業などに就職すれば有効となります。一方、食品衛生監視員は、自治体の関連機関など公務員として採用されてはじめて有効となります。

では、公務員として採用されていない場合、食品衛生監視員の資格は役に立つのでしょうか?

残念ながらほぼありません。

公務員として就職できれば有効となるのであれば、公務員就職の実績が優れている必要があるはず。

卒業生のうち、公務員就職者が一定の割合を占めていて、この食品衛生監視員の資格を生かせる職種に就職した、ということであれば、大学の宣伝も真っ当なもの、と言えます。

しかし、公務員就職者が数%しかいない、食品衛生監視員の資格を取得していても生かせる職種に就職していない学生が大半、ということであればどうでしょうか。

「お化け」資格と批判されても致し方ないのでは、と私は考えます。

食品衛生監視員と同じ任用資格で、「お化け」資格としてよく登場するのが社会福祉主事。

社会福祉系学科、医療系学科の一部大学がやたらと宣伝しています。

この社会福祉主事も任用資格。つまり、公務員に就職、福祉関連部署に配属されてはじめて有効となります。

老人ホームなどでごくまれに、社会福祉主事の資格を指定することもなくはありません。

が、社会福祉主事の資格がなくても、社会福祉士を取得していれば採用で損することはほぼないでしょう。

それから、社会福祉系学科で公務員就職がすぐれているのは、福祉の東大こと日本社会事業大学、首都大学東京、大阪市立大学のような公立大学、同志社大学、明治学院大学などのような福祉の伝統校を除けば、それほど多くありません。

大半の福祉系大学・学科だと、公務員就職者は毎年、何人いるか、というレベル。それで「社会福祉主事が取得できます」と宣伝されても、果たして実態がある、と言えるのでしょうか。

卒業証書と同じ扱い?~認定心理士、社会調査士

心理系学科が宣伝しているのが認定心理士。社会系学科が宣伝するのが社会調査士です。

細かい理屈を飛ばすと、どちらも民間資格、かつ、関連学科を卒業すれば取得できます。

取得して、この資格を条件とした就職先があればいいのですが、現状ではほぼ皆無。

心理関連であれば、大学院修了などで受験資格が得られる臨床心理士が必要です。

社会調査を必要とするマスコミなどでも、就職で優遇措置を設けているわけではありません。

結局のところ、どちらも、卒業証書とほぼ同じ。

それを、「取得できる資格」と宣伝されても、おバカならぬお化けも極まれり、と言ったところでしょうか。

北海道・大阪で使えて東京では役立たず?~栄養教諭

2005年に制度化した栄養教諭。学校給食の管理や食育を担当する職業です。この栄養教諭1種を取得できるのが栄養系学科。

前述の食品衛生管理・監視員、社会福祉主事、認定心理士、社会調査と並ぶ「お化け」資格と言えなくもありません。

なぜ、断言できないか、と言うと、この栄養教諭、地域差がありすぎるからです。

栄養教諭の配置状況(2016年度、文部科学省)
栄養教諭の配置状況(2016年度、文部科学省)

文部科学省データから、栄養教諭の配置状況について、ベスト10とワースト10の都道府県をまとめました。

北海道、大阪が400人台を超えているのに対して、鳥取、大分、和歌山、沖縄は40人未満。100人未満の県は東京都(65人)を含む24都府県あります。

配置人数の多い県なら取得後の就職につながる可能性は高いでしょう。一方、少ない県だと就職につながる可能性は低く、「お化け」資格となってしまいます。

単独募集は壊滅状態~高校教諭「情報」

栄養教諭とほぼ同じ状況にあるのが、高校教諭1種(情報)です。

情報系学科などで取得が可能です。

情報は、情報機器の活用を見据えての科目新設でしたが、自治体によって温度差があるのは栄養教諭と同じです。

中野由章・大阪電気通信大学客員准教授のサイト

によると、情報の教諭を一度も採用していないのは北海道、岩手県など14道県。

2018年度採用では16府県・市しか実施せず、うち8府県・市では副免許、つまり、情報以外の教科の免許が必要です。

これで、数学など他教科の教員免許と同じ、とするのは無理があるような。

お化け資格に騙されないために

お化け資格に受験生が騙されないためにはどうすればいいでしょうか。

単に資格が取れる、わー、すごい、だけでなく。

資格取得によって、就職とどうつながるのか。自分のキャリアにどうつながるのか、そのあたりも考えるべきでしょう。

資格が取得できる、というイメージの良さだけで判断してしまうのは進路選択に悪影響がある、と考える次第です。(石渡嶺司)

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

教育・人事関係者が知っておきたい関連記事スクラップ帳

税込550円/月初月無料投稿頻度:月10回程度(不定期)

この有料記事は2つのコンテンツに分かれます。【関連記事スクラップ】全国紙6紙朝刊から、関連記事をスクラップ。日によって解説を加筆します。更新は休刊日以外毎日を予定。【お題だけ勝手に貰って解説】新聞等の就活相談・教育相談記事などからお題をそれぞれ人事担当者向け・教育担当者向けに背景などを解説していきます。月2~4回程度を予定。それぞれ、大学・教育・就活・キャリア取材歴19年の著者がお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

石渡嶺司の最近の記事