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就職氷河期はまた起きるのか売り手市場が続くのか予想してみた

石渡嶺司大学ジャーナリスト
学生でにぎわう龍谷大学大阪オフィス(キャリアセンター)

城繁幸さんの就職状況予想、6年で変わる

「歌は世につれ、世は歌につれ」

と昔から言います。

歌は時代の影響を受けるし、時代はそのあり方や傾向で歌の影響を受けやすいことを意味します。

歌謡曲などはその典型ですし、映画・テレビドラマや書籍にも同じことが言えます。ネットメディア全盛の現代では、このYahoo!個人も含めて、ネット記事についても言えることでしょう。

先週、人材コンサルタントの城繁幸さんがこのYahoo!個人で興味深い記事を掲載されました。

日本で二度と就職氷河期が発生しないワケ

恐らく二度と“就職氷河期世代”がこの国に生まれることはないはずです。

この記事のどこが「歌」か。

「二度と就職氷河期は発生しない」としている城さん、6年前の就職氷河期には真逆のことを言われていました。

たとえ景気がよくなったところで、売り手市場が出現することはグローバルな労働市場で渡り合えるだけの能力とリーダーシップをもった人間だけが、大手企業に正社員として迎え入れられるだろう。

※Voice2011年4月号「『新卒一括採用』という遺物」

同じ時期の対談記事では「温暖期は絶対に来ない」とまで言い切っています。

城 氷河期なのは間違いないですね。二〇〇〇年の氷河期よりもひどい状況だと思います。ただ僕は学生たちに、「氷河期と思うな!」と言っています。つまり「氷河期」という言葉を使うと、また温暖期が来るような気がしてしますが、もう温暖期は絶対に来ませんから。

海老原 永久氷河期だと?

城 ええ、そうです。そしてその原因は「新卒バブルの崩壊」だと考えています。新卒学生が大学の名前だけでグローバル企業に入れた時代はもう来ない。

※中央公論2011年4月号「大激論 超・就職氷河期の真実 日本型雇用がダメなのか大学生がダメなのか」(海老原嗣生・城繁幸対談)

6年前には「温暖期は絶対に来ない」と言い切っていた城さんが今年の売り手市場を目の当たりにして、「二度と就職氷河期は来ない」。

なるほど「歌は世につれ」とはうまい文句だな、と思うわけです。

就職状況予想、石渡も挑戦

さて、ここで城さんの予想が外れたことを非難する、というわけではありません。

城さんは経験豊かな人材コンサルタントです。そうした方でも外れることがあり得るのが景気予想であり、就職状況予想であります。

この就職状況予想を聞きたがるのが現在の大学1・2年生、あるいは高校生。それと、その親です。

何しろ、自分(またはわが子)が就活をするときに現在のような売り手市場か、それとも氷河期なのか、そこは気になるところ。

そこで、この就職状況予想、私も挑戦してみよう、というのが今回の記事です。

城さんのような人材コンサルタントですら外す就職状況予想、数年後には「石渡、予想を外す」と叩かれる気がしてなりません。

ま、プロ野球の優勝予想程度に気楽に読んでいただければ幸いです。

2018年卒~リーマンショック級でも安泰か

現在の大学4年生が動いている就活、つまり2018年卒採用はすでに売り手市場で推移しています。

企業の採用活動自体は今年の6月ごろにはひと段落します。

仮にリーマンショッククラスの経済危機が起きても、影響は小さなものでしょう。

歴史を振り返ると、2008年夏ごろから問題視されたリーマンショックはその影響で11月から翌年にかけて内定取り消しをする企業が出ました。

しかし、内定取り消しに至った企業がそこまで多かったか、と言えばそれほどでもありません。

実際に、学校基本調査の就職率(正確には「卒業者に占める就職者の割合」)は2008年卒の69.9%に対して、2009年卒は68.4%と微減にとどまっています。大きく落ち込んだのはさらにその翌年の2010年卒でした(60.8%)。

さらに、現在は流通・小売りを中心に慢性的な人手不足が進んでいます。朝鮮半島での有事が日本にも被害を及ぼした、など、大きな問題が起きない限り、2018年卒は売り手市場のまま終わるでしょう。

2019年卒・2020年卒~五輪効果でまだ売り手市場か

2019年卒・2020年卒についても、2018年卒採用とほぼ同水準、つまり、学生有利の売り手市場で推移するもの、と思われます。

東京オリンピックの準備がさらに加速していきます。

外国人観光客も増えていき、景気を活性化させていくでしょう。

人手不足もそこまで解消される見込みがありません。

それらを考えると、売り手市場のまま、推移するもの、と思われます。

2021年卒~五輪効果切れか、成長持続か

2021年卒も就活・採用時期は現行と同じ前年度の春から夏にかけて終わることが予想されます。

ということは、オリンピックが盛り上がる前か、その最中に大勢が決します。

それを考えると、オリンピック効果が続いて売り手市場のままであることが予想されます。

不安要素は消費税増税の時期です。

安倍首相は2016年6月、消費税増税(現行8%から10%へ)の実施時期を「世界経済へのリスク」を理由として、2019年10月まで再延期を決めました。

さすがに2019年10月から再々延期をすることはないでしょう。

消費税が10%に上がることが景気にマイナスの作用があった場合、2021年卒採用から大きな影響が出ます。景気の落ち込みから買い控えが起きた場合、日用品メーカーなどを中心として採用減に踏み切るかもしれません。

2022年卒~五輪効果切れか、成長持続か

2022年卒とそれ以降となると、見方が2つあります。

A:オリンピック効果・外国人観光客増加が好影響し、売り手市場がある程度続く

B:オリンピック効果・外国人観光客増加はそこまで影響しない。景気が悪くなり、就職氷河期に転じる

私はAの見方を支持しています。

外国人観光客はオリンピック終了後も堅調に増加、1990年代には夢物語と言われていた年間3000万人突破も夢ではなくなってきました。

そこまで増えれば、消費税増税の悪影響も打ち消すくらいではないでしょうか。

はい、ここ、経済のド素人の勝手な予想なのでエコノミストの皆さんのツッコミ(ないし批判)をお待ちしております。

で、素人予想を続けますと、私は、2016年卒の就職率(学校基本調査)の74.7%から2018年卒か2019年卒では80%台に上昇、1991年の81.3%を抜くかもしれません。

その後、消費税増税の悪影響を受けたとしても、70%台前半で推移するものと思われます。

景気動向以外の理由としては、女子学生の採用が進んでいることです。学校基本調査の就職率(卒業者に占める就職者の割合)によると、2000年以降、男女別の就職率では常に女子が男子を上回っています。

リーマンショックの影響で大きく落ち込んだ2010年、全体では60.8%(前年は68.4%)、男子は56.4%(前年は64.6%)まで落ち込みました。では女子は、と言えば66.6%(前年は73.4%)。

この年、就職史上、初めて男女差で女子が男子を10ポイント上回り、この年を含めて2016年まで7年連続で続いています。

1980年代以前は女子学生の採用自体、敬遠され、男子が女子を常に10~20ポイント近く差をつけていたことを考えれば隔世の感があります。もちろん、女子学生の場合、一般職・地域限定職採用を含んでいることもあります。

その事情を勘案しても、女子学生採用が下支えとなり、就職氷河期になりにくい、とも言えます。

就職温暖期、ずっと続く?

そもそも論で言えば、1990年代後半から2000年代前半、2009年~2013年ごろの就職氷河期は、なかった、との見方も成立します。

リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査によると、従業員規模1000人以上の企業だと統計調査開始の1996年の0.32人が最低で、以降、1.0人を上回ったことがありません。一方、従業員規模1000人未満の企業だと1996年が2.01人。最低の年が2000年の1.55人。学校基本調査の就職率では史上最悪となった2003年(55.1%)でも2.3人となっています。

リクルートワークス研究所は2010年卒調査から従業員規模を「300人未満」「300人~999人未満」「1000人~4999人」「5000人以上」の分類して集計をしています。

これによると、5000人以上の大企業は2017年卒、つまり売り手市場の年ですら0.59人にとどまっています。一方、300人未満の中小企業だと就職氷河期だったはずの2010年卒が最高で8.43人。その後も3人台を下回ることがありません(2017年卒は4.16人)。

確かに就職・採用関連のニュースで目立つのは大企業です。

合同説明会のセミナーに聞き入る学生
合同説明会のセミナーに聞き入る学生

が、日本経済を支えているのは大企業だけでなく中小企業も同じです。その中小企業には常に求人があるわけで、それを考えれば就職氷河期というのは、今までもこれからもない、との見方も成立します。

それにしても、この中小企業への就職について、城さんはVoice2011年4月号「『新卒一括採用』という遺物」でこんな見解を披露していました。

「中小企業は求人が余っている、学生は保守的なだけだ」という論者も一部にいるが、ことはそう単純ではない。日本の労働市場は、先述したような日本型雇用が適用される二階部分と、それを下支えする中小の下請け企業からなる一階部分のダブルスタンダードとなっている。リスクとリターンがトレードオフになっているなら、「保守的だ」の批判も当たるだろうが、市場の歪みの結果で「ローリスク・ハイ(orミドル)リターン」となっている側を志望するのは、保守的というよりは合理的である。

その方が、てるみくらぶ倒産と内定取り消し学生への求人が殺到した件を引き合いに「就職氷河期が発生しない」と言い切っています。

それを考えれば、今後はやはり就職氷河期は起こらない、かもしれません。(石渡嶺司)

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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