東大推薦入試・AO義塾騒動のその後~塾長本人に聞いてみた
AO義塾、東大推薦入試で注目される
AO義塾が大きく注目されるようになったのは、東大推薦入試で合格者14人を出したことです。
今年2月、東大推薦入試の合格発表直後、JCASTニュースから私にコメント依頼が来ました。
AO・推薦入試に特化した塾から14人合格とのこと。
確かそのときは、大阪出張中だったので、AO入試全般も含めて話したところ、以下の部分が使われていました。
付言しますと、このとき、AO義塾の存在は知りませんでした。
AO入試に特化した予備校「AO義塾」に注目 東大推薦入試、合格者の6人に1人を輩出 2016年2月12日
「ふたを開けてみたら、まず応募者数があまり伸びませんでした。その分、合格者も少なかったですが、これは受験者も勝手がわからず腰が引けていたのではないかと思います。そうした中で、AO入試に特化した塾が高い実績をあげて、確かにスゴイなと思うのですが、これが続くかどうか、またAOに特化する予備校が増えてくるのか、それを評価するにはまだ早いように思います」
AO義塾について
AO義塾は代表の斎木陽平さんが2011年、開校されました。
斎木さんは福岡出身。慶応義塾大法学部にFIT・AO入試で入学されました。
なお、インタビュー後にいただいたパンフレットにはこうあります。
AO入試を受験することで生まれた諍いから、12年間通った小中高一貫校を高校3年の12月に退学になっています。すでに慶應義塾大学法学部に合格していた僕は、正直その瞬間「終わったな」と思いました。
在学中に立ち上げた同塾は、
「13年には慶應AO入試合格者数で全国ナンバー1に」(AO義塾パンフレット「AO-GIJUKU 2016 SPRING BREAKTHROUGH」より)
となるなど、成長。
2015年に東大推薦入試の対策講座を開始。
これが前述の通り、14人合格、ということで一気に注目されます。
なお、塾是は、
書を読み、友と語らい、師にまねび、現場に赴き、同志と共に事を為す。
東大以外の2016年度実績は、
慶応義塾大118人(法学部FIT入試74人、SFC・AO入試42人、文学部推薦入試2人)
早稲田大政治経済学部2人
九州大21世紀プログラム 1人
同志社大商学部 3人
中央大法学部 6人
立教大 7人
など。
いつの間にか大炎上でフルボッコ
いずれ取材を、と思いつつ、3月の就活解禁などでバタバタしているうちに、気が付けば、盛大に炎上をしていました。
ネットでも、批判一色となります。
「東大推薦入試が塾に攻略された」は誤解だ「14名合格」のAO義塾に疑問をぶつけてみた(東洋経済オンライン おおたとしまさ)
東大推薦入試の「合格実績」は誰の手柄なのかAO義塾・報道の矛盾の真相があきらかに(東洋経済オンライン おおたとしまさ)
東大合格実績に疑義あり「AO義塾」24歳経営者と安倍家の関係(デイリー新潮 4月2日)
「AO義塾」問題と大学改革の是非(Yahoo!個人 山本一郎)
【炎上】東大推薦合格No.1を謳うAO義塾に実績水増し疑惑が浮上。斎木陽平代表は「その質問には意味がないと思います」と言って回答を拒否。(netgeek)
AO義塾の東大推薦合格者疑惑 これぞ「意識高い系」の病だ(BLOGOS 常見陽平)
AO義塾問題のその後 ずさんすぎる組織、未熟な若者の放置こそが問題だ(BLOGOS 常見陽平)
東大推薦入試、AO入試に特化した塾の合格率約50%ってホント?(THEPAGE)
で、結局、何がまずかった?
他の方の記事をざっくりまとめると、
「合格者数は14人ではなく6人が正しいはずなのに水増ししている」
「初年度は無料講座で無理に集めているあたりもおかしい」
「取材にきちんと回答せず不誠実」
「取材対応も『意図はなんですか』と聞き返すなど変」
と言ったところでしょうか。
ただ、合格実績が14人ではなく6人としても、それはそれで大したものです。
いや、そもそも、AO入試って対策できるものなのでしょうか?
あれだけネットで炎上した後、斎木陽平塾長、ご本人はどうお考えで、今後、どうされていきたいのか?
などなど、これはもう聞かないと、分かりません。
そこで、取材をお願いしたところ、お受けいただけることになりました。
※なお、インタビューの合間に、石渡による補足メモを入れています
「取材は応じますよ」
石渡:今回はインタビューをお受けいただきありがとうございます。
ネットで総攻撃状態ですし、さぞマスコミ不信だろうと思っていました。まず、おおたさんとはこじれてしまい、私についてはお受けいただける理由をお伺いしたいのですが。
斎木:いや、取材は応じるようにはしていますよ。
「おおたさんの記事はちょっと不公平」
石渡:そうですか。いや、おおたさんの取材があそこまでこじれて、斎木さんのTwitterでも「事実誤認多数なので訂正してもらわないと」とありました。
ですから、さぞマスコミ嫌いになったのかな、と思いまして。
斎木:おおたさん個人はいい人とは思います。ただ、おおたさんの記事についてはちょっと不公平ではないでしょうか。
全国学習塾協会の自主基準などのメモ
「『からくり』が納得できない」
石渡:不公平?
斎木:AO義塾については合格実績の出し方が「からくり」と書かれているのは納得できません。
合格率について「有意さがない」とも書かれています。
私たちは合格実績を出しているわけですから、答えは明確ではないでしょうか。
取材意図がよくわからないので、そこもお伺いしましたが、お答えをいただけなかった、というのもあります。
取材方針について
石渡:なるほど。私の場合はメールで事前にどの媒体でどのような趣旨でまとめるか、お伝えさせていただきました。
改めてお伝えしますと、貴塾について特段持ち上げる気も貶める気もありません。
中立の立場でお話をお伺いして、その内容の是非は読者の判断にゆだねたいと思います。
それとお伺いすることは読者、特に東大推薦入試を検討したい高校生とその保護者、教育関係者などが知りたいであろうことを想定しながらということでご理解ください。
斎木:そこはわかりました。
週刊新潮にはプロセスも回答
石渡:週刊新潮には細かいデータを出されていますね。
斎木:はい、報道にはきちんと回答しています。
「どのタイミングでも入塾者は入塾者、その実績を提示」
石渡:一方、AO義塾のサイトには「14人合格」としていますね。
斎木:我々は、どのタイミングで受講したとしても、それは入塾者です。
入塾者の合格者数が14人ということです。
石渡:なるほど。
ただ、それだと、これから受講するかどうか検討する高校生や保護者からすれば、
「わざと隠したのではないか」
と疑念を持つ人がいてもおかしくはないでしょう。
東大推薦入試の出願前からの受講生が8人、それで6人合格、ということであれば、それはそれで素晴らしい実績と思います。
週刊新潮や東洋経済オンラインなどの批判記事は、ざっくりまとめると、
「14人合格が水増しではないか」
というものです。
この合格者数について、「6人」に訂正する、あるいは「14人」のままにして、どのタイミングからの受講なのか、プロセスを明記する、ということはお考えですか?
「それってジュクジュクしい話」
斎木:うーん、なんか、それってジュクジュクしい話ですよね。
石渡:ジュクジュクしい?
斎木:殺伐としているというか、一般的な塾と同じじゃないかな、と。
それと、データはあまり細かく出す気はありませんでした。
ただ、これは誤解してほしくないのですが、隠すとか、水増しするとか、そういうつもりではありませんでした。
プロセスを細かく出した方が受講を検討される方に安心感を持たれる、ということであれば、今後、出していくことを検討します。
東進もAO義塾も自主基準には逸脱かつ、どちらも非加盟というメモ
「1年目は無料」
石渡:無料講座というのも批判されています。
斎木:そこは考え方の違いではないでしょうか。私としては東大推薦入試の1年目は無料で、と考えていました。AO・推薦入試の構造についてはよくわかっています。が、やはり初年度ということで蓋を開けてみないとわからない、という事情もありました。
無料が批判される理由とダンピングについてのメモ
地方からの受講者は無料継続を検討
石渡:では、今年からは有料にしていく、と?
斎木:今後、そうしていく予定です。ただ、地域間格差を考えれば地方からの受講者については無料とすることも検討しています。
石渡:初年度が無料、2年目が地方からの受講者が無料。それぞれよくとらえれば生徒思い、となります。
一方、悪くとらえれば東大が注目されているから、一種の客寄せではないか、と批判する人もいるはずです。
斎木:そういう批判があることは承知しています。そこはどんな線引きであれ批判を集めることは承知の上です。
AO義塾は事業性を担保しながら持続可能な形で社会性あるビジネスのありかたを常に考え続けていかなければなりません。
「AO・推薦はお見合いみたいなもの」
石渡:そもそも、AO入試って対策することは可能なんでしょうか?
斎木:受講生にもよりますが可能だと考えます。
まず、関心があるテーマを聞いて本を読むように勧めます。
AO・推薦入試はお見合いみたいなものです。
大学がどんなタイプを求めているか、考えたうえで、本は最低でも週1冊。
それと、新聞を読むことも強く推奨しています。
石渡:週1冊に新聞ですか。
書籍離れが著しい出版業界にいる身としては読書を勧めてくれることはありがたいかぎりですが。
「東大志望なら市民的エリートとしての責任感が必要」
斎木:東大だと、約1000億円もの税金が投入されています。
学部生が約1.4万人ですから1人あたり約710万円。
それだけの税金が掛けられている大学に行く、ということはどういうことでしょうか。
それは市民的エリートとして責任感を引き受ける覚悟が必要です。
そのためには本を読む、新聞を読む、そのうえで考えていくことが求められます。
そういう話を授業ではよくします。
地方から受講した生徒は、この話を聞いて、
「東大に行くことを単純に考えていたが、それだけの責任がある、と考えていくと怖くもなった。でも、だからこそ、その責任を引き受けたい」
そう言って受験しました。
授業は斎木塾長と学生講師が担当
石渡:授業を担当するのはどんな方でしょうか?
斎木:私含めて20人います。
私以外は全員大学生で、ここ(AO義塾)の卒業生です。
早稲田、慶応義塾など難関大の学生で、講師として適性あり、と見た人に声をかけています。
平均は45万円
石渡:受講する場合、費用はどれくらいでしょうか?
斎木:1コマ2時間、月6回で4万9800円です。
講義は志望理由書対策講座、グループディスカッション、小論文など。
月によっては大学別特化講座などが入ることもあります。
平均では、1人あたり約45万円というところです。
石渡:夏季講習は?
斎木:これも月6コマで4万9800円と普段と同じです。
石渡:現在の受講者は?
斎木:全体では200人くらいです。月あたりだと、月にもよりますが60人から70人というところです。
「地方はAO・推薦に無理解」
石渡:地方の高校生は東大以外でも推薦入試を検討したい、と考える人もいます。
斎木:すでにSkypeを利用した授業を展開しています。
2016年以降は全国90校舎を持つ武田塾でサテライト授業を展開する予定です。
地方だと高校の先生の無理解もありますし。
石渡:AO・推薦入試に否定的、ということでしょうか?
斎木:ええ。対策に慣れていない、というのもあるでしょうし、地元国公立大の合格者のみ増やそうとしています。
私も地方の高校出身ですが、慶応義塾大法学部のAO入試を受けると言ったら親不孝だなんだと言われて、ついにはこじれて3年生12月で中退する羽目になりました。
石渡:そこまでこじれたのですか?
斎木:ええ。結局、単位制高校に転校、という形で高校を卒業、AO入試合格も取り消されずに済みました。
一般入試は一般入試でいいと思います。
ただ、AO・推薦入試はこれはこれで社会貢献できる人材を求める入試形態です。
AO義塾はこのAO・推薦入試によって大学に入り、さらに羽ばたこうとする高校生を今後も応援していきたいと思います。
石渡:ありがとうございました。
取材を終えて
インタビューだけで授業風景を見学したわけではありませんが、目の前にいる高校生には熱心に授業をするのだろうな、と思いました。
高校生だってバカじゃありませんから、もし、斎木塾長に怪しいところがあればさっさと見捨てるはず。
それが、見捨てられるどころか、代々木以外に横浜、吉祥寺にも教室(AO義塾の呼称だと「キャンプ」)を設けています。
それだけ経営能力、教育指導力は優れているのだろうな、と思います。
ただ、一方で、脇が甘いというところは取材中にも強く感じました。
批判記事への反論や他の塾・予備校批判も(記事主旨とは異なるのでカットしていますがそこそこ激しいものでした)、Twitterで出せば、炎上することは明らかなはず。
ま、いい歳した大人だって、少しでもネガティブな評価に過敏に反応する人は、有名・無名問わず、それなりにいます。
ただ、そういうの、結局、損するのはご本人なわけで。
この斎木塾長にはそういうダークサイドに堕ちてほしくないなあ、と感じました。
20代塾長の今後は小泉進次郎?それとも消える?
インタビューでは斎木塾長について、教育への情熱と、数字の出し方などを含めた脇の甘さを感じました。
ただ、授業自体は見学したわけではなく、AO義塾については受講を推奨することも、東進ハイスクールなど他の塾・予備校の方がいいかも含めて、現時点では判断できません。
もし、東大推薦入試のために、受講を検討したい、という読者がいれば、それはもうご自身でご確認ください、としか言いようがありません。
今の斎木塾長を例えるなら、初当選直前の小泉進次郎・横粂勝仁のお二人でしょうか。
今でこそ、小泉議員は若手政治家の代表格で将来の首相候補ともされています。
ご本人は謙遜されていますが、小泉議員にネガティブな立場をとる政治家や政治評論家なども、彼が首相候補であることは衆目一致するはずです。
一方、横粂氏は1期で落選。
1期目の終盤には民主党を離党、首相指名選挙(2回)では自らに投票し、議場内の失笑を買っていました。
その後、Twitterの更新も止まっていますし、どこでどうしているのやら。
2016年現在どころか、1期目の途中あたりから、横粂氏を首相候補と考える政治家・政治評論家は皆無だったことでしょう(ご本人以外は)。
ことほど左様に、道が大きく分かれた二人ですが、初当選直前の2009年衆議院選挙では、こう言っては何ですが五十歩百歩、と私は見ていました。
横粂氏の選挙活動は上滑り気味としか思えませんでしたし、小泉議員も当時はマスコミの取材に曖昧な対応しか取れていませんでした。
2016年現在の今でこそ、池上彰さんの選挙番組で、演説が取り上げられて、
「対比法がうまいですよね」
などと評されていますが、2009年時点では、そこまで伸びるなんて考えてもいませんでした。
ついでに言えば、二人とも、自民党、民主党それぞれから公認を得て立候補。
つまり、他の同年代よりも一歩先に行き、目立っている。
これも斎木塾長と同じと私は思うのです。
今の批判がブーメランになって戻ってくる?
斎木塾長に話を戻します。
他の塾・予備校について、合格者数・合格率の出し方や受講料無料がおかしい、と斎木塾長ご本人が批判すること自体、議論は分かれるところです。
その批判は、批判でいいとしましょう。
実際、東進ハイスクールなど他の塾・予備校も、数字の出し方や無料もといダンピングについて、ガラス張りにしている、とは言い難いわけですし。
問題は、斎木塾長の批判が今後、ブーメランのようにご自身にはね返ってくる可能性があることです。
AO義塾は、今年から武田塾と提携して全国90カ所でも受講可能になるとのこと。
その衛星授業で東大推薦入試の対策講座をして、そこから合格者が出た場合はどうでしょうか。
それこそ、細かいプロセスを公表していない限り、斎木塾長が批判していた他の塾・予備校と同じ、となってしまいます。
つまり、現在の批判がブーメランとなってご自身に降りかかるわけです。
そうしたリスク管理も含めて、今後どのように展開されていくのか。繰り返しますが、ちょうど今は、小泉・横粂両氏が初当選直前と同じであり、AO義塾や斎木塾長について、是非を判断するのはまだ早いような気がします。
リスク管理なども含めて展開していくことができれば、小泉議員のように光ある道を歩むでしょう。
一方、脇の甘さを露呈したままだと、横粂氏のように消えていくのかもしれません。
どちらの道を斎木塾長が歩まれるのか、今後を見守りたいと思います。