Yahoo!ニュース

<北朝鮮内部>核開発の陰で困窮する農民と兵士(2)  今年も人民軍は痩せて小さかった

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
鴨緑江辺で沐浴、洗濯する若い兵士たち。7月末に平安北道朔州郡を中国側から撮影

兵士の劣悪な栄養状態

7月下旬から二週間、朝中国境地帯を取材した。国境の川・鴨緑江下流で遊覧船に乗って北朝鮮側の岸辺に接近してみた。平安北道の朔州(サクジュ)郡付近だ。川辺のあちこちで、半裸で沐浴している兵士たちの姿があった。

「兵士たち、皆痩せてるなあ。小さいなあ」

同乗していた観光客から声が上がった。河原に座り込んで力なくうつむいたままの兵士もいる。胸板が薄くあばらが浮いている兵士が多い。

関連記事:<写真と動画>栄養失調で衰弱する人民軍兵士「激やせ」で動けぬ者も

人民軍に栄養失調が蔓延している――、これは北朝鮮では誰もが知る常識である。100万超、人口の約5%に及ぶ過剰な兵員を、財政難の金正恩政権はまともに食べさせられずにいる。

「最近は軍隊に行っている息子・娘が栄養失調になって家に帰されるケースがとても多い。空腹に耐えられず脱走して家に逃げ帰る者も多い。周辺の民家から食糧を借りて食べている部隊もあり、その返済ができず騒動になったこともある」

こういうのは、咸鏡北道の会寧(フェリョン)市の党下級幹部の協力者だ。

両江道の女性も次のように言う。

「若い兵士たちは、皆『綿毛』のように痩せている。戦争なんてできるはずがない」

関連記事:<北朝鮮内部>軍の食料事情また悪化 女性兵士も栄養失調に 親は差し入れに奔走(写真3枚)

軍幹部が備品と食糧横流し

北朝鮮社会一般では食糧難はほぼ解消されている。にもかかわらず、人民軍には現在も栄養失調が蔓延しているわけだが、財政難の他に軍内の不正腐敗もその大きな原因だ。支給された食糧を軍幹部たちが現金欲しさに市場に横流ししてしまうため、末端の兵士にまで食べ物が行き渡らないのだ。息子・娘が入隊とすると、心配する親たちはせっせと面会に通って差し入れをしたり仕送りをしたりしている。

金正恩政権は、勇ましい軍事パレードやミサイル発射映像を使って、しきりに「軍事大国」を演出・アピールすることに余念がない。だが、その実態を誰より知っている庶民の間では「戦争をできる軍隊はどこかに隠してあるそうだ」というジョークが流行っているという。

国連安保理は、核、ミサイル実験を重ねる北朝鮮に対して経済制裁を強化し、主要な外貨稼ぎ品目の石炭、鉄鉱石、水産物、繊維製品の輸出が全面禁止された。貿易収入の80%を失う収入減になる。

金正恩政権にとっては痛手に違いないが、統治資金、核・ミサイル開発資金は優先的に確保するだろう。今年の凶作と相俟って、来年初め頃から、経済難のしわ寄せが、農民と一般民衆とその息子、娘たちである末端の兵士に転嫁されることになるだろう。(了)

関連特集:なぜ朝鮮人民軍は飢えるのか? その実態と構造(全8回)

※週刊金曜日9月15日号に掲載された拙稿を加筆修正しました。

アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

石丸次郎の最近の記事