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記者会見がうまくいかない、どうすればいい?ジャニーズ事務所のある癖が根本原因

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

9月7日、10月2日とジャニーズ事務所はこれまで2回記者会見を開催し、性加害を認め謝罪、被害者補償の方針を示し、廃業まで決意しました。この流れそのものは大きな前進であり評価できることでしょう。しかしながら、記者会見は2回ともうまくいったとはいえず、社内資料も流出するという事態にも発展。とうとうジャニーズ事務所は「NGリストの外部流出事案に関する事実調査について」(10月10日)と題する見解書を会社のサイトに掲載せざるをえない事態になりました。運営に関する釈明を掲載するのは珍しいといえます。釈明文そのものはNGリスト問題の収束に一定の効果をもたらしたといえますが、同時に重要な視点が欠如していたことを露呈させました。NGリスト見解書とこれまでのジャニーズ事務所の対応を振り返りながら根本原因を考察します。

謝罪?新社長?どちらがメイン

9月7日の会見で筆者が最初にまずいなと感じたのは、キーメッセージの組み立て方でした。謝罪と新社長の発表を同時にするダブルメッセージ会見はわかりにくいからです。

9月7日の時点での最大の注目は謝罪があるかどうかでした。謝罪と被害者救済、藤島ジュリー景子社長の辞任表明までとし、退任の時期や新体制は改めて発表する、までとすれば、そこに質問が集中していたはずです。しかし、新社長の発表もあったために、東山紀之新社長がふさわしいかどうか、ハラスメント疑惑の質問が数多く発生してしまい、質問の幅が広がってしまいました。しかも最初に指名したメディアは赤旗の記者で世論を代表するメディアではありません。運営会社にメディアの知識が欠如していることを露呈していました。最初の質問は東山新社長のハラスメント疑惑と資質について。一気に流れを作ってしまい、東山新社長のハラスメント疑惑や資質の質問が多発。結果として、ジュリー社長の謝罪と東山新社長と2つの印象が強く残ってしまいました。ジュリー社長が事実を認め謝罪、補償の方針、辞任表明だけにすれば余計な質問を回避できたはずだったのに。

■9月7日の記者会見分析(9月9日収録:リスクマネジメントジャーナル)

廃業?新会社経営者発表?何が言いたい

10月 2日はどうだったか。やはり同じ失敗を繰り返していました。発表内容は社名を変える、廃業する、新会社役員発表、とこちらもてんこ盛り。何でこんなに非効率的でメッセージの軸がなく混乱させる組み立てをするのだろうかと広報のプロからみると疑問だらけでした。

この時一番重要だったキーメッセージは「廃業」だろうと思います。最初に読み上げられたジュリー社長の手紙は「ジャニーズ事務所を廃業することが、私が加害者の親族としてやりきらなければいけないことだと思っております。ジャニー喜多川の痕跡を、この世から一切なくしたいと思います」と重要な決断でした。ジュリー氏の欠席は批判せざるを得ませんが、「母メリーは私が従順な時はとても優しいのですが、私が少しでも彼女と違う意見を言うと気が狂ったように怒り、叩き潰すようなことを平気でする人でした・・・・今回は初めて公に話をしたメリーは本当にひどい面も多くあったのですが、優しい一面もあり、自分の母でもあり、皆様の前でお話したいことを過呼吸にならずにお伝えできる自信がなく、このようなお手紙にさせていただきました。誠に申し訳ございません」の釈明は正直な苦悩を表していたのではないでしょうか。

しかし、10月 2日においても同じダブルメッセージの設計で手紙のインパクトが薄れてしまいました。被害者救済と社名変更、廃業発表までとし、新会社の体制は別途改めて発表とすれば、会見の中身は被害者の救済や補償に質問を集中させることができたはず。しかし、新社長・副社長の発表までしてしまったため、質問が新会社まで広がり、救済内容も新会社内容も中途半端になり質問が深まりませんでした。補償や救済の組み立て方を聞きたい記者にも、新会社について聞きたい記者にもストレスがたまり、不規則発言も多くなり、結果として中途半端な印象を残しました。

■10月2日記者会見分析(10月7日収録:リスクマネジメントジャーナル)

被害者よりも取引先優先方針だった

では、なぜそうなってしまったのでしょうか。ジャニーズ事務所が発表した10月10日の見解書の中で明らかになりました。10月2日の記者会見の趣旨・目的には、

2023年9月7日(以下、日付はすべて2023年)の元代表取締役社長による性加害事案につき謝罪等を行う記者会見(以下「9月7日記者会見」という。)終了後、ジャニーズ事務所は、その取引先や社会等のステークホルダーから、「謝罪をしたのはよいが、今後の対策・対応はどうなっているのか」、「再発防止への取り組みが遅い」、「今後の取り組みについてきちんと説明して欲しい」、「社名を変更するべきだ」、「藤島氏の100%所有の構造を解消するべきだ」等の指摘を強く受けていた。そこで、ジャニーズ事務所は、これらの指摘を踏まえ、再発防止策のほか、社名変更、新会社設立、被害者補償・救済などの対応(以下一括して「再発防止策等」という。)を取りまとめ、10月2日に、これらを公表し、記者会見で説明することにした。

9月30日の打ち合わせにおいては、

FTIの野尻氏から「会見ではガバナンス系の話がメインなので、経済系記者から当ててはどうか」旨の簡潔な説明があった程度であり、このFTIの説明に対して参加者の間に異論は出ず、また特段の議論もなされなかった。というのも、当日の質問時間が会見会場の都合で制限されており、ジャニーズ事務所としても、ステークホルダーから説明責任を果たすように強く求められていた再発防止策等の質疑に十分な時間を確保したいと考えていたからであった。

「取引先等」「ガバナンス系」「経済系」といった言葉の選択から、彼らにとっての最重要ステークホルダーは取引先企業で設定されたことがここから見て取れます。取引先から早く契約できるように体制を整えよ、と言われたのでしょうか。しかし、危機管理広報(クライシスコミュニケーション)の観点からすると、最重要ステークホルダーは被害者になるのですが、ここがずれてしまっていたのが根本原因です。それがよくわかるのが、記者会見場の背後に、大きなスクリーンを設置して「SMILE-UP.(スマイルアップ)」「新会社 名称はファンクラブで公募」とする演出がお披露目会見のような華々しさ。性加害企業としての反省の雰囲気を吹き飛ばす見せ方で違和感のある演出となりました。しかも「SMILE-UP.」はジャニーズ事務所の中では社会貢献活動プロジェクトでした。謝罪と補償を社会貢献活動といったイメージにすり替えています。謝罪と社会貢献では全く性質が異なりますので、児童への性加害を起こしてしまった深刻な過去に向き合う姿勢が欠如しているような印象を与えています。

未来より過去のけじめが先なのだが

2つの会見だけを見ていると、仕切った法律事務所や運営会社の戦略の立て方ミスのように見えていましたが、よくよく振り返ると今までもあったと気づきました。5月の会社サイトに掲載したコメントにおいても、謝罪して事実の調査をする方針を伝えるべきところを、「被害者に向き合わないとわたしたちに未来はない」とのんきに自分達の未来を語っていますし、設置された「再発防止特別調査チーム」という名称もシンプルに調査委員会とすればいいのに、再発防止といった名称。記者会見では「わかりにくい」「事実認定しないでなぜ再発防止なのか」と盛んに質問されていました。

彼らが選択する言葉がいちいち誤解を生むため、余計な質問が生じてしまいます。言葉の選び方が適切ではないために質問が長くなり、余計な報道が増えてしまうのです。一種の思考パターン、癖なのかもしれません。前を向いて歩くために未来志向でいるのは必要なメンタルだとは思いますが、60年間の不祥事にけじめをつける公式の場では「見え方」への配慮が必要です。この思考癖というかパターンを発見し、コンサルティングしながら支えるのが広報プロフェッショナルの役割です。

PR会社はNGリストを作成するものなのか?

今回PR会社やNGリストに関心が集まりました。PRとはパブリックリレーションズ(Public Relations)の略であり、信頼関係を構築する活動であって、メディアコントロールではありません。筆者は30年近くPR業務を行っていますが、NGリストを作成したことはありません。「メディアリスト」は作成し、記者の特性や記事の傾向、関係構築の方法、注意すべきことを記載することはあってもNGといった無神経な言葉を使ったりはしません。これはPR関係者10名に聞いたところだいたい同じ回答でした。排除するよりも、記者会見のリハーサルで不規則発言者がいるシーンもあえて再現し、司会は仕切る訓練をする方が通常の危機管理広報(クライシスコミュニケーション)です。ただ、外資系であれば作成する可能性はあります。歴史的背景によるのですがコントロール意識が日系企業よりも強いからです。そのかわり米国系外資の場合、見せ方は得意なはず。しかし、会見場に外部弁護士を最初に入場させたり(本来トップから)、経営者の隣に外部弁護士が着席する見せ方で、法律事務所への依存関係を露呈してしまったりするといった演出をみると基礎知識が欠如しているとしか思えません。

補足説明しておくと、危機管理広報とは、危機発生時に説明責任を果たすことで、ダメージを最小限にして信頼を回復するコミュニケーション活動です。目に見える形としては不祥事の緊急記者会見が代表的な活動ですが、その前段でステークホルダー(利害関係者)を洗い出し、優先順位をつけて対応していく、想定問答集を作成する、ポジションペーパー(発生した問題について組織としてどう対応しているかを説明する文書)を作成する、キーメッセージを確定し、発表方法を選択して実行していく、といった流れになります。この基本から考えるとジャニーズ事務所の記者会見における混乱の原因は、被害者よりも取引先とファンを常に考えてしまう優先順位付けの見せ方ミス、キーメッセージの組み立て力不足にあるといえます。

お粗末な連携の背後にあるもの

FTIConsultingはPR会社と報じられていますが、見解書によると

記者会見運営を担うFTIとしては、限られた時間内で、ジャニーズ事務所に再発防止策等を説明させるとともに、ヤジ等の不規則発言等により質疑応答の進行が無用に妨げられることなく、できるだけ多くの記者からの質疑に十分に回答できるようにする必要があった。

FTIは、記者会見の運営を担当していたものの、会見の中身(ジャニーズ事務所からの説明内容や想定問答など)には、一切関与していなかったので、9月30日の打合せの冒頭約30分だけ、会見運営の打合せのために参加したものであった

となると、FTIは単なる運営会社の位置づけに見えます。30分だけの参加で内容の組み立てや想定問答に関わらずに会見を仕切ることは不可能なはず。とにかく記者会見という形だけ整えて実施するといった意識しか見られない内容です。しかも2回の会見では、プレスリリースや説明資料もなかったとのこと。つつがなくやることが目的化してしまったようです。不祥事会見は荒れるのは当たり前で覚悟をもつ気持ち作りの方が重要です。説明責任を果たす重要な会見についてこれではあまりにもお粗末な連携です。多数の児童が60年間性被害にあった史上最悪の不祥事を軽視しているように見えます。

■PR会社の仕事(10月11日収録:リスクマネジメントジャーナル)

質問は公平さよりも質の高さ

一方、記者会見は責任を追及するばかりではなく、この問題が起きた本質的原因について良質な質問で明らかにしていく場でもあると思います。組み立て方が悪い記者会見で質問が薄くなりがちなのはわかるとして、その中でもリスクマネジメントにつながるいい質問はありました。筆者が着目したのは最後に出たインディペンデントウェブジャーナル記者の質問です。

「東山さんがジャニー喜多川氏に少年たちは弱いところを掴まれていたというようなことをおっしゃいました。・・・少年達の全裸の写真や肛門の写真、性器の写真などを撮っていたとか、女性ホルモンを注射していたんじゃないかといったような疑いが証言や暴露本で取り上げられています。ペンネーム木山将吾氏が『SMAPへ』の本の中で、ジャニーズ帝国は恐怖政治で僕を飼い犬にしていた、と述べています。ジャニー氏による性加害行為というのは少年達の人格を棄損し、奴隷化する支配の手法であるかのような印象を受けます。ジャニー氏の性加害行為がジャニーズ事務所のタレント支配力の源泉になっていたのではないか。そのために事務所側は黙認したり、必要不可欠な手法として利用してきたのではないかとも感じられます。証拠は何もありませんが、和製エプスタインだという人もいます。東山さんはジャニー氏の右腕として被害と加害の両面を見てこられたと思います。こうしたジャニー氏の性加害が及ぼしてきた影響についてご見解をお伺いできればと思います。よろしくお願いします。」

被害者の証言を紹介し、性加害が「支配力の源泉」「必要不可欠な手法」といった言葉は事の重大さを感じさせる力があります。「ジャニー氏の右腕として被害と加害の両面を見てこられた」といった皮肉も込めた表現で責任を追及しています。組織構造の根本問題に迫る優れた質問だと思います。このような質問ができる記者を最初に指名し、質を高める努力が欠かせませんし、報道陣も公平さで競うのではなく、質の高さで競ってほしい。

これに対する東山氏は「私もタレントとして合宿所にはいましたけれど、それは立ち入ってはいけない、触れてはいけない部分といった感じがありました。見て見ぬふりだと言われればそれまでと思うんですが。今しなければならないことをするしかない。心に負った傷は癒すことができないし、補償だけで済むものではないが、名前がついたものを全て捨て去ること、癒していくことなのだと思います」とし、支配や影響については回答していません。ジャニーズ事務所の支配の構造の中で出世してきた立場ですから、回答しにくい質問ではあります。ここは「その構造に問題があったと思うからこそ、今回全てを断ち切り、廃業する」と言いきれればよかったのですが。廃業すると言いながら、タレントの育成はしていく、エージェント会社になる、社長も同じとなると、結局社名が違うだけで同じ支配構造が残るように見えます。

過去への決別ができていないと見えるのは、前のめりの未来志向型会見の組み立てばかりが原因ではありません。もう一つの要因は代表取締役副社長だった白波瀬傑氏(1996年から取締役、宣伝部長も兼任)が説明していないからです。調査報告書においても白波瀬氏のメディアへの対応における問題は記載されていないため、わかりません。せめてここに記載されていればと思いましたが。

東山社長は「白波瀬に説明責任がある」と10月2日にコメントしていることから、今後何らかの形で説明させるのでしょうか。代表取材であってもいいので、白波瀬氏が説明する場が必要だろうと思います。

記者とのリレーション(メディアリレーションズといいます)は、記者会見だけではなく、記者からの評判を聞くメディアオーディットや意見交換をする記者懇談会、業界別少人数によるラウンドテーブル形式、代表インタビューも選択できます。記者クラブを活用して、幹事社メディア仕切りにする方法もあります。メディアとの対話は様々な形式があるのです。記者会見にしても、質問時間を制限する、参加メディアは1社1名とする、メディア側の実績を考慮する、次回の会見日時予告をするといった前後の工夫も可能です。ジャニーズ事務所側は今回の批判にくじけることなく、継続的に説明責任を果たし、報道陣も質問の質を高める努力をしてほしい。

■NGリストを巡る当事者見解書解説(10月16日収録:リスクマネジジメントジャーナル)

<参考サイト>

9月7日ジャニーズ事務所 記者会見 THE PAGE

https://www.youtube.com/watch?v=lqW9KrNnQBo

10月2日ジャニーズ事務所 記者会見 FNNプライムオンライン

https://www.youtube.com/watch?v=31C2mkDBNY0

10月10日 NGリストについての見解書(ジャニーズ事務所)

https://www.smile-up.inc/news/info-728/

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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