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「新社長の選出には外部視点と透明性が必要」辣腕ヘッドハンターが指摘 ジャニーズ事務所について

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

ジャニーズ事務所は性加害問題について9月7日に初めて会社としての公式記者会見を開きました。登壇者は、藤島ジュリー景子代表取締役、新しく代表取締役社長に就任した東山紀之氏、ジャニーズアイランド代表取締役社長井ノ原快彦氏、そして木目田裕弁護士の4名。ジャニー喜多川の性加害を認め謝罪し、被害者救済と補償表明したのは大きな一歩ですが、白波瀬傑代表取締役副社長(1996年から取締役)が出席して謝罪していない点はけじめになっていないと言えますし、再発防止特別チームの調査報告書を受けて1週間で東山氏を新社長にしてしまうといった決め方は安易すぎて違和感が残りました。そこで、エグゼクティブサーチ会社ハイドリック&ストラグルズのジャパンデスク代表の渡辺紀子氏に経営者探しについて実践現場の話を伺いました。(2023年9月14日インタビュー)

いつまでも特別な業界だと思っていると変われない

記者会見では、東山新社長のハラスメント認識やご自身の疑惑など社長にふさわしいかどうかの質問が半分を占めていました。渡辺さんはどのように見ていましたか。

ー経営経験がないわけですから、適任と言えるはずはありません。所属しているのがタレントやアーティストだから普通の人にはできないといった説明でしたが、実業家がトップとなっているソニー・エンタテインメントのような会社もあるわけですから、いつまでも特別な業界と言っていたら、変われないのではないでしょうか。

外からトップを連れてくると思っていたので、東山さんの就任には驚きました。異業種だとトップが務まらないと思いますか。

ーそんなことはありません。JALの立て直しでは、稲盛和夫さんが来て立て直しをしました。ベネッセホールディングスの再建に取り組んだ安達保さんはファンド出身です。昔の話ですが、IBMの再建をしたルイス・ガースナーさんは、お菓子のナビスコから来ています。昔から、異業種からトップを連れてきて再建する方法は取られています。

ジュリー社長は探し方がわからなかったのかもしれません。渡辺さんはヘッドハンターとしてこれまで数多くの経営者探しをサポートしてきたとのことですが、社長選びはどのように進めるとよいのでしょうか。

―平時であれば、サクセッションプランニング(後継者育成計画)という方法で進めていきます。候補者は数名出てきて、指名委員会での議論を経て決まります。候補者出しの際に私たちのようなエグゼクティブサーチは活用されています。その人たちの実力がどうか、リーダーシップがどうか、定点観測をしていくこともあります。また、何か欠けているスキルがないかをアセスメント会社に確認したり、不足している経験があればやらせてみたり、といった形をとっていくわけです。

進め方は大きく分けて3パターンあります。いきなり社長を外部からというケース。2つ目は上部執行役員で入ってもらい2年ぐらいかけて社長になってもらう。3つ目は含みで入ってもらって社内の他の人と競争してもらって3年後ぐらいに社長になる。

海外ですと5年~10年の長期目線で後継者を考え、そろそろ社長交代っていうような時期が近付いてきますと大体3人とか4人ぐらいに絞り、その人たちに対して私たちのようなエグゼクティブサーチ会社が外部目線でアセスメントをするとともに、社内の指名委員会のような委員会で本当に誰がいいのかといった議論をするのが正統的なサクセッションプランニングです。選定過程における能力や経験といった外部目線でのチェックと選定プロセスにおける透明性が大切で、そういったことをきちっとできるかどうかが企業の健全な成長につながっていくと思います。

内部要因の不祥事で社長を早期に交代させないといけない場合はどうでしょうか。

―不祥事であれば外部から連れてくるケースが多いのではないでしょうか。時間がある時もない時も、私自身が後継者の候補者選びで心がけているのは、人の上に立つ際に誰が見てもこの人ならついていきたいと思われるような人格かどうか。人柄、グッドパーソンであることがとても重要だと考えています。例えば、稲盛和夫さんのような方をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。JALの経営破綻では稲盛さんが立て直しましたよね。稲盛さんの人格が大きな原動力になってJALは早期に復活したと思います。経営危機の際、後継者選定にあまり時間はかけられませんが、人格が重要な要素となるのは同じです。

不祥事を起こした会社の社長を見つけるのはやはり難しいのでしょうか

―そうとは限りません。火中の栗でも拾う人はいます。有名な企業の立て直しなら余計に。ただ、ジャニーズ事務所のようなハラスメント、性犯罪になるとややハードルは高いかもしれません。しかし、立て直しに全く希望がないかというとそうでもない。吉本興業で2009年に社長になった大﨑洋さんのように苦労して社内の構造改革に取り組み成功した事例もありますから。

社長の選び方の基本は外部視点と透明性

後継者選びでよくある失敗パターンというのはありますか。

―二代目が実は一番難しいのです。創業者が自分の勘だけで選ぶと大抵失敗します。創業者はカリスマですから、全て未熟に見えてしまいます。反対に創業者がある人を気に入ってしまうと何も見えなくなる。外部視点でみると明らかにこの人ではない、と思った時に嫌われる覚悟をもってブレーキをかけるのが私たちの仕事でもあります。指名委員会があり、そこをしっかりアドバイスできる機能があればいいのですが、メンバーが忖度してはっきり言わないこともありますから。

成功するパターンの参考になるのが、先日「カンブリア宮殿」でやっていたコクヨの例です。40代の黒田英邦さんが社長になるプロセスを報道していました。オムロンの社長・会長を務めた作田さんが指名委員会に入っていて、社長候補者3人の中からどう選んだかという話です。ああいう選び方をすれば失敗はしないと思います。透明性もあり社員も納得できるいい形です。

再発防止特別チームは、今回の問題の背景として「同族経営の弊害」を挙げていますが、どう思われますか。

―同族経営そのものが悪いわけではありません。それよりも未上場企業であったことの弊害の方が大きいのではないでしょうか。ジャニーズ事務所だけではなく、今問題を起こしているビッグモーター社も未上場企業。未上場企業の会社は、何をやっても許されると思ってしまう意識に陥ってしまいがち。しかし、松下幸之助さんは上場する前から会社は社会の公器だと言っていましたから、未上場であっても意識さえあればあのような問題は起きないでしょう。むしろ、上場してオーナー経営でなくなって経営危機が訪れた際に、創業家が戻って立て直しをして成功することもあります。トヨタ自動車がよい例です。同族経営がいけないのではなく、やり方の問題です。

撮影:松沢雅彦 写真は渡辺紀子氏
撮影:松沢雅彦 写真は渡辺紀子氏

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<インタビューを終えて>

10年ほど前に「サクセッションプランの基本」(クリスティー・アトウッド著 ヒューマンバリュー出版)を読み、何となく概念だけは知っていましたが、このインタビューで具体的にイメージできました。やはりジュリー社長は、記者会見で辞任の表明だけにし、社長交代の時期や決め方は方針とスケジュールを示せばよかったのだろうと思います。外部からであれ内部からであれ、候補者を出し、経験や能力、人望を競い、指名委員会によって選べば透明性確保になり、解体的出直し第一歩の意思を示せたと言えます。

【渡辺紀子氏略歴】

ハイドリック&ストラグルズ ジャパンデスク代表

東京大学中国文学科を卒業後、豊田通商株式会社にてキャリアをスタート。その後縄文アソシエイツに入り、日系企業をクライアントとして、ヘッドハンティング業務に従事。社長やCXOレベルの案件、社外取締役、若手幹部候補、ニッチ分野のスペシャリスト、グローバル案件まで多くの実績を残し、業種も製造業から消費財、サービス産業、ITと幅広く担当。グローバルなエクゼクティブ・サーチネットワークAMROPにも所属し、アジアのトップコンサルタントを受賞。

<参考サイト>

ジャニーズ事務所記者会見(9月7日 THE PAGE)

https://www.youtube.com/watch?v=lqW9KrNnQBo

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ジャニーズ事務所の記者会見分析

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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