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園児バス置き去り会見は見ていられない 地方での記者会見は自治体広報課が支援を

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
本事件とは関係のないイメージ画像です(写真:アフロ)

 静岡県牧之原市の川崎幼稚園で9月5日に起きた河本千奈ちゃん(3歳)のバス置き去り事故について、学校法人が9月7日に記者会見を行いました。記者会見がひどかったと批判を浴びていますが、私は別の見方をしています。そもそも地方で大企業並みのスムーズな記者会見はできません。会見を支援できる危機管理会社や弁護士も皆無でしょう。このような場合には、地域を守るために自治体の広報課が記者会見を仕切るといった発想を持ってほしい。今回の会見を解説しながら、今後の地方都市での記者会見のあり方を提言します。

 9月7日に開催された記者会見に登壇したのは、園長、副園長、弁護士事務所から2名、司会は幼稚園の職員。冒頭で副園長はミスが重なったと説明。

①5日は6名の園児をバスに乗せたが、子供達の降車を確認しなかった

②降車時に複数人によるダブルチェックをしなかった

③クラスの補助職員が9時のチェック期限前に確認し、最終の登園状況を確認していなかった

④登園になっていた千奈ちゃんがクラスにいなかったにもかかわらず、クラス担任が職員室や保護者に確認しなかった

 会見の中で明らかになったのは、①と②のミスの背景としては、バス運転手が3名いるが、3名とも都合がつかず、大型免許を持っている園長が運転することになり、園長は「マニュアルで決めている降車時の確認をしなかった。病院に行く予定があり急いで降りてしまった」。バスに添乗した派遣社員は「いつも運転手が最後に車内の確認をしているため、運転手である園長が確認したものと思い込んでしまった」。なお、運転した園長も添乗した派遣社員も70歳を超える年齢でした。登園確認アプリでは、登園になっていたのに確認しなかった理由としては、「連絡なく登園しない家庭もあったから」「千奈ちゃんについてはそうしたことがなかったけれど後から来るのかな、連絡なしでお休みかなと思い込み確認しなかった」「登園アプリは導入して3年ほどであり、不慣れだったということはない」。

 たった6名の園児の降車確認ができていなかったこと、アプリで登園になっていたら危機感をもって確認すべきであったことは言うまでもありません。

 では、報道陣は本質に迫る質問ができていたかというとそうでもありませんでした。リスクマネジメントの観点から指摘すると期待された質問は、たとえば、

「3人のバス運転手の年齢は?(全員が70代かどうかは気になる)」

「園長が70歳を超えているのに普段行っていない送迎バスの運転をしてもらうことに不安はなかったか(全運転手が高齢者なら年齢の問題ではない)」

「園長と副園長は、乗る前に送迎バス運営マニュアルを確認したか、あるいは注意すべきことを確認したか。置き去りに注意といったことは言葉として交わしたか」

「園長は病院で待ち合わせがあったことを副園長は知っていたか(知っていれば時間がない中での運転になり、あわてて運転するリスクが高まるため)」

「園長は園児の送迎バスが命に関わる重要な仕事だと認識して運転を引き受けたのか。引き受ける際に前年の福岡で起きた置き去り事件のことを想起して気持ちを引き締めたか」

「園長は病院での待ち合わせは何時だったのか。病院はご自身の受診でないとのことであれば、待ち合わせを後ろにずらせたのではないか、あるいは相手に送迎バスの運転をするという重要な仕事があるから遅れるかもしれない、と連絡したか、しなかったのであればなぜなのか(車内確認よりも病院に急ぐ方を優先したとの回答を受けてするべきだった質問)」

 しかし、記者会見の中で紛糾した場面はそこではなく、「園長は病院で誰と会うために急いでいたのか」「マスクを外してほしい、30秒でも10秒でも」。司会が仕切れず、同席した弁護士が「相手の情報は出せない」「感染リスクがあるからマスクは外せない」と制御。同じような質問が続いても、司会や弁護士は終了の仕方がわからず、結局2時間40分。最後に「廃園になってしまうかも」と園長が自嘲した姿に対してネットで批判のコメントも多く寄せられていました。しかし、困った状況の中で笑みが出るのはよくあることで表情訓練をしなければ身につかないのです。

 明かに行き過ぎた質問もありました。園長と副園長の「生年月日」を聞いたのです。年齢確認はわかりますが、公の場で聞く質問ではありません。「9月5日時点での年齢を教えてください」で事足ります。当事者も弁護士もなぜ生年月日を聞くのかわけがわからず戸惑っていました。

 最後に報道陣から取材対応についてクレームのようなのコメントがありました。「誰かしら対応してくれないと困る。対応する担当者を決めてくれないか」。園長も「電話が鳴りやまないからこちらも困るんだ」と報道陣にクレーム。

 事件事故の直後には取材陣が大量に押し寄せるメディアスクラム状態になります。これを防ぐためには、人々が知りたいと思っていること、概要、経緯、原因、再発防止、見解を記載した見解書(ポジションペーパー)を発信し、問い合わせを減らす危機管理広報における初動の鉄則がありますが、地方都市ではそこまでの体制が整っていないケースが殆どです。では、どうしたらいいのか。

 自治体広報課が記者会見を開催して仕切るといった発想があってもいいのではないでしょうか。川崎幼稚園は、牧之原市の子ども子育て課の行政管理下になること、地域の子どもを守る、といった観点から10年以上前から提唱しています。自治体広報課への危機管理研修を行うとさまざまなお悩みが寄せられます。ある地域の子どもが誘拐遺棄事件では、記者達が学校や家庭、私達自治体にも押し寄せて困る、と相談されたことがあります。子供への哀悼コメントは発表できるし、パトロールを強化していることなど自治体の対策は説明できる、地域を守るためにも誰かが窓口になる必要があると意見を述べました。

 教育委員会での研修でも、記者会見に困ったら自治体広報課に相談したらよい、とアドバイスをしています。報道陣も学校や幼稚園、保育園が対応できない、と思ったら、自治体の広報課に仕切りの依頼をするといった働きかけをしてほしい。実際、調布市の給食アレルギー事故では、混乱している教育委員会を見かねた記者が市の広報課に「何とかしてくれないか」と依頼し、記者会見を支援しました。全ての自治体には広報課があり、定例会見を行っていますので基本的な対応はできます。大いに活用したらいいのです。本質に迫れず、感情だけがぶつかり合う不毛な記者会見は見るに堪えない。地域の子供達を守るためにも自治体広報課を活用する発想を定着させてはどうか。

動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル

<参考サイト>

FNNプライムオンライン 9月7日配信 女児死亡の幼稚園が初会見

https://youtu.be/rflMhMlb0ho

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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