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ずっと具体性に欠ける河野太郎氏… 総裁選、候補者の表現力はどう変化した

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

自民党総裁選、9月16日に野田聖子氏が立候補を表明し、4名による選挙となりました。単独記者会見の場合には、組み立て方そのものに個性が出ましたが、スタートラインからは時間条件が同じ中での戦いになります。「表現力の変化」に着目してみたいと思います。なお、野田聖子氏はぎりぎりの表明であったため単独の記者会見は開いていません。比較対象は、9月17日の自民党における立候補者による20分間のスピーチ、その後の共同記者会見、18日の日本記者クラブ主催の公開討論会、20日の自民党女性局・青年局による公開討論会、23日~26日に開催された党員以外の一般国民からの質問に回答するオンライン公開討論会。

岸田氏、表現変化力は抜群だが母音注意

表現変化で最も着目したのが岸田文雄氏。17日の自民党での立候補表明スピーチでは、これまでにない力強さがありました。「私には聞く力がある」と明確に自分の強みを表現し、「保守とは何か、それは寛容であると私は考える」と自民党員向けメッセージを用意していました。全身から声を発信しているがゆえに声も大きく抑揚がありました。記者会見では、熱く語るというよりは冷静沈着に語る姿でしたが、党員向けには情熱的に語る切替力を見せました。ステークホルダーによって自らの声のトーンを変える表現力を見せた点は着目すべき点です。岸田氏は、8月末から3回記者会見を開き、FCCJ(外国特派員協会)でも記者会見を開いてきましたので、他の立候補よりも場慣れしてきたという強みもあるのかもしれません。ただ、演台に両腕をついていたため、猫背となってしまった点がやや残念。まっすぐ立っても力強く抑揚ある声が出ていれば満点だったと感じます。また、質疑応答になると、いつもの癖が頻出。「国民の、おー」「また、あー」など母音を長く伸ばすつなぎ言葉が「頻繁」に入るため、優柔不断に見せてしまいます。このようなつなぎ言葉「フィラー」は、数が少なければ気になりません。特に今回は他の3名にフィラーが殆どないために、岸田氏が目立ってしまうのです。トレーニングで直せるので改善することがリーダーとしての務めだと思います。

高市氏、服装変身力あるがデコルテに注意

わかりやすい「外見」変化を見せたのが高市早苗氏。単独記者会見では、二重パールネックレスにパールピアス(イヤリング)、自民党スピーチでは一重パールネックレス、記者クラブではネックレスなしでパールピアスのみ、自民党青年局・女性局では、パールなしでゴールドネックレスとピアス。場所によってアクセサリーを変えている点では女性としての工夫を見せていました。ただ、服装については国民との公開討論会でのインナーが胸ぎりぎりであったのが気になりました。せめてVカットにすればと思います。あまり見せすぎると女性の反感を買ってしまいます。デコルテの見せ方は女性ならではの演出になるのですが、見せ具合はなかなか難しい。また、服装もメッセージになることから、もっと白を取り入れて清廉なイメージ創出の工夫があってもよいだろうと思います。(30日にスタイリストからのアドバイス掲載予定)スピーチ内容は、軸が毎回同じなのは構いませんが、場や聞き手によってメッセージを変える工夫が欲しい。たとえば、「柔軟性がある」をアピールするのであれば、自民党青年局・女性局での冒頭スピ―チは国家観だけではなく、若者や女性向けにメッセージの組み立て方を変える必要があったのではないでしょうか。場によって「外見」を変える力があることはわかりましたが、相手によって柔軟にメッセージ発信や対応できる力があるのかどうか、やや疑問を持ってしまいました。

河野氏、表現取得力あるが格調高める工夫を

河野太郎氏の17日の立候補表明スピーチ。10日から1週間経っているにもかかわらず、単独会見と変わらず具体性が書けた点が残念。リーダーとしての格調高い表現をつかっていない。スピ-チライターをつけて表現力を高める工夫が欲しかった。実にもったいない。周囲からのアドバイスはあるのでしょうが、自分の言葉にこだわっているように見えました。優れた表現は何度も触れているうちに自分のものにすることができます。具体性がないときほどスピーチライターの腕の見せ所。格調高さでリーダーの威厳を見せる表現力がほしい。質疑応答は具体的ではなくても押し切るような力強さがあるだけに残念。質疑応答で1点言い方を変えた点を指摘します。森友問題についての質問についてこれまでは「再調査しない」といったシンプルな回答でしたが、「ご遺族の納得感が必要。遺族には説明が必要だ」と温かさを追加した点が大きく変わりました。これは、不出馬を表明し河野氏を支持する表明をした石破氏の表現方法。寄り添う視点が気に入ったのか、彼の表現を自分の中にとり入れたようです。

野田氏、声はいいがリーダー像を明確に

野田聖子氏は、単独記者会見を開いていないため、変化ではなく、表現の特徴のみに着目したいと思います。声は落ち着いていていいのですが、スピーチ内容が体験に立脚しているがゆえに壮大さがなく、リーダーとしての貫禄が不足している雰囲気があるのは否めません。「母であり、障がい児を持つ親」であることを頻繁に口にするため、その立場を超えた一国のリーダーとしての姿が見えてきません。候補者として立ったことだけに満足するのではなく、せめて見え方をガラっと変える戦略をとってもよかったのではないでしょうか。例えば、髪をアップにするだけできりりとした印象になって意気込みを見せることができたはず。記者クラブでの公開討論では、目的は「違い」を明確にして誰がリーダーにふさわしいかを国民に見せる場であるにもかかわらず、その趣旨が理解されておらず、「共感したいので質問をする」と前置き。相手を論破する視点がありませんでした。これでは外交交渉では負けてしまいます。場の目的を理解し、そこで自らのミッションを果たすといった視点が抜けているように見えました。

今回は条件が同じ公開討論を取り上げ、単独会見からの表現変化や工夫を比較しました。場や対象者によってメッセージの組み立て方を変える力があるのは岸田氏、外見を工夫する表現力があるのは高市氏、気に入った表現を取り入れる力があることがわかったのは河野氏、野田氏は単独会見がなかったので変化についてはコメントできません。

菅義偉内閣は、働く内閣としてこの1年踏ん張りましたが、「説明力」「表現力」欠如を指摘されました。官房長官には質問をさばく力が必要ですが、一国のリーダーには求められる姿が異なります。リーダーには力強さ、温かさ、未来への希望を感じられる明るい表現力が必要であることを国民が実感した一年であったようにも思います。次の総理になった方は、国民へのメッセージ発信をリーダーの重要なミッションとして位置付けて取り組むことを期待します。

【動画解説】

<リスクマネジメント・ジャーナル>

日本リスクマネジャー&コンサルタント協会配信

記事と連動した内容です。

<メディアトレーニング座談会>(石川慶子MTチャンネル)

自民党総裁選シリーズ②

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危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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