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かんぽ生命不適切販売問題 一般民間の生命保険販売プロはどう見たか

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
かんぽ生命処分発表PDF 筆者撮影

かんぽ生命の不適切販売問題、管理職を中心とする追加の処分1300名について3月24日発表されました。これが最終となり、処分は合計3300人以上となりました。全国13支社の支社長も全員交代。4月1日から保険の営業販売が1年9カ月ぶりに再開しました。しかし、調査は十分だったのか、上司の処分は適切な重さだったのか、疑問は残ります。また、生命保険業界はかんぽ問題をどう見てきたのか、かんぽに限らないのではないかといった不安が残ります。あまり報道も見られないことから、実際に生命保険販売を行っている株式会社FPイノベーションの奥田雅也さんにかんぽ生命問題についてどう見えているのか、お聞きしました。

ー生保販売に携わる者として、かんぽ問題について奥田さんはどう見てきたのでしょうか

同じ生命保険業界にいる人間から見るととても「他人事」とは思えない内容です。販売側の問題は、生命保険業界においても過去はかなりあったのは事実ですし、現在も撲滅されているとは思いません。全国どこかでは起きている問題なのでは?と個人的には考えています。特に保険業界では、新規契約については「挙績(きょせき)」といった専門用語があることに象徴されるように、新規契約を獲得した営業職員を高く評価する風土が業界全体としてあります。ただ、業界全体でかなり以前から「コンプライアンス(法令遵守)」ということを徹底的に指導する風潮があり、最近では、不正募集はかなり減少していると思います。

例えば、今回問題になっている保険契約の乗換については、不利益変更にならないように事前の説明と契約者が了承をした旨の確認書を取り付けたり、乗換契約の場合には一定期間は販売手数料や営業成績にならないようなルールをかんぽ生命より長い期間で設定するなどをして発生の防止をしています。

ー金融商品の販売について不正は起こりやすいのはわかりますが、かんぽの場合、90代女性一人に10年間で54契約とった内容が金融庁に報告されているようです。こういったことが民間の保険販売でも起こり得るのでしょうか。

我々一般の生命保険募集においては考えられないですね。顧客との面談で把握した意向やニーズについては記録を残し、そのチェックをする仕組みが導入されているので、不自然な募集であればその時点で営業現場の責任者が確認をします。

高齢者への保険販売ですが、生命保険業界においては「高齢者への保険販売ルール」が明確化されており、高齢者を対象にした募集については親族の同席・複数回の面談ならびに複数人での募集などの取組がされています。そもそも生命保険協会による「高齢者向けの生命保険サービスに関するガイドライン」にも契約における親族同席が明記されています。

ーなるほど。ガイドラインが守られていなかったということですか。基本的なことができていなかったとしか言いようがない。生保販売の現場視点から見て奥田さんはこの問題の原因をどう見ていますか。

一連の「かんぽ生命不正販売」には2つの問題点があると思っています。

1つ目は保険会社であるかんぽ生命の販売店としての日本郵便に対する管理体制の不備。2つ目は販売店である日本郵便内の管理体制の不備です。

ー不備だらけですね。要するに郵便局でかんぽ生命の商品を販売する際のルール、チェック機能が働いていなかったと見えますね。

実状はわかりませんがそう思われても仕方がないと思います。金融庁は、保険代理店に適正な募集体制を整備する様に求めており、メーカーである保険会社には適切な募集が行われているかどうかをチェックする責任があるとしています。従って、かんぽ生命はこのチェックがずさんだったと言わざるを得ないでしょう。

―つまり、かんぽの販売代理店への教育ができていなかったということでしょうか。一般民間の生命保険会社にも販売代理店に対して教育責任があるということですね。

はい。メーカー側のかんぽの教育責任は当然ありますが、販売代理店である日本郵便の管理指導体制にも2点問題があったと考えています。

1つ目は保険募集人が保険商品販売により受け取る販売手数料を目当てにして不適切な募集が行われており、これを管理出来ていなかったという点です。この問題はかんぽ生命だけでなく一般の生命保険業界においても見受けられる問題です。ただ、生命保険業界では、この問題発生を少なくするためにいろいろなルールを設けています。

2つ目は、社内での営業数字の管理が厳し過ぎて、販売手数料目当てではなく、数値目標を達成させるために不正な募集を行った保険募集人がいるという事実です。この問題は保険業界だけでなく全業界で起こりうる問題であると認識しています。特に営業数字の管理が厳しい業界や会社であれば、数字を挙げる人を褒めたたえ、数字の挙がらない人を厳しく指導する風潮はどこでもあると思います。

-教育と評価の仕組みに問題があるということですね。高齢者向け販売のガイドラインが守られていないというのはどうしてなのか。メーカー側は当然知っている。販売側がそれを無視した?メーカー側にも販売側にも教育責任はあると思いますが、どちらがより重いのでしょうか。販売現場の人は売りたいという思いが強いから自社でチェックは難しいから、やはりメーカー側ですかね。

メーカー側にはチェック責任があります。つまり、この場合はかんぽ生命です。私の会社は8社のメーカー商品を販売しているので、8社からチェックされます。販売代理店としても自主的に販売員への教育はしています。

―8社と取引していると自然にチェック体制は強化されますよね。各メーカーから管理されるわけですから、それだけでも緊張感が生まれるように見えます。やはり、かんぽは販売ルートが1つだったことがチェック機能が働かなくなった原因に見えます。報告書でも、「郵便局での販売に販路を依存している構造が、かんぽ生命による日本郵便に対する管理監督が徹底されない要因になっている」とありました。生保業界の中でもかんぽ生命の販売方法は特殊なのでしょうか。

販路の特殊性はあるでしょうね。例えば、彼らは民間の保険は取り扱えるのですが、我々一般民間の販売代理店は、かんぽ生命の商品を取り扱うことはできませんから。

販売店である日本郵便は複数の保険会社と代理店委託契約を締結し、かんぽ生命以外の保険商品販売は行っていた様ですが、かんぽ生命の商品と他生保の商品とでは評価基準が違うために、現場では評価基準が高いかんぽ生命の商品をより販売する傾向が強かったと現場の方から聞いています。

-4月1日から日本郵便の支社長が全員交代となりました。これで営業は健全化できると思いますか。膿は出し切ったと見えていますか。現場からは上司の処分が甘いといった声が寄せられていますが。

支社長が交代したことで保険営業が健全化出来るかどうかは正直分かりません。感覚的に支社長というのは営業現場から見れば相当な上層部ですから、その人達の異動が現場に与える影響はそれほど大きくはないと思います。

ただ支社長経由で出される営業数字達成へのプレッシャーが減れば、前述しました2つ目の問題は減少するでしょうから、改善することは予想されます。

―かんぽ商品を他の民間会社も売れるようになれば、販路も拡大し、交流も生まれてオープンな組織になっていくように思いますが。

保険募集人の中にはかんぽ生命の商品を取扱いたいと思っている保険営業パーソンも一定割合でいるようです。募集代理店を増やして販売チャネルを増やすのは売り手側・買い手側に一定のニーズがあると思います。特に我々の様な保険販売を専業としているいわゆる「保険のプロ」がキチンと取り扱いをする事による拡販は意味がある様には思いますね。

交流という意味では、既に報道されていますが、メーカーであるかんぽ生命へ販売を担う郵便局員1万人を出向させることは、健全な募集には効果があると思われます。

―かんぽ生命がだらしないから、このような不正が発生したのですよね。そのかんぽ生命に出向して適切な教育ができるかどうか疑わしい気はします。かんぽ以外の生命保険会社の教育研修に出向させた方がいいのでは。

もちろんメーカーとしてのかんぽ生命が適正な募集を徹底的に教育・指導することが前提条件ではあります。教育研修体制も当然ながら必要だと考えますが、それよりも不正が起こりにくい仕組みづくりが最重要ではないでしょうか。

―現場から見て、かんぽ生命不正の再発防止には何が有効だと思いますか。不正が起こりにくい仕組みとはどのような形でしょうか。

かんぽ生命問題を根本的に解決をさせるのであれば、販売員のインセンティブ制度に手を付けるのが一番効果的だと個人的には考えています。生命保険業界では明治安田生命が取り組みを始めるとの報道がありました。

契約獲得による収入というインセンティブがあると、一定割合で不正募集が発生するのは事実としてあります。ですので、このインセンティブ制度をなくすことは募集の適正化には大きな効果があると考えています。

前述の契約獲得により報酬が得られないとなると、金銭的なモチベーションは働かなくなりますので、不正を防止する一定の効果があります。次に社内における業績管理を新契約高ではなく、違う指標(例えば契約継続率など)を用いることで、無理をして新契約を獲得する必要がなくなりますので、これも一定の効果があると思います。

さらには、募集に関する一連の行為を社内で管理・監督出来る仕組みを導入することで、不正を防止する効果もあると思います。これらのことを複合的に取り入れることでかなり防止出来るのではないかと個人的には思います。

-なるほど、だいぶ整理ができました。業界として不正販売のリスクに向き合ってきたことは理解できました。販売量を増やしたいという気持ちはどこにでもある。不正にならないようにするための仕組みづくり、インセンティブ制度、ガイドライン教育、出向などによる開かれた交流といったことがリスクマネジメントにつながりそうです。これからも注視していきたいと思います。

石川慶子MTチャンネル

【参考】

生命保険協会「高齢者向けの生命保険サービスに関するガイドライン」

https://www.seiho.or.jp/activity/guideline/pdf/elderly.pdf

郵便局員1万人、かんぽ生命へ出向

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF25CSU0V20C21A2000000/?unlock=1

生保営業を固定給に 明治安田生命 歩合給やめ収入安定

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF060YM0W1A200C2000000/

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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