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テレワークできるのに導入できない企業に潜む「不公平感」、克服の仕方は?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:アフロ)

 5月6日以降、私達はどう過ごしていくことになるのでしょうか。外出自粛期間が延びる可能性もありますし、たとえ徐々に緩和されたとしても、テレワークを主流にしていく時代を迎えることになるのは確かでしょう。在宅勤務が主流となれば、職場でのコミュニケーション、イベントや記者会見、決算説明会の形も変わっていくでしょう。テレワークやオンラインイベントを歓迎する人がいる一方戸惑いの声もあります。

メリット、デメリットを検証する

 私の周辺では、記者会見の中止、取材や懇談会の中止、オンライン取材への切り替えがあり、次のような声がありました。

・20代PR会社社員「記者会見は全て中止。自宅にWi-Fiがないのでオンライン会議ができない。会社が負担してくれればいいのに。仕方ないから会社に行く」

・30代記者「いきなりテレワークになったので戸惑う。文字コミュニケーションが多くなって処理に時間がかかる。朝、会社に行かずモチベーションを上げるのが大変。一人暮らしなので漠然とした不安を時々感じる」

・30代編集者「家族と過ごす時間が増えて結構気に入っている」

・40代社長「自分だけ出社して、会社から在宅勤務の部下とコミュニケーションをとっている。いつでも質問対応できるようオンラインビデオはずっとつけっぱなしにしている」

・50代編集者「自宅には子供達の部屋はあるけれど、自分の部屋がないから仕事がしにくい。広い机がないと校正できないし。仕事場所の確保が課題」

・50代社長「以前からオンライン会議は使っていたのでビジネスコミュニケーション上は何ら問題ない。今は運動不足解消のために毎日1万歩目指して散歩している。課題があるとすればカミさんとの関係かな」

・50代広報部長「オンライン会議は効率がいいと感じる。必ずやることを決めて終わるからだと思う。プロジェクト型の管理にはいい。一方、社内の確定していない情報の収集は時間がかかるようになった。社内をぶらっと歩いてその場で話したり、ちょっとブレストするといったことができないから。メールや電話で丁寧なコミュニーションをするようにいろいろ工夫はしている。もう満員電車での通勤には戻りたくないし、戻らなくていい」

・60代取締役「毎日オンライン会議を7つこなせるようになった。ZOOMとかTeamsとかツールがいろいろで切り替えに戸惑うこともあるけれど、慣れた。会社に行かなくてもできることは多い」

 これらの証言から、テレワークは自宅での環境面や個人のメンタル維持に多少課題はあるものの効率的なコミュニケーションとして定着していきそうです。ちなみに私は、一人目を妊娠した1997年からテレワークは活用しています。PR会社5人体制でしたが、会社設立時点の1995年に全員にパソコンは配布していました。私は自宅で作業してメールや電話、時々出社という形でした。オンライン会議システムはありませんでしたが、何とかなりました。妊婦や介護などハンディがある人にとってはとてもありがたい。

 テレワークの普及・推進を提唱してきた特定社会保険労務士の毎熊典子さんは次のように述べています。

「大企業では、テレワークが一気に進むと思います。これまではテレワークができる環境がある程度整っていても、導入に伴うリスクを考えるとなかなか踏み切れなかったのではないかと思います。今回は、政府の後押しもあるので、社内で説得する手間を省いて進めることができます。この機会に、何ができて何ができないかを検証する必要があります。意外とできると思えばどんどん進むでしょう。現在、相談対応をしているのですが、社内稟議の押印のためだけに出社する人がいるのはいかにも非効率です。電子印鑑は簡単ですから導入すればいいだけなのですが。。。」

左:毎熊典子氏 右:筆者  撮影:筆者
左:毎熊典子氏 右:筆者  撮影:筆者

感情リスク「不公平感」への対策を立てる

 特に私がコミュニケーションの観点で着目したのは、毎熊さんが指摘した「不公平感」問題の克服です。ある大手メーカーは、早くからテレワークを検討していたのに、導入できませんでした。その理由は、研究者、営業職、工場勤務者という職種による不公平感増幅のリスクを考えたため。テレワークできる人とできない人がいると不公平だという意見があったのだとか。全員に適用しようとする点がいかにも日本的。そこで毎熊さんは、「工場勤務の人までテレワークにしようとするのは無理があります。研究者と営業職をテレワークにすればコスト削減できるので、そこで浮いたお金を工場勤務者の福利厚生の充実にあてたり、特別休暇を増やすといったことをすればよいのです。」とアドバイス。この「不公平感」というのは、放置すると案外大きなリスクとなってしまうと思います。リスクというとどうしてもセキュリティや仕組みに目がいきがちですが、人間の感情もリスクになることを見落としてはいけない。

 毎熊さんは、今回のコロナではさらなる配慮が必要だと述べています。「在宅勤務できない人は、どうして私が危険を冒してまで出勤するのか、となります。そのような場合には、ただ頑張って、と言うのではなく、企業としては危険手当のようなもので報いる、交代制勤務にしてできるだけ出勤日を減らす、といった仕組みを作って欲しい」。

 私は日ごろ、相手目線に立つことや社員の感情に寄り添う、励ましの言葉をかけることが大切です、と意見を述べていますが、このように制度として整える観点も見逃してはいけないと改めて強く感じました。不公平感を解決できる具体策まで講じることが企業の責任です。トップから社員へのメッセージも具体的方針や対策を伴っていてこそ心に届きます。広報と人事が協力して表現を練れば、感情リスクを低減させ、テレワーク導入後の社内コミュニケーションもスムーズにいくのではないでしょうか。

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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