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組織のリスクを減らす「愚痴り方」は? 本音トークで業績が4倍になったケースも

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:アフロ)

 一般的に愚痴は悪いことという認識がありますが、リスクマネジメントの観点からすると「愚痴」はまさに本丸。本音コミュニケーションにすれば、課題解決だけでなく業績アップにつながります。どこにコツがあるのでしょうか。実例を解説します。

本音トークにつながる愚痴り方

愚痴というと、ネガティブなイメージかもしれません。辞書での意味も「言っても仕方がないこと」とあります。熊本の大西一史市長が1か月前の3月3日にツイッターで「コロナのバカーーーーっ!」とつぶやきましたが、わかりやすい愚痴でした。思わぬ発言から共感、苦言の反響があり、西日本新聞などでこのつぶやきは取り上げられましたが、皆が言いたいことを言ってくれたことですっきりしたという効果もあると思います。まさに言っても仕方がないことではありますが、言うだけでもガス抜きができるともいえます。

 実はこの愚痴、リスクマネジメントを進める際にも重要です。危機管理やリスクマネジメント研修現場で、最初に行うことはリスク出しなのですが、「300以上出してください」というと皆驚いて「えー!そんなにたくさんのリスクは当社にはありません」と抵抗されます。なぜ、300以上を目標にしているかというと、「1つの重大事故の背景に29の軽い事故があり、その背後には小さなミスや異常といった潜在的リスクが300ある(ハインリッヒの法則)」とされているためです。つまり、300出してようやく1つの重大事故が防げるという考え方です。それでもリスク出しがなかなか進まない時には、不安なこと、不公平だと思うこと、愚痴でもいいですよ、と声掛けすることにしています。「社長の出張が多くて不安」「報告だけの会議が多くてこれでいいのかと思うことがある」「イベントでのリスク事項を指摘したが、縁起でもないことを言うなと叱責された」「最近、社員同士の言葉遣いが乱暴だと感じることが増えた」「皆多忙感があり、声がかけにくい」「休みがとりずらい」「毎日会議ばかりでこれでいいのかと思うことがある」「ハラスメントを気にして上司が飲みにも誘ってくれないので失敗談を聞く機会が減った。仕事への向き合い方に不安を感じることが増えた」「この場で言えないことがリスク」等本音に近づく言葉が言えれば、よしよしその調子で出して出して、と褒めていきます。特に社長リスクは大きいのにタブー視されているケースが多いからここが出ることが重要。そもそも洗い出せないリスクはマネジメントできません。徹底的に洗い出すこと、これがリスクの本丸なのです。とにかく洗い出せば、案外すっきりとして皆からも共感され、その共感からから言える場の雰囲気が出来上がり、要因分析、予防策まで進むことができるのです。

 チーム作りの達人、嶋谷光洋さんも次のように述べています。「愚痴が大事なのは、建前で愚痴を言えないからです。愚痴を言うということは、本音で話すということ。本心が出れば自分事化できて、チームメンバーが関心を持ってくれるようになります。おお、そうゆうことだったのかと」。ただし、愚痴を言う時にはルールが大切とのこと。誰かについて語る場合、「あいつが悪いんだ」といった相手の人格を批判、否定するのではなく、「相手のどの行動が嫌なのか」を愚痴ってもらうことだと強調しています。ここが愚痴マネジメントのコツだといえそうです。議論の軸は常に社員が幸せになること。そう、リスクマネジメントは企業存続のためだけでなく、社員一人ひとりが幸せに働くためなのです。

「愚痴とチーム作り」(チームで課題解決2)*

本音を語り合い、経常利益1億から4億へ

 さらに嶋谷さんは、愚痴から業績向上を導き出したある食品会社の事例を解説。利益最下位の水産部所属の社員が「工場はいつも俺たちの商品を後回しにする。俺たち水産部なんかなくなればいいと思っているんだよ!」と投げやりな言葉で愚痴を言いました。その会社の工場は、94%がお肉系の商品、6%が水産系の商品。水産部としては水産系の商品の生産頻度をもっと増やしてもらえれば在庫も減るし、利益が上がると考えていたわけですが、何しろシェアも利益も低いからどうしても後回し。

 そこで、水産部の愚痴を正式な提案として、「もっと水産系の生産頻度を増やしてくれないか」と工場に伝えることにしました。一方、工場からは、「水産の商品を作るときには、機械を止めて、分解して洗浄して組立て直すという手間がかかってしまうから大変なんだ」といった愚痴が出ました。「そうゆうことだったら、分解も洗浄も組み立ても手伝うよ!」と水産部のメンバーが提案し、毎回分解、洗浄、組立てを手伝いに工場へ行くようなりました。これは工場としてはたまらなく嬉しい。工場まで手伝いに来てくれる他部門の人など今までいなかったからです。こうして、工場と水産部は仲良くなり、生産頻度を増やすことで在庫も減らすことが出来ました。半年後には、水産部の利益伸長率は事業部でトップ、部門の経常利益が1億円から4億円という業績となったのです。その後も部署別評価でトップ5の常連を維持しています。

 気持ちのよいチームでのリスクマネジメント好事例です。1部署だけでなく、部門を超えたチーム作りもできることを実証しています。部門間で隔たりのある会社も多いと思いますが、思い切って愚痴るのもありです。愚痴から本心を話せる環境になり、改善されれば、業績向上も夢じゃない。日本では、リスクマネジメントをコストと考えてしまう会社が多いためになかなか導入が進まない現実があるのですが、会社のリスク、課題、社員の愚痴に向き合うことは業績向上、会社の成長につながることをこの事例は示しているといえます。今は、コロナのバカーーーーー!と誰もが愚痴りたい時期です。思い切り愚痴った後は、チームでアイディア出しをして乗り切りましょう。

*「チームで課題解決」は、ヤフーロッジスタジオで収録。撮影、編集は日本リスクマネジャー&コンサルタント協会。(2020年1月28日収録)

【嶋谷光洋氏プロフィール】

株式会社アイマム/Crazy Teams株式会社 代表取締役社長

大阪府生まれ。立命館大学経営学部卒。OA機器法人営業部を経て、1985年、人財育成コンサルティング会社にて、食品スーパー、家電量販店等の小売業界で「売り場づくり研修」「現場のリーダー研修」を提供。2000年、株式会社アイマムを設立し、職種転換者研修、トレーナー養成研修、管理職ファシリテーション研修の設計とチーム運営を手掛ける。2012年、人を育てながら業績向上もコミットする「180日間営業変革プロジェクト」を開発。300チーム以上に導入。2018年、Crazy Teams株式会社設立し、チーム作りプラットフォームを提供。

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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