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社員の身だしなみや行動を良くするには? カギはトップとの「距離感」

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
筆者撮影

 20代から60代997名(男性504、女性493、2019年6月28日~7月5日)に対して、ビジネスコミュニケーションの観点からウェブアンケートを実施しました。日常的なコミュニケーションで外見をどの程度重視するかといった観点と組織内広報活動との関連といった観点からの2回に分けて内容を解説します。1回目は、外見とビジネスコミュニケーションの影響でした。2回目の今回は、外見と組織内広報制度の成熟度との関連について解説します。1回目の内容はこちらです。https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20200325-00167731/

外見変革は自分のためではなく組織の看板を意識したから

 本調査は、帝京大学の吉野ヒロ子氏がリードして組み立てました。吉野氏は背景について次のように述べています。「私自身、今回外見変革にチャレンジしましたが、それは自分のためというよりも、帝京大学という組織の看板を背負うことへの意識からでした。服選びや化粧は苦手なのですが、外部での講演やメディア出演にあたって、それなりの外見で出ることが大学の評判を高めて、学生のためになるかもしれないと感じたからです。組織内広報は、経営理念を社員に浸透させて、連帯感や企業への愛着を高めること、そして社員が主体的に仕事に取り組むようになるのを目標とするものですから、組織内広報がうまくいっている社員は、企業の評判をよくするために外見を整える行動をするのではないかと思いついたのです」。

 これはその通りで、身だしなみや立居振舞は、自分の目線でなく相手目線に立つから必要になります。組織内広報の手段としては、昔から、パンフレットのような形で社内報を配布する(社内報・紙媒体)、トップと役員以外の社員がミーティングを行う機会を設けるといったことが行われています。ネットが普及してからは、イントラネットで社内報を公開する(社内報・ネット)ことも増えて、最近では社内SNSも注目されています。運用の仕方にもよりますが、社内SNSは社員同士の雑談的なコミュニケーションの場を作るという意味もあります。いずれにしても、組織内での情報共有、コミュニケーションを活性化するよう、組織の側から働きかけるものです。

 では、結果はどうなったか。社員数が多い企業ほど組織内広報は整備されていることがわかりました。組織が小さいと、リソースの問題でなかなかできない事情もあるでしょうし、日常的な業務の中で社内の多くの人と直接やりとりすることも多いでしょうから、必要性があまり感じられないかもしれません。中・大規模の組織だと、自然なやりとりに任せているだけでは社内の意識がバラバラになってしまう、そうなると経営にも支障が出るという危機感から整備されていると推測できます。

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※51名は不明・無回答

 次に組織内広報制度のあるなしで経営理念の理解などに差があるのかを分析してみたところ、下の表で緑に塗ったところが統計的に有意な差(たまたまではない差)が出たところです。紙媒体の社内報のあるなしは影響がありませんでしたが、ネットの社内報がある会社に勤めている人と、ない会社に勤めている人を比べると、ネットの社内報がある会社に勤めている人の方が、職場の周囲の人は経営理念を理解しているようだと感じているということになります。特に、「トップとのミーティング」制度があるかないかは強い影響力がありそうだとわかります。

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トップとのミーティング制度があると社員の身だしなみがよくなる

 専門的になるので図表は省略しますが、年齢や性別、学歴、個人年収といった基本属性、顧客との接触頻度、勤務先の規模、役職など影響しそうな要素を加味して重回帰分析という分析をしたら、組織内広報の認知頻度が高い人は、自発的に勤務先のためになる行動を取る頻度が高く、身だしなみ行動の頻度も高いという結果になりました。

 同じように組織内広報の手段別に分析してみると、特にトップと役員以外のミーティング制度がある企業に勤めている人は、そうでない人よりも、自発的に勤務先のためになる行動をしたり、身だしなみを整える頻度が高いという結果になりました。トップとのミーティング制度は、経営理念の理解にも効果があるし、組織内の連帯感にも効果がありました。トップが身近だと社員の外見を整える意識が高まるといえます。内部でのリレーション制度との関係性が数字で明確になったということです。

 吉野氏はトップメッセージの重要性について次のように強調しています。「アメリカの研究で、ある大学の職員に対して組織内広報に関するインタビュー調査をしたら、情報共有はネットが便利だけれど、自分が組織に大事にされていると感じるのは顔を合わせて行うコミュニケーション、特にトップとのミーティングだと多くの協力者が言っていたという報告があります。直接顔を見たこともない経営陣から一方的にあれこれ言われても、これほんとに現場のことわかって言ってるのかなと思いながら、仕方ないのでとりあえずやるという流れになりがちだと思うんですね。トップが貴重な時間を割いて現場の人と交流を持って、現在の課題や未来のビジョンを共有するということは、そのこと自体がちゃんと現場を見てますよ、社員のみなさんを大事に思っているんですよという強いメッセージになるのではないかと思います」。

 人間は好意を寄せられると、好意を返そうとする傾向がありますから、自分が会社に大事にされていると思えば会社に愛着を感じるでしょうし、その結果、会社によいことを自発的にしようとする人が増える可能性があります。そういう組織作りができれば、外見リスクだけでなく、さまざまなリスクの低減にもつながるのではないでしょうか。

 アンケート結果についての解説対談動画は下記です。

「組織内広報とリスクマネジメント」(リスクマネジメント・ジャーナル)*

 最後に、帝京大学の学生達のために今回外見変革に挑戦した吉野氏の努力の変遷を紹介します。下記最初の上の写真が外見変革前の吉野氏。下の写真は、半年後、NHK「逆転人生」に出演した際の吉野氏です。誰かのためといった動機が私達に行動のエネルギーを与えてくれるのでしょう。

2018年10月 一番左が吉野氏

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撮影:近藤義昭

2019年4月 NHK出演中の吉野氏

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撮影:筆者

*「リスクマネジメント・ジャーナル」は、記者会見解説やリスクマネジメント視点を磨く目的で日本リスクマネジャー&コンサルタント協会(RMCA)のチャンネルとして2018年5月から開始。今回は、ヤフーロッジスタジオにて収録。撮影・編集は、相馬清隆(RMCA理事/事務局長)。

吉野ヒロ子氏略歴

帝京大学文学部社会学科専任講師(広報論・広告論)。博士(社会情報学)

内外切抜通信社特別研究員、日本広報学会理事。博士論文「ネット炎上を生み出すメディア環境と炎上参加者の特徴の研究」、『つながりをリノベーションする時代』(弘文堂・共著)ほか。「ネット『炎上』における情報・感情拡散の特徴‐Twitterへの投稿データの内容分析から‐」(共著)は日本広報学会2018年研究奨励賞を受賞。

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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