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【殺処分回避】「うちの子が死んで100日も経ってないですが」高齢飼い主の心臓病と腸炎を持つ猫の里親に

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

一人暮らしをしていた高齢の飼い主が、施設に入ることになりました。この高齢者が飼っていた雄のスコティッシュフォールド・コパちゃん(仮名)の行き先が問題になりました。

コパちゃんの命のバトン

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イメージ写真写真:アフロ

コパちゃんの元飼い主のケアマネージャーさんは「この猫は11歳と高齢で、それに加えて慢性の腸炎と心臓疾患を持っているので、保健所に行けば殺処分になる可能性が高い。なんとか新しい飼い主を見つけてあげることはできないか」と模索しました。

それを聞いてある動物愛護団体が引き取ってくれたそうです。そこからの連絡で、医療従事者のHさん姉妹が、コパちゃんの里親になることを決意しました。

「前の子が亡くなって100日も経ってないのですが」とHさん姉妹が来院

去年の秋ぐらいから、遠方のHさん姉妹は筆者の動物病院に先代の猫のおーちゃん(仮名)の治療に通院していました。

おーちゃんは咽頭に腫瘍がありました、Hさん姉妹が検査結果を持ってきておーちゃんの動画を見ながら、筆者は薬の処方などをしていました。しかし、おーちゃんは、去年の暮れに安らかに天国にいったそうです。

そんなHさん姉妹が、先日、ひょっこり病院に現れました。

「おーが亡くなってまだ100日も経っていないのですが、猫を引き取りました」とHさん姉妹は笑顔で話しました。

コパちゃんの元飼い主は施設に入ったので猫が飼えなくなり、Hさん姉妹が親しくしていた動物愛護団体が引き取ったそうです。

その動物愛護団体が、おーちゃんを懸命に治療と看病をして、そのうえ姉妹がふたりとも医療関係者のHさん姉妹なら、コパちゃんの具合が悪いことを理解してもらえると思いました。その動物愛護団体が、コパちゃんの里親はHさん姉妹が適任と、白羽の矢が立ったのです。

コパちゃんの病歴

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Hさん姉妹から2枚の病歴を書いた紙を渡されました。

コパちゃんは2023年から慢性の下痢が続き、下痢止めや抗生剤などの治療をしていましたが、完治はしていませんでした。

その上、2023年の11月下旬に、呼吸促迫で入院していました。胸水もたまっていたようで、うっ血性心不全と診断が出ています。

現在、コパちゃんは、以下の薬を内服をしています。

・トラセミド

・ピモベンダン

・アラセプリル

・ビオスリー

・ディアバスター

・ファモチジン

コパちゃんは、11歳の高齢の猫なので、うっ血性心不全が完治することは、考えにくいので、トラセミド・ピモベンダン・アラセプリルなどは、ずっと飲ませる必要があります。

元飼い主は、コパちゃんの具合が悪いと動物病院に連れて行き、入院までさせていることがコパちゃんの病歴を見るとわかります(飼い主の中には、シニアになった猫は高齢のために呼吸が早いだけだと考えて治療をしない人もいます)。

コパちゃんの元飼い主は入院をさせて検査もさせているので、数万円以上の治療もきちんと払っていたと推測されます。コパちゃんは、元飼い主に大切にされていたようです。

そのこともよく理解して、Hさん姉妹はコパちゃんの新しい飼い主になりました。

「おーがコパのことをよろしくって言っているのかも」とHさん姉妹は、穏やかに話しました。

里親希望者が現れたが、持病を理由に戻された

高齢者が施設に入ることは珍しくありません。

そんなとき問題になるひとつは、犬や猫を飼っている場合に、次の飼い主を探すことです。コパちゃんは、元飼い主のケアマネージャーさんが懸命に里親探しをして、よい方向に行きました。

一般的に元気な若い猫なら飼い主を探しやすいです。しかし、コパちゃんは、心臓病と慢性の下痢を持っていたのです。そのことを里親になるときは理解していても、実際、病気がある高齢の猫は飼いにくく、また動物愛護団体にも戻されることがよくあります。

そんなことも経験している動物愛護団体が、Hさん姉妹を選んだのでしょう。

コパちゃんは「命のバトン」で健やかに

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元飼い主はきっとコパちゃんのことが心配だったでしょう。

しかし、意識の高い人たちの「命のバトン」でコパちゃんは健やかに暮らしています。このような例は、まだまだ少ないのです。

保護猫を飼う人でも、若くて健康な子を希望します。いきなり、飼った猫に、高額の医療費を払うことを覚悟で、里親になる人は稀です。

しかし、Hさん姉妹は、コパちゃんを殺処分させてはいけないと、おーちゃんが死んでまだ100日も経っていないけれど、覚悟を決められたのです。

高齢者の飼育放棄は珍しくない

コパちゃんは、スコティッシュフォールドということもあり、他にも関節炎などの病気を持っているかもしれません。それでも全部、Hさん姉妹は覚悟しているそうです。

定年退職を機にペットを飼い始める人が増えており、犬や猫がシニアになる頃には、同時に飼い主自身も高齢となるケースが多くあります。高齢者が、犬を飼うと認知症の予防や改善になるとも言われています。

その一方で、その飼い主自身が高齢となり病気や入院、場合によっては死亡などで飼育放棄になるケースも多く、動物愛護団体にそのような子は珍しくないそうです。

今回のように意識の高い人たちがつながり、コパちゃんが元気にしていることは、好例です。こういった人が、すこしずつ増えていくことを願います。犬や猫の寿命が延びているので、その辺りもこれからの課題です。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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