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子犬・子猫の出生日偽装疑い たとえば悪徳ブリーダーの犬はいつも火曜日生まれになるそのカラクリ

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
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毎日新聞は、全国の自治体が11月、環境省の要請で子犬・子猫を扱うペットオークション会場やブリーダーへの立ち入り検査を実施して、出生日の偽装がないかを調べていると報道しました。

動物愛護管理法は生後56日(8週)以下での展示や販売を禁じています。環境省は、この規制を逃れるため実際は生後56日が経過していない幼い子犬・子猫の出生日を偽った取引が行われている可能性があるとみて、実態を調べているそうです。

なぜ、子犬や子猫の出生日の偽装がわかるのか?

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本当に、子犬や子猫の出生日の偽装がわかるのか?疑問に思う人もいるでしょう。それを追求するためには、ずっとブリーダーのところにいて、出産を見守っていると考える人もいるかもしれません。そうではなくある書類を見れば、不審な点があるのです。

子犬や子猫の出生日は、ブリーダーの申告制となっています。獣医師が出生日を記載するわけではないので、ブリーダーによって誕生日を偽装されやすいのです。

ブリーダーは出生日や飼育状況を記録した台帳を提供しており、行政がそれを見れば偽装かどうかがわかるのです。

大規模なブリーダーは、オークションに子犬や子猫を出します。それに合わせて、動物愛護管理法に違反しない生後57日にするのです。たとえば、あるブリーダーは、生後57日になるように、オークションの日を考えてどの子も全て火曜日生まれなどと台帳に記載している場合もあるのです。

全部の子犬や子猫が、全て火曜日に生まれることは不自然で、それで偽造の疑いがある可能性がわかります。

なぜ、子犬や子猫の出生日を偽装するのか?

消費者は、より幼い子犬や子猫をほしがるのです。ペットショップに並んでいる子犬や子猫は、より幼い方が「かわいい」と消費者は思って購入していくのです。それで、幼い子から売れていきます。

消費者が、かわいいけれど、あまり幼すぎる子は健康面や社会面でリスクが多いという知識を持っていれば、購入しないかもしれません。しかし、そうではないのです。目の前にいる子の愛くるしさが消費行動になっています。

なぜ、生後56日以下の販売は禁止なのか?

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動物愛護管理法の改正で2021年6月から、生後56日以下での展示・販売を禁じる「8週齢規制」が導入されました。

以前は、幼い子犬・子猫が消費者に好まれるため、乳歯が生え出して少しした生後4週近くで売買されることも多くありました。

子犬は、生後8週以前に母犬と離すと「かみ癖」や「ほえ癖」などの問題行動を起こす可能性が高まります。母犬の下で、犬の社会を教えてもらうと問題行動は少なくなります。そのような問題行動を起こす子犬は将来、飼育放棄につながる可能性が高くなります。

それ以外にも母犬や母猫からしっかり母乳をもらいストレスの少ない環境でいると、子犬や子猫の免疫力が下がらず感染症にかかるリスクも減るのです。

いまや犬の平均寿命は約14歳で、猫の平均寿命は約15歳です。犬や猫は終生飼育が基本なので、元気で長生きしてほしいです。

愛くるしさを重視して、上述のような社会性がなく、病気になりやすい子を愛犬や愛猫にすることは、飼い主にも子犬や子猫にとっても喜ばしいことではないです。消費者には、生前56日経過した子犬や子猫を求めてもらいたいです。

子犬や子犬の出生日を知る方法

血統書に記載されている子犬や子猫の出生日は偽装されている可能性があるのです。

獣医師である筆者は、子犬や子猫が来ると、まずは歯を見て出生日を推測します。

犬や猫の歯は、生後3週間頃から生え始め、生後2~3カ月頃には乳歯が生え揃います。そして、生後4カ月頃に前歯の乳歯から永久歯に生え変わりはじめます。生え変わりの完了時期は、生後5~7カ月頃です。成長スピードがゆっくりの超大型犬も、遅くても1歳頃までには生え揃います。

血統書では、生後4カ月になっているのに、まだ永久歯が生えてこない子がいて、不思議に思っていたことがありました。このように出生日の偽装の疑いがあるのです。

まとめ

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消費者が、あまりにも幼い子犬や子猫を求めるので、このようなことが行われるのです。早く親元を離れると、免疫力も弱く、社会性ができていない場合もあります。

消費者が幼すぎる子犬や子猫を購入しないようになれば、出生日の偽装はなくなるでしょう。幼いうちに親元を離れるということは、犬生や猫生を左右することですから、消費者が賢くなることは犬や猫が幸せに暮らせることにもつながります。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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