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伝統祭事「上げ馬神事」が動物虐待にあたると海外メディアが指摘。何が問題か獣医師が解説

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
桑名市ウェブサイトの「多度祭 上げ馬神事」より

三重県桑名市の多度大社で例年5月の「上げ馬神事」は、過去3年間、新型コロナウイルスのパンデミックで休止となり、今年、4年ぶりの催されて多くの批判が集まっています。

今年は神事でけがをした馬が殺処分され、動物虐待と指摘がネットで炎上もしています。

この事態に、主催者側は神事を改善する方針を発表したとBBC News Japan は伝えています。

なぜ、伝統行事である「上げ馬神事」の受け止め方はこのように変わってきているのかを見ていきましょう。

何が問題なのか?

上げ馬神事は、三重県の無形民俗文化財で、桑名市のサイトでは680年前の南北朝時代から始まったとあります。

この神事は、観衆から歓声が上がるなかを鎧に身を包んだ騎手が馬にまたがり、急な坂を駆け上がります。坂の上部には高さ約2mの土壁が設けられて、それを乗り越えないといけないのです。

今年の上げ馬神事では、攻略がほぼ不可能な障害物に18頭が挑み、ほとんどが失敗しました。その中の1頭は転倒し、左脚を骨折したため殺処分となりました。

この行事に参加した馬のほとんどが乗り越えることができないので、そもそもこの神事には無理があるのではないか、ということです。馬が乗り越えられない土壁を無理矢理させる行為は、虐待に当たる可能性があるのです。

動物愛護管理法に違反?

馬は犬や猫と同じように「愛護動物」※です。

馬に虐待などの行為をすると、動物愛護管理法により最高で懲役5年、みだりにその身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加えたり、そのおそれのある行為をさせたり、酷使するなどしたら最高で懲役1年に処されます。

この土壁を乗り越えさせる行為は、虐待の可能性があるのです。主催者側は、前述の南北朝時代から行われている伝統祭事なので、そう目くじらを立てることないではないかと思っているのでしょう。

時代により虐待の考え方が変わっていくのを主催者側はあまり理解をしていなかったのかもしれません。

※愛護動物とは、牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、あひる、さらに、人が占有している動物で、哺乳類、鳥類、爬虫類に属するものを指しています。

サラブレッド

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

今回、殺処分された馬は、サラブレッドで元競走馬の「メルズーガ」で2015年4月2日生まれでした。2019年には初優勝し、引退したのは今年2023年の2月です。

出場レースは111回、うち優勝回数8回だったそうです。2月に引退したばかりで、もう6月には殺処分されてしまっているのです。

サラブレッドは、ガラスの脚と言われるほど細い華奢な体をしています。走るために改良された馬だからです。障害物競走の馬とは違うのです。

昔から使われていた馬は、サブレッドではなく、日本にいたもっと頑丈な体格の馬だったので、事故が起こりにくかったのかもしれません。

そもそも日本にはサラブレッドはおらず、1907年にはじめて21頭が海外から輸入されたと言われています。

引退したサブレッドをこの神事に使わなければいけないのか、考える必要があります。

スピードを競うスポーツカーを傾斜や障害物のある道を走らせるとどうなるか、考えると理解できると思います。

SNSの発達

いまはSNSが盛んな時代なのです。

このような時代以前だと、三重県の桑名市で行われている神事は、見に行った人しか知らないクローズな世界で終わっていたのでしょう。

しかし、上げ馬神事が、動画などで多くの人に拡散されて、何が行われているか日本だけではなく、世界に広またのです。世界では動物愛護について、高い意識を持つ人が増えているのです。

BBC News Japanがニュースに

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

ジャニーズ事務所の性加害問題をBBCが伝えたことを受けて、日本のマスコミの報道も変化しました。この上げ馬神事も、BBCが伝えたことで、対策を取らないといけなくなってくるのかもしれません。

伝統祭事だということに胡坐をかいていないで、いまの時代、馬の虐待になるかもしれないと考える必要があるのです。日本の常識が世界の非常識にならないように、上げ馬神事について考えていただきたいです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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