Yahoo!ニュース

癒やし系動物として人気の「ナマケモノ」はペットとして飼うことができる?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

知人から「ナマケモノはペットとして飼えるの?」という質問がありました。

最近、インターネット上でナマケモノの写真や動画が投稿されており、珍しい野生動物として注目を集めています。しかし、このような背景から、ナマケモノをペットとして飼いたいと考える人もいるようです。そこで、今日はナマケモノをペットとして飼うことができるかどうかについて考えていきたいと思います。

ナマケモノはどんな動物?

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

ナマケモノは世界で一番動きが遅い哺乳類です。のんびりと木にぶら下がっている姿を見て、飼いたくなる人がいるかもしれません。彼らの愛らしい姿には思わず笑顔になってしまうほどです。

ナマケモノは一日のほとんどを寝て過ごし、起きていてもじっと動かずにいます。ナマケモノは中央・南アメリカの森林地帯の10mから30mほどの高さにある樹木の上で生活しています。

ナマケモノはのんびり木にぶら下がっているのでしょうか?

ナマケモノは、木にぶら下がって一日のうち15~20時間ほど眠ります。この状態のナマケモノは、遠目には樹木の一部のように見え、肉食動物から身を守る擬態ともなっています。

起きている時も、ほとんど動くことなく自分のそばの葉っぱを食べたりしています。あまりにもじっとしているので、ナマケモノの長い毛には藻が生えてしまうほどです。この藻もナマケモノは食べます。

実は、ナマケモノが「グウタラ生活」をする大きな理由があります。それは「省エネ」なのです。ナマケモノは、栄養がほんの少ししか取れなくても生きていけるように、エネルギーをできるだけ使わない生き方をしているのです。

ナマケモノは木から降りることはないのでしょうか?

ナマケモノは、寝る時も、食べる時も、出産する時も、木の上にいます。木の上でじっとしていると、周りの木々にまぎれて動かないので、肉食動物に見つかりにくいのです(体臭もあまりないです)。それでも、約1週間から10日に1回、ウンチをするために木から降ります。

ナマケモノは何を食べているの?

1日のエサの目安量は8〜10gの間なのでほとんどエサ代がかかりません。

具体的には、小松菜・人参・バナナなどの野菜、果物を毎日欠かさず少量ずつ与えます。水は餌から取れる水分で足りますので、水入れを用意する必要はありません。また、ネギ類や水分の多い野菜をナマケモノに与えてはいけません。

ナマケモノは、温度と湿度管理が大切

ナマケモノは哺乳類なのに変温動物です。

外気温に合わせて体温が25度~35度の間で上下します。

熱帯雨林に住む動物なので、それ以外の場所で健康に過ごすには、気温26度~30度で湿度80%の環境を維持しなければなりません。

ナマケモノをペットとして飼えるの?

写真:イメージマート

ここまで読むと、エサ代もそんなにかからないし、ほっこりした動物と一緒に生活したいと思うかもしれません。温度と湿度管理だけちゃんとすれば、大丈夫なのだと考えるかもしれません。

しかしながら、ミユビナマケモノをペットとして飼う場合は、ワシントン条約の規定により禁止されています。ワシントン条約は、絶滅の危機に瀕している野生動物を保護することを目的とした国際条約であり、多数の野生動物種が取引の対象となることを禁止しています。ナマケモノの中のミユビナマケモノ科その一つで、ゴリラ、オランウータン、チンパンジー、カバなどと同じように附属書IIに掲載されています。

したがって、ナマケモノの種類によっては、ペットとして飼うことは、ワシントン条約に違反します。取引が発覚した場合、違反者は法的制裁を受けることもあります。私たちは、野生動物の保護のためにワシントン条約を遵守し、違法な取引や飼育を行わないことです。

ナマケモノにはミユビナマケモノ以外にもフタユビナマケモノおり、フタユビナマケモノはワシントン条約の規定対象外ですが、それでも飼育することは動物園など以外は難しいです。

人間はなぜ、野生動物を飼いたくなるのか?

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

ナマケモノは、のんびりとした動きや愛らしい見た目から、世界中で人気があります。一部の人々は、自宅でナマケモノをペットとして飼いたいと考えるかもしれません。そのように、法律的に禁止されている種類があるとわかっていても飼いたい人がいるので密漁などが行われるのです。

人間がナマケモノなどの野生動物を飼いたくなる理由の一つに、野生動物は自然の中で生きる姿が美しく、人間にとって観賞対象として魅力的に映るということが挙げられます。

また、野生動物は犬や猫が持っていない新鮮な刺激を与えることがあるでしょう。

そのうえ、一部の人々にとっては、野生動物を飼うことがステータスや特別感を得る手段となっている場合もあります。

しかし、野生動物をペットとして飼うことには多くのリスクが伴い、飼い主自身や動物に危険をもたらす可能性があることも忘れてはなりません。ナマケモノは、木にぶら下がっているので、鋭い爪を持っています。抱っこできそうですが、ペットではないので、あまり触れることを好みません。

そして、ナマケモノを専門に見られる獣医師を街の動物病院で探すのは難しいです。

まとめ

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

野生動物は自然界に適応した生き物であり、人間に飼われる環境下で適切な生活を送ることは困難です。もちろん、動物福祉の観点からも、野生の動物を飼うべきではないです。家畜化されていない野生動物は、人間の住居ではなく自然環境で生きられるよう進化を遂げています。

いまや、SNSでまことしやかに、野生動物がペットのように飼いやすいとされているかもしれませんが、そんなことはないのです。熱帯の森林に生息するナマケモノを見たくなれば、動物園に行きましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

石井万寿美の最近の記事