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「地獄のような繁殖施設」で209頭の犬を飼育していたブリーダーが逮捕。近隣住民に及ぼす影響は?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

犬や猫にあまり興味がない人は、悪質なブリーダーやパピーミル※は、人の目につかないところにあり、自分にはあまり関係がないと思っているかもしれません。しかし、今回紹介する事件があったのは大阪の寝屋川市で住宅が建て込んでいるところで、地獄のような繁殖施設があれば、犬猫だけではなく近隣住民にも被害がでます。

※パピーミルとは:パピーは英語で「子犬」で、ミルは「工場」を意味します。営利を目的として犬を劣悪な環境で大量に繁殖させている場所をいいます。

「地獄のような繁殖施設」の実態とは?

MBS NEWS【スクープ】地獄の繁殖施設『くさい』『やかましい』悪質ブリーダー女を逮捕「病気の犬放置か」施設内は『小さなケージ』『室温は30度超』『フンを放置』(2023年2月9日)より

上のMBS NEWSの動画を見ると、ある程度、繁殖施設内がわかります。

狭いケージに数匹の犬が折り重なり、なおかつそのケージが積み重なっていて、掃除を適切にしてもらっていないのか、ふんが堆積していますKYODOは、そこでは209匹の犬を飼育していたと伝えています。

家の内部は、部外者にはわからないので、その家がパピーミルであることがわからないかもしれません。その一方で、近隣住民に伝わってくるものがあるのです。

地獄のような繁殖施設があると近隣住民はどうなるか?

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イメージ写真写真:イメージマート

犬や猫に関心がない人は、地獄のような繁殖施設があっても、それは確かに犬や猫がかわいそうだけれど、あまり関係がないと思われがちです。

近隣にパピーミルがあると以下のようなことが起きる可能性があります。

悪臭問題

大阪府警は昨年11月、今回事件になった大阪府寝屋川市の犬繁殖施設を家宅捜索した際、臭気を測定し、悪臭防止法で定める規制基準の上限5ppmを大幅に超える40~130ppmを記録しています。つまり基準値の8倍から26倍の悪臭がしていたのです。取材に訪れたMBS NEWSの記者が「外からでも悪臭がわかる」と伝えています。

ゴキブリ、ハエなどの虫が多量に発生する

ふん尿を適切に処置していないので、ゴキブリ、ハエなどが多量に発生します。

ネズミが多量に発生する

上のMBS NEWSの動画にもありますが、ネズミが多量に発生したので、近隣の食品関係の会社が、一軒家の持ち主に再三苦情を入れたということです。

ネズミは、多くの病原菌を運ぶので人間に危険な病気をもたらします。

ネズミは、下水道や床下、天井など不衛生な場所を移動して、毛やふん尿を落とすので、家中に病気の危険をまき散らしているのです。

ネズミ由来の感染症

「鼠咬症(そこうしょう)」

ネズミに噛まれることによって、傷口から「スピリルム」や「ストレプトバチルス」と言った菌が人間の体の中に入り発症します。

「サルモネラ症」

サルモネラ症は、サルモネラ菌が原因で起こる病気です。肉や卵の食中毒の原因としてよく取り上げられていますが、ネズミが食べ物をふん尿などで汚染していたことに気づかなかったりすると、この病気になることもあります。

「レプトスピラ症」

ネズミなどの排泄物で汚染された水や土などから、人間の皮膚または口を介して感染する病気です。レプトスピラは、水中でも感染することがあり、1999年の夏には八重山地域でレプトスピラ症が集団発生しました。

これらのことから、ネズミがいるとその地域は不衛生になります。

騒音問題

絶えず犬の鳴き声は近隣住民のところまで聞こえていたそうです。ときには、犬が怒られているのか悲鳴のような声までもあったそうです。

地獄のような繁殖施設がある場合、近隣住民のできること

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イメージ写真写真:アフロ

このように、今回の大阪の寝屋川市で起きたパピーミルの事件は、犬にとどまらず、近隣住民の生活を脅かしているのです。

外からわかることは、以下です。

・犬の鳴き声が異常で続く

・ふん尿の悪臭がする

・ゴミが異常に多く適切に処置されていない

などのことがあれば、やはり保健所などに届けるべきです。そのように行動をしてもらうことで、地域住民の環境を守り、その家の中で繰り広げられている犬のネグレクト状態という虐待を防ぐことができます。

外からでも認識できる事実を知ってもらいたいです。多くの人に犬猫が衛生的な環境で、適切なフードや水をもらっていないネグレクト状態は、動物愛護法に違反している可能性があるのです。

最近は、地域のコミュニティが希薄ですが、地域の環境も観察して、このようなことをお互いで防ぎましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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