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【猫の豆知識】幸福を招く“かぎシッポ”って知っていますか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

獣医師は、毎日、診察で猫のシッポを見ながら仕事をしています。それは、感情を表しているからです。シッポが膨らんでいるときは、猫は興奮しているので怒っていることが多く、ひっかかれることがあるので要注意です。

猫のシッポの形態には、いろいろとあるのを知っていますか。長いシッポだけではないのです。今日は、幸運を運んでくるといわれている猫の“かぎシッポ”について見ていきましょう。

幸運を招く猫の“かぎシッポ”とは?

筆者が撮影
筆者が撮影

猫のシッポには、スッと長いもの、短いものなどがあります。その他にシッポの先が「曲がっている」「鍵」のような猫がいます。そのような猫を「幸運を招く」と言い伝えられています。

シッポが曲がっているので、「幸福をひっかけてきてくれる」と考えられています。そこから、かぎシッポ、つまり尾曲がり猫を幸運の猫と呼ばれています。

長崎には『尾曲がり猫神社』というユニークなところがあります。日本一小さな屋内型「猫神社」で、「猫と猫好きさんのための神社」だそうです。猫の健康長寿、そして飼い主の開運、幸せを祈願してもらえます。

尾曲がり猫神社は、猫好きの人には嬉しい尾曲がり猫のグッズ(御朱印、猫の髭保管ケース、クリアファイルなど)が売られています。神社に行けない人もオンラインショップで買うことができます。

長崎の猫は、尾曲がりシッポ率が約8割?

朝日新聞 長崎は猫のまち? より

そんな幸福を運んでくる猫なら、会ってみたい、飼ってみたいと思う人も多いでしょう。

なんと「猫のまち」といわれている長崎の猫のシッポは、「尾曲がり率」は全国でトップ、約8割といわれています。

上の動画でもわかるように、長崎は坂が多く車が入って来れないところもあり、比較的暖かいので猫には住みやすい環境です。そんな長崎の尾曲がりは以下のようになっています。

尾曲がり猫は大きく分けて以下のように分類しています。

1、先端が折れ曲がった形「尾曲がりシッポ」

2、途中で切れたように短い「短尾」

3、カールして丸く見える「団子シッポ」

いずれも長崎市内ではこれらのシッポの子が一般的で、シッポがまっすぐな猫の方を珍しがる地元の人も多いといわれています。

ちなみに、この尾曲がり猫を調査したのが京都大の野沢謙名誉教授で、全国の1万2千匹を対象に1990年に行った調査では、尾曲がり率は長崎県に続き鹿児島県(73.9%)、宮崎県(62.7%)、熊本県(62.5%)と九州4県が上位を独占しています。

調査から20年近くたった2009年に、市民団体「長崎尾曲がりネコ学会」が長崎市中心部の4カ所で調べたところ、会員が遭遇した猫95匹のうち尾曲がりは71匹。率にして74.4%だった。80.0%だった地域もあり、依然、尾曲がり率は高いままだそうです(以前より、減っているので、尾曲がり猫を守らないといけないという動きもあるそうです)。

なぜ、長崎の猫は「尾曲がりシッポ」が多い?

撮影は筆者
撮影は筆者

尾曲りシッポの中に、短いシッポの猫も入っているのだったら、それはケンカで切れた、シッポを踏まれて曲がったのではないのと思っていませんか。

長崎の猫のシッポが曲がっているのは、遺伝的なものなのです。生まれたときから、このようなシッポになっています(虐待とかではないです)。

それは、長崎の歴史に関係しているのです。

江戸時代、日本は鎖国していましたが、長崎の出島は、海外から船がやってきていました。

この「尾曲がりネコ」たちは、もともとインドネシアのジャカルタ周辺が原産地と考えられており、ネズミ退治のために猫を貿易船に乗せていたので、そのジャカルタの猫が、日本にやってきたためだと推測されています。

野沢名誉教授は研究の過程で、尾曲がり猫の原産地が東南アジアで、特にインドネシアに多く生息することを突き止めていました。

平安から鎌倉時代にかけて描かれたとされる国宝「鳥獣戯画」にも、まっすぐで長いシッポの猫しか描かれていません。しかし、猫の絵を多く描いている歌川国芳が1848年ごろの浮世絵「猫飼好五十三疋(みょうかいこうごじゅうさんびき)」には、数多くの尾曲がり猫が登場しています。日本では、江戸時代中期から後期にかけてこの猫が突然現れたといわれています。

「尾曲がり猫」を飼うときの注意点とは?

まっすぐなシッポの猫より、シッポがひっかかりやすいので、場合によってはシッポが何かに絡まりやすいです。そのため、飼い主は、猫が部屋の隅に入って出てこれないときもあるので、何か絡まっているのかを見てあげてください。

尾曲がりシッポの世話の仕方

シッポに糸などが絡まっていることが、稀にありますので、毎日、シッポの先まで、なにか絡んでいないかをしっかり見てあげてください。強く糸などが絡んでいると、先が壊死することもあります。

まとめ

撮影は飼い主
撮影は飼い主

毎日、愛でている猫ですが、シッポにこのような歴史的な背景があるというのは、面白いです。

毎朝、起こしに来る猫のシッポが、「尾曲りシッポ」「短尾」「団子シッポ」なら、江戸時代に船に乗ってやってきたジャカルタの猫の末裔かもしれません。ジャカルタの血を引いている猫なら、寒がりかもしれませんので、温活をしてあげてくださいね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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