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「猫の多頭飼育崩壊」と絶滅危惧種「ヤンバルクイナの保護」にある因果関係とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

コロナ禍で在宅の時間が多くなったことや孤独を感じる人がいるなどの理由で、多頭飼育崩壊が増えています。多頭飼育崩壊は、もちろん、そのペットと飼い主の問題ですが、それだけではないのです。

ひとたび多頭飼育崩壊が起きると、近隣住民の衛生的な環境が侵されます。そして警察署や保健所が動き税金が投入されることになるので、巡り巡って皆の問題でもあるのです。

「猫の多頭飼育崩壊」の解決には糸口が沖縄県の絶滅危惧種【ヤンバルクイナの保護】にある因果関係があるのです。そのことを見ていきましょう。

沖縄県の「一生うちの子プロジェクト」とは?

一生うちの子プロジェクトより提供
一生うちの子プロジェクトより提供

筆者が書いた記事【臨床獣医師の告白】野良猫は「ほとんど生き残れない」過酷な現実を知っていますか?が12月に沖縄県で「一生うちの子プロジェクト」のイベントに使われたので、それを聞きに行ってきました。

沖縄の12月の平均最高気温は21.3度で比較的暖かいと思ってはいましたが、到着日は最高気温が29度もありました。沖縄は亜熱帯の気候だから当然です。

そんな沖縄のやんばる地域は世界遺産にも登録されて、希少な動物も生息し、猫が増えやすい環境にあるので(後述します)猫の保護活動がされています。

沖縄県は、子どもたちにしっかり猫の飼育の教育をする方針です。子どもが学ぶことで、その周辺にいる大人たちに伝わり、猫を飼うことの認識が変わっていくからです。

「一生うちの子プロジェクト」のイベントの様子

・コミカルな演劇

猫、犬、ヤンバルクイナ、オキナワトゲネズミなどの着ぐるみを着たコメディアンが演劇をする

・子どもに呼びかける言葉

子どもがわかりやすい言葉にし、難解な言葉を使わないようにしている

などをしながら、商業施設のような誰もが聞けるオープンスペースでこのイベントが行われていました。

主催者の話によると、高齢者に猫の適切な飼い方(完全室内飼いにするなど)を指導してもなかなか猫の飼い方を変えてもらえず、一方、子どもや孫がそのような知識を得ていると、高齢者の行動変化が比較的起こりやすいそうです。たとえば、「おじいちゃん、野良猫に餌をやったらダメよ。この間、習ったから」という具合になりやすいのです。

やんばる3村の猫に対する取り組みとは?

環境省 やんばる野生生物保護センター より
環境省 やんばる野生生物保護センター より

沖縄本島北部の「やんばる」と呼ばれる地域は国頭村(くにがみそん)、東村(ひがしそん)、大宜味村(おおみぎそん)の3村からなり、この地域はヤンバルクイナなどの希少野生動物がいます。この希少動物を猫が襲うことがあるので保護のため2005年4月から、いわゆる以下のような猫条例があります。

飼い猫には、マイクロチップを入れる

猫を飼い始めてから30日以内に村へ飼養登録申請をする

猫の繁殖を望まない場合は不妊去勢手術をする

野良猫に餌を与えない

やんばるの3村では、飼い猫の登録義務化が行われています。違反者には氏名公表の罰則も設けています。マイクロチップの埋め込みは2003年度から環境省のモデル事業として進んでおり、既にほとんどの飼い猫に施術されています。

なぜ、やんばるで猫が増えるか?

もちろん、猫を捨てる人、放し飼いの猫、野良猫がいるからです。その他にやんばるは、猫が増えやすい環境があるのです。

亜熱帯の森林があり、豊富な小動物がいる

猫は、1匹で狩りをする能力を持っているので、ヤンバルクイナやオキナワトゲネズミはもちろんのこと、1000種の動物の狩りをするといわれています。つまり、生ゴミなどがなくても、狩りをして生きていけるのです。

やんばるは温暖な地域のために繁殖しやすい

猫は寒いのが苦手なので、12月でも最高気温が20度以上あるやんばるは、猫には過ごしやすい環境です。

猫は乾燥した地域の出身なので、多くの水を必要としない

猫は、乾燥しているところが多い中東出身の動物なので、犬ほど水を必要としません。血液と露を舐めて水分補給ができるのです。

森林に生息するネズミを食べることで血液を飲み、そしてまだ不足しているときは、植物についている露を舐めるぐらいで水分補給ができる動物なのです。

多頭飼育崩壊しないためには?

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

多頭飼育崩壊の環境下は、閉鎖的で衛生的な水が供給されていないかもしれません。そのような環境は比較的暖かなので、猫が繁殖しやすいのです。そして、不妊去勢手術をしていないので、子猫が生まれると共食いなどもあります。猫は非常に適応能力があるので、劣悪な環境でも生き延びる子が多いです。

多頭飼育崩壊を防ぐために、やんばる3村で実施しているような猫条例を作って、猫の個体管理をすれば、いいのではないでしょうか。条例を作っておくと、多頭飼育崩壊になりやすい飼い主を未然に見つけて、行政も指導がしやすいです。

猫の多頭飼育崩壊を起こす現場は、数カ月で崩壊することは少なく、年月がかかります。地域住民が異変を感じて、保健所などに相談して未然に防ぎ、世話をされないネグレクト状態のペットを作り出さないようにしたいです。

まとめ

ヤンバルクイナ(環境省サイトより より
ヤンバルクイナ(環境省サイトより より

ヤンバルクイナは昭和56年(1981年)に新種として発見されました。沖縄島のみに分布する固有種です。全長30cmでハトぐらいの大きさであり、日本唯一の無飛力の鳥類(飛べない鳥)です。

ネコ科の動物は肉食なので、歯は獲物を殺すためにも使えます。猫が飛べない鳥であるヤンバルクイナを捕まえて、ひと噛みで致命傷を負わせることは、難なくできるのです。

自然豊かな亜熱帯の森林は、ヤンバルクイナなどの希少動物も生息しやすい反面、猫にも繁殖しやすい環境なのです。

日本の野生の猫は、イリオモテヤマネコとツシマヤマネコです。やんばるには野生の猫はいないので、人間が完全室内飼いすれば、やんばるの希少動物を守ることができます。

猫を飼う場合は、マイクロチップをつけて届け出制にすれば、多頭飼育崩壊がもっと減るでしょう。日本では、在宅ワークなどで猫を飼う、または飼おうとしている人が増えています。その前に、猫を飼う制度を見直す時期に来ているのではないでしょうか。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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