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【多頭飼育崩壊と虐待】雨のように大量のゴキブリが落ちてくる環境は猫にとって幸せか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
琉球新報のサイトから

RBCは保護した野良猫の動物愛護法違反の容疑で逮捕された50代の女性が「たぶん多頭飼育崩壊ですよ。周りはそう言ってますね、そういう風に。だから猫ちゃんたちは何があっても助けたいんだと、私が保護しなかったらみんな殺されてるんじゃないですか、野良猫は、と思いますよ」と伝えています。

なぜ、ふん尿が堆積されるような環境で猫を飼うと虐待になるのかを、猫の習性から考えてみましょう。

多頭飼育崩壊の現場とは?

猫38匹 飼育崩壊 動物愛護法違反容疑で女を逮捕 琉球新報より

「多頭飼育崩壊」という言葉を最近ネットなどでよく目にするようになりました。

言葉では、知っていても映像で見ると、やはり劣悪な環境であることがよくわかります。

多頭飼育崩壊の現場は、以下のようになっていました。

飼育する建物は元倉庫で、床には猫のふん尿や猫の毛などが数センチの高さに堆積し、数カ月前には亡くなった猫が多数放置されていたそうです。ここには、電気や水道などの設備はないので、水などはどこから運んできたのでしょう。

映像を見ると、室内には、ケージ、ゴミ、空のペットボトル、扇風機、家財道具が散乱し、そこを猫が動き回っています。

捜査員らは、防護服で身を包みマスクやゴーグルを装着して異様な光景で、猫を運び出しています。重装備の理由は、猫のふん尿が積もって鼻を刺すような臭いで、そのうえ、大量のゴキブリがひしめいている環境なのです。倉庫の周辺は、島内で住宅の集まる地域で近隣住民も悪臭に苦しめられていたということです。

こんな環境下で、猫を飼育していても動物虐待にならないと思っている人もいるのです。

猫にとって、ふん尿が蓄積する飼育はなぜよくないか?行動学から考えてみよう

多頭飼育崩壊になると、ネグレクトになりそれは動物虐待です。叩くなどの危害を与えるなどの積極的な動物虐待だけではないのです。

ネグレクト(neglect)は、無視すること、軽視するという意味です。この場合は、猫の世話をする責任がある飼い主が猫の世話を適切にしないことになります。

ネグレクトは、子どもの世話をしない保護者に使われることが多いのですが、最近ではペットの飼育放棄に対してもこの言葉を使います。

猫の多頭飼育崩壊の現場は多くは以下のような状態です。

・猫のふん尿が堆積

・猫の毛が堆積

・ノミ、ダニが発生

・ゴキブリやハエなどの害虫が発生

・衛生的な水分の補給ができない

・猫の死体があったためネズミなどが発生

動物虐待容疑で逮捕された女性の「猫が殺処分されたくないので猫を保護したい」という気持ちはよくわかります。しかし、保護したとしても適正な飼養環境でないと虐待になってしまうのです。

それでは、猫の行動学から「なぜ、劣悪な環境で飼育すること」がよくないのかを見ていきましょう。

猫は嗅覚が発達している

写真:イメージマート

報道によりますと、この倉庫は悪臭が漂い捜査員でもここにずっといることができなかったそうです。

猫の嗅覚は、人間の10倍鋭いです。このニオイの中にいることは、かなりのストレスだったでしょう。

猫は清潔好き

写真:イメージマート

猫は、単独で狩りをする動物です。ニオイには敏感です。

筆者が、治療で猫に触るとその後、比較的元気な猫なら必死で毛づくろいをしています。ニオイがついたのが、嫌だからです。

猫を飼っている人は、よく知っていると思いますが、飼い主が忙しくてトイレが清潔でないと、オシッコを我慢して膀胱炎になったりすることがあります。このように猫は、清潔な環境でないと病気になりやすいのです。

ふんを埋めることができないとストレスになる子も

写真:イメージマート

多頭飼育崩壊ということは、多数の猫がいます。その中には、猫社会において地位の下位の子もいるわけです。

一般的に、猫がふんを埋める行為は、それによって自分のニオイの効果を弱める手段だといわれています。優位の雄猫は、ふんを埋める行為はしなくて、自分のふんがもっとも効果的に漂うところに排泄するのです。

つまり、地位の下位にいる猫にとって、ふんを埋めるところもないこのような環境だとストレスがたまるのです。

猫の伝染病がまんえんする

写真:イメージマート

猫が多頭いると猫同士の以下のような感染症になりやすいのです。

・猫ウイルス性鼻気管炎

・猫汎白血球減少症

・猫カリシウイルス感染症

・猫白血病ウイルス感染症

・猫エイズウイルス感染症

・猫伝染性病腹膜炎

など

このような理由で、ネグレクト状態の劣悪な環境は猫に対して虐待になるのです。

猫は、適正な数で衛生的な環境で飼育を

写真:アフロ

野良猫は、人間が作り出したものです。

日本には、ツシマヤマネコ、イリオモテヤマネコ以外の野生の猫はいません。そのため、猫を飼っている人は、不妊去勢手術をして望まない命を生み出さないことです。

ちなみに、イリオモテヤマネコが生息している西表島には、「竹富町猫飼養条例」があります。これまで西表島で実施してきたマイクロチップを用いた猫の飼養登録が、令和4年4月1日より竹富町の全ての島で義務化されています。登録を円滑に進めるために獣医師の巡回派遣事業も進めています。そのため、野良猫はほぼゼロに達成したかといわれています。

きれいごとに聞こえるかもしれませんが、適切な数で衛生的な環境で猫を飼育しないと、猫にはストレスがかかります。

まずは、猫は繫殖力が旺盛な動物だということを知って、猫が好きで保護するのだから、上述のような猫の習性を考えて飼育しましょう、

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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