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【繁殖引退犬】が増加。その理由と診察を通して推測できるブリーダーの闇とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

最近、繁殖を引退した犬の譲渡が増えているので、筆者の動物病院にその子たちが来るようになりました。

診察をしていると、繁殖を引退した犬たちの共通の病気や性格があることに気がつきます。そこから、ブリーダーの闇を垣間見ることができます(もちろん、全部の繫殖を引退した犬が、このような状態だったと思いたくはないのですが)。

なぜ、いま繫殖を引退した犬が増えたのかと、繁殖場でのこの子たちの待遇を考えてみましょう。

規制で13万頭もの繁殖用の犬や猫が路頭に迷う?

動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律の施行(令和3年6月1日)に係る関連省令等の整備について(概要)
動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律の施行(令和3年6月1日)に係る関連省令等の整備について(概要)

繫殖用に飼育されていた犬や猫の譲渡が増えている理由は、2021年に公布された環境省令の「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令(省令基準)」のためです。経過措置を取りながら2024年6月に完全施行されます。

この省令を具体的に見ると、飼養設備のサイズ(ケージなど)、従業員1人あたりの管理頭数、雌犬や雌猫の交配年齢や出産回数などの数値が規制されることになりました。この数値規制によって13万頭もの繁殖用の犬や猫が路頭に迷うといわれています。

臨床現場にいて感じるのは、上の写真の文章のある年齢制限が大きいようです。筆者が「この子は、何歳ですか」と尋ねると保護主は「たぶん、7歳は過ぎたぐらいで」と答えます。

つまり、飼養設備のサイズが足りていないとか、従業員の数より繁殖の犬や猫が多いからとかよりは、年齢的なことで引退している犬が多いようです。筆者は、7歳以下の子が、ブリーダーから譲渡されたのを見たことがないのです。

繁殖引退犬の特徴

以前の繁殖用の犬を診察するときは、ブリーダー崩壊の子たちでした。去年になってから、愛護団体から繁殖引退犬の里親になった飼い主が来院されるようになりました。

筆者が見た繫殖引退犬は、雌も雄も同じような特徴を持っています。そのことを詳しく説明します。

歯石がたまり口腔内の状態が悪い

筆者が診察した繫殖引退犬で、口腔内が健康な子を見たことがありません。里親の元に来る前に、愛護団体で口腔内の治療をしてもらって、ほとんど歯がない子か、あるいは歯にこれ以上歯石がたまらないという状態になっている子がいました。

その他には、雌犬の場合は、6回ぐらい出産しているためか、栄養状態が悪く、出産でお腹の子犬の栄養のためにカルシウムが足りなったのか、歯が解けたように脆くなっている子もいました。雄犬は、出産はしないですが、雌犬と同じように歯が悪かったです。

つまりこれらの子たちは、繫殖用の道具とされていて、歯のケアをされていない子がほとんどでした。

不妊去勢手術をしていないので、乳がんや前立腺肥大に

繫殖用に飼われていたので、もちろん、雄も雌も引退するまで不妊去勢手術はしていません。そのため、適切な時期に不妊去勢手術をしているペット用の犬より、雌犬は乳がん、雄犬はや前立腺肥大、肛門周囲腺腫、肛門周囲腺がん、肛門嚢アポクリン腺がんなどになる子は多くなります。

新しい里親が決まると、不妊去勢手術している子もいるので、子宮蓄膿症などの子宮の病気にはならないです。繫殖引退犬を飼う場合は、すぐに不妊手術をしないと、子宮蓄膿症などの病気になる子もいます。

感情を表にあまり出さず辛抱強い

繁殖引退犬は、治療のために抱っこをするときや採血するときも抵抗することなく、おとなしく静かにさせてくれます。一般のペット用の犬は、もっとフレンドリーだけれど、おとなしくしてくれるという感じです。

違いは、繫殖引退犬は抵抗しないでいると事が済むということを悟っているように感じられて、保定があまりいらず採血がしやすいと、ブリーダーが力で制して無理やり繫殖させていたのかと思うと心が痛いです。

繁殖引退犬の里親になるときの心得

写真:イメージマート

繁殖を引退した犬は、外見がきれいな子が多いです。

年齢は、7歳すぎでシニア期になるけれど、こんなきれいな子だったら、飼ってみようかな、と考えるかもしれません。この子と、一緒に暮らし始めてみようと、思う気持ちは大切です。

しかし、上述のような病気になりやすくペット用のシニアの里親とは違うのです。

そして、性格は人馴れしていなくて、表情が乏しい子もいます。これは、時間がかかるかもしれませんが、愛情深く接していくうちに、ペット用に飼われている犬のようになっていきます。

2021年から、省令により繁殖用の犬や猫の規制が数値化されて厳しくなり、その規制に合わない子が譲渡されるのならと飼い始めて、いざ病気になってしまったら、こんなはずではなかったと思わないようにしてください。

繫殖を引退した犬についてのこのような知識を持ち、よく考えてから里親になりましょう。繫殖を引退して次々に里親が変わるより、その後は、ずっと同じ里親の元で暮らしてほしいものです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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