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「時間がありません。助けてください」詐欺事件でわかった動物のクラウドファンディングの落とし穴

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真 この写真は黒のラブラドール・レトリバー(写真:yamaoyaji/イメージマート)

動物が好きの人を震撼させる事件が起きました。そのような人は、病気の子などの治療費がいると見れば、心が動きます。私の少しの募金で助かる子がいれば、こんな喜ばしいことがないと考えて寄付しています。

その寄付先であるクラウドファンディングで詐欺が行われていて、26歳の女が逮捕されました。

今日は、動物のクラウドファンディングで詐欺に遭わない方法を考えてみましょう。

既に死んでいた愛犬の治療費をクラウドファンディングで募った

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

それでは、この事件を詳しく見ていきましょう。MBSNEWSによりますと、以下のように出ています。

 既に死んでいた愛犬の治療費をクラウドファンディングで募り、約185万円をだまし取ろうとしたとして、26歳の女が逮捕されました。

 詐欺未遂の疑いで逮捕されたのは奈良県大和高田市の無職・須藤栞奈容疑者(26)です。警察によりますと、須藤容疑者は去年10月からの約1か月半、肺動脈狭窄症で死んだ愛犬が生きているように装って治療費をクラウドファンディングで募り、374人から約185万円をだまし取ろうとした疑いです。

つまり犬は既に2カ月前に死んでいるのに、それまでに多額の治療費を払って生活も苦しくなっているのでクラウドファンディングをして、185万円をだまし取ろうとしたということです。

なぜ発覚したのかは、フラットコーデット・レトリバーの「斗偉」(トイ)ちゃんが通っていた動物病院の関係者が、須藤容疑者がネット上で資金を募っているのに気づき、警察に相談しということです。

実際のクラウドファンディングを見てきました。

以下にあります(もちろん 募集は中止しています)。

https://readyfor.jp/projects/toiflat

重度の肺動脈狭窄症と敗血症・関節炎と戦う7ヶ月の愛犬を元気にしたいというタイトルがついています。子犬のフラットコーデット・レトリバーの斗偉ちゃんの写真があります。このサイトには、以下の写真がついています。

・斗偉ちゃんの元気な写真

・血液検査の結果

・胸部のレントゲン検査の画像

・胸部のエコーの画像

・医療費の明細

・肺動脈狭窄症の説明書(手術した病院でもらったものと思われます)

・肺動脈狭窄症の斗偉ちゃんの重症度の度合い(心臓専門医の説明書)

などです。

心肺の手術は、一般的な動物病院ではあまりしないので、2次診療や心臓や肺疾患に特化した動物病院でこの斗偉ちゃんの治療はされたのでしょう。

一般の飼い主が、このサイトを見ると詐欺に遭っても無理はないな、と感じます。

そのうえ、詐欺をする人は、動物好きの人の心に刺さるような言葉をよく知っています。

たとえば、「時間がありません。僕をたすけてください」「手術をしたからといって完治する病気ではありません。だからといってこんなにも頑張ってる斗偉がいるのに絶対に諦めたくありません」などと書かれていると、つい寄付をしたくなります。

クラウドファンディングが本当に詐欺であるか、見分け方

写真:PantherMedia/イメージマート

クラウドファンディングは出資者と発案者の間にクラウドファンディングを提供する事業者が入っていても、お金を払う・払わないはあなたの責任になり、いざ詐欺に引っかかっても何か補償を受けられるわけではないのです。今回の例は、ひょっとしたら珍しい例かもしれません。

それでは、どう見分ければいいのでしょうか?

その犬や猫が、本当に生きているかどうか質問して確かめる。

詐欺をしようとする人は、巧みにだましてきます。そのため自分のペットのかかりつけ医とご相談してみるというのもひとつの方法でしょう。

なにか腑に落ちないときは、慎重にネットで発案者などを検索してみる。

クラウドファンディングは、ネットだけで自分の善意が本当に困っている人に届く素敵なシステムです。でもこのような犬の治療費の詐欺事件が起こると本当に困っている人に届かなくなるので、由々しき事態です。

少しでも怪しいと感じたら手を出さないのが最も安全策ですが、疑問点があれば積極的に起案者に質問をするなどして不明確な部分をなくしてから支援金を支払うようにしましょう。最近では人の善意を利用した詐欺も横行しているので注意が必要です。

この記事でクラウドファンディングに寄付をする前に、このことを思い出していただけたら幸いです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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