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シニアの保護犬・チョコちゃんはお父さんの心をつかんだ...その理由とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

トイプードルのチョコちゃんが当院にやってきたのは、10月の末のことでした。ずっとKさん家で飼われていたみたいにお父さんにおとなしく抱っこされて待合室にいました。

実は、チョコちゃんはシニアの保護犬なのです。「家に来たばかりで混合ワクチンを接種していないのでお願いしたい」とお父さんは言いました。

どうしてチョコちゃんは、このような愛情深い里親さんにたどり着いたのか? をお話します。

先代のマロちゃんが17歳で天国へ

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

Kさんのところには、今年の6月に17歳で天国に逝ったミニチュアダックスフンドのマロちゃんがいました。

マロちゃんは、6歳になった頃から、筆者の動物病院に通っていました。Kさんのところは、動物を大切に飼われる家なのでなにか調子が悪いと様子を見るとはされず、すぐに来院されました。

歯周病や僧帽弁閉鎖不全症などの病気は持っていました。Kさんのところは、治療を躊躇することがなくきちんとされました。そのおかげもありマロちゃんは、16歳ぐらいまでは比較的元気に過ごしていました。

最後の1年半ぐらいは、肝臓値や炎症反応の値が高く週に2回ぐらいは、治療で通われていました。K家の希望は、治療はするけれど無理な延命や侵襲性の強いものはしないという方針でした。

ミニチュアダックスフンドの寿命は15歳前後なので、マロちゃんは平均寿命にはたっしていました。

16歳を過ぎて最後の1カ月弱は、食べることをあまりしなくなりました。そのときは、Kさんのお母さんが、主にマロちゃんを連れて来られていました。

「もう、ほとんど食べないのですが、どれぐらい持ちますかね」とお母さんがマロちゃんを大切に抱きながら尋ねました。「食べなくなると、あまり持たないですね...」と筆者は答えました。

それから、数日してマロちゃんが亡くなったことをお母さんからお聞きしました。17歳で歯周病や僧帽弁閉鎖不全症や慢性腎不全などは持っていましたが、飼い主に見守られて天国に逝ったということでした。

Kさんのお父さんがペットロスに

筆者の仕事は、犬や猫の病気を治すことなので、治療をしなくなると飼い主の様子がわかりにくいです。あれだけ大切にされていたマロちゃんが亡くなると、K家の皆さんは喪失感などがあったのだろうな、という想像はできます。その一方で、どれだけ強いペットロスなのかはよくわかりません。

新しい愛犬チョコちゃんを連れて来られたときにお母さんが「うちの人が、マロがいなくなってから、強いペットロスになってね。それから、ずっと動物保護団体のサイトの写真を眺めるようになって。そして、今回、お世話になったところが気にいって見学に行ったのです。はじめはマロと同じダックスフンドにしようかな、と思ったけれど、チョコが気にいってね。それで決まったのです」と教えてくれました。

お父さんには、チョコちゃんになにか感じるものがあったのでしょう。

前の飼い主に大切にされていたと思うよ

チョコちゃん 撮影は筆者
チョコちゃん 撮影は筆者

マロちゃんのときは、K家のお母さんが来院されることが多かったですが、チョコちゃんになって、お父さんが来られることが増えました。

「前の飼い主さんに、この子、かわいがられていたと思いますよ。教えてもいないのに寝ようと思ったら、すぐに布団に入ってきたのですよ」とお父さんがチョコちゃんを撫でながら話しました。

もちろん、マロちゃんのことは忘れていないでしょうが、チョコちゃんは、お父さんの心をつかんだのです。

以前よりお父さんは、来院の回数が増えてチョコちゃんのことをよく話すようになりました。

チョコちゃんは、8歳か10歳らしく年齢(保護犬なので詳細はわかっていません)もシニアなのです。筆者の病院には、保護犬はいますが、ほとんど1歳未満のときに里親にもらわれていきます。

トイプードルなどの小型犬は、シニアになると僧帽弁閉鎖不全症などの病気も増えますが、K家ではそれも理解されてチョコちゃんを迎えいれたようです。

シニアでも里親の元へ行ける時代へ

コロナ禍で犬や猫が人気になっています。

しかし、大半の人は、ペットショップで生後数カ月の子犬や子猫を購入されています。このような記事を書くことで、保護猫や保護犬の存在を知っていただき、そしてシニアでもチョコちゃんのように新しい里親で幸せになっていることがわかれば、日本も変わるかもしれません。

シニアの子は、子犬や子猫のようにトイレのしつけなどをしないでいいことが多いです。そして、年齢を重ねているので比較的おとなしいです。若い子にはない落ち着きもあり大きさや性格がわかっているので飼いやすくそれが利点ですね。

動物病院に来院されたとき、飼い主が「この子、保護犬なので年齢はわかりません。歯を見れば、かなりお年みたいですね」ということが、珍しくない時代がすぐそこに来ることを望んでいます。

いまや、犬や猫は15歳以上生きる時代です。ひとりの飼い主で飼いきれないときに、このように里親が見つかることはすてきですね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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