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【野良猫】ではなく【ノネコ】を取り巻く残酷な環境を知っていますか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:PantherMedia/イメージマート)

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」は、世界自然遺産に登録される予定という嬉しいニュースが入ってきました。

世界自然遺産は、いままで日本では4件登録されています。そこは、豊かで個性的な生態系があり、希少な動植物を含む生命の循環を感じることができる場所です。

そんな環境の中【ノネコ】が問題になっています。まずは、【野良猫】ではない【ノネコ】について見ていきましょう。

【ノネコ】とはなにか?

ノネコと野良猫は同じだと思っているかもしれません。しかし、ノネコと野良猫は違うのです。

【ノネコ】は飼い主がいなく、集落を離れて餌は自分でネズミやウサギなどの小動物を捕食している猫のことです。

野良猫は、ノネコと同じように飼い主がいないのですが、餌は人からもらっている猫のことです。

ここで問題なのは、野良猫とノネコの外見は、同じなのです。猫のウンチを見て、寄生虫などや小動物の被毛があるか否かで区別します。もちろん、野良猫も小動物を食べる子もいるのですが、そのように定義されています。

忘れてはならないのが、野良猫もノネコももともと自然界にいるわけではありません。飼い猫が放し飼いや飼育放棄などされ野良猫になり、野良猫がさらに集落を離れて自然の中で生活をし、ノネコになったのです(再野生化)。

なぜ、ノネコが奄美大島で問題か?

アマミノクロウサギをくわえるノネコ 
アマミノクロウサギをくわえるノネコ 

環境省 奄美野生生物保護センターより

なぜ、奄美大島でノネコが問題になっているのかを見ていきましょう。

ノネコが希少動物を襲うからです。ネコは捕食活動もするし、「遊び」としてのハンティングを行うこともあります。

奄美大島では、ノネコが「アマミノクロウサギ」や「ケナガネズミ」といった希少種を捕食する様子が写真や映像に撮影され、問題になっています。「アマミノクロウサギ」や「ケナガネズミ」は、いままで島にネコ科の動物がいなかったので、ノネコが来てもそんなに用心しないですね。ノネコにすれば、空腹だし小動物を捕食するのは簡単だったのでしょう。

そのうえ、ノネコは1頭のメスが生涯に50~150頭も出産可能なため、野外でどんどん増えてます。そして希少種を捕食したり、ハンティングするなど大きな被害を与えています。そのためノネコは侵略的外来種ワースト100に選ばれています。

ノネコは、ヤマネコに悪影響を与えてしまう

イリオモテヤマネコ
イリオモテヤマネコ提供:アフロ

ノネコは、エサの奪い合いやなわばり争いなどで、日本に生息する2種類のヤマネコのツシマヤマネコイリオモテヤマネコに猫エイズウイルスなどを感染させたり、ケガを負わせたりすることがあります。

ノネコは、ウミネコやオオミズナギドリの繁殖に悪影響を与えてしまう

天売島のウミネコ
天売島のウミネコ写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

ノネコは、ウミネコやオオミズナギドリなどの海鳥の巣に侵入し、卵やヒナを食べてしまいます。海鳥たちは安心して卵を産み、ヒナを育てることができないので、希少な海鳥たちの危機になるのです。

狩猟の対象としてのノネコ

ノネコは、鳥獣保護法ではイノシシと同じ狩猟鳥獣で、銃や罠による狩猟が可能な動物です。

一方、野良猫や飼い猫は狩猟の名目で殺したり傷つけたりすることは、動物愛護法により違法行為です。しかし、ノネコだと狩猟の対象になるのです。

ノネコは、もともと飼い猫で人里離れ野生化して小動物を捕食しているだけなのに、このような残酷な環境に人は追いやってしまったのです。

ノネコを生み出してしまった私たちができること

写真:アフロ

飼い主の無責任な行動が、猫も野生動物も不幸にします。

猫を飼ったら飼育放棄せず終身飼育する

外に逃げ出さないように完全室内飼いにする

不妊去勢手術する

マイクロチップなどによりノネコと飼い猫がきちんと区別できるようにする

都会に住んでいるとノネコの存在に気がつかないですね。しかし日本でも、自然が豊かな地域では、元飼い猫がノネコになり希少な野生動物を捕食したり、ハンティングしたりして環境問題になっています。猫が外に出たがるからと安易に出すと、生態系も崩してしまうことがあることを知ってほしいです。

そして、人は過酷な環境にいる野良猫やノネコを生み出してしまったのです。ノネコは、人によって狩猟の対象になるというさらに残酷な現実があるのです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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