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多頭飼育崩壊、飼い主の孤立でごみ屋敷に猫30匹...ニオイと動物虐待の関係とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(提供:Lincolnshire Trust for Cats/Shutterstock/アフロ)

今月、兵庫県三木市の民家で、住所不定の会社員の男(56)が動物愛護法違反の疑いで逮捕されたというニュースが流れてきました。そこでは、犬66匹が確認されて、近隣住民から異臭に対する苦情もあったそうです。木造2階建てには、数年分とみられる犬の排せつ物、餌の残り、被毛などが堆積。それは、数トンにのぼったというから驚きです。このようなことは、もちろん珍しいのです。その一方で、セルフネグレクト(自己放任)になれば、誰でもこのような動物飼育放棄であるネグレクト(飼育放棄)になる可能性があるのです。セルフネグレクトによる飼い主の動物のネグレクト問題について考えてみましょう。

 ペットの猫などが増えすぎて適切に飼えなくなる「多頭(たとう)飼育崩壊」が問題になっている。飼い主は親戚や地域の付き合いが薄く、社会的に孤立している傾向にあり、家はごみ屋敷になっていることが多い。ふん害など、近隣住民の生活環境問題としても深刻で、ボランティアや行政は対応に苦慮している。(藤森恵一郎)

 7月上旬、兵庫県丹波市。ボランティア団体「One for Mee@丹波」が、1人暮らしの高齢男性宅で飼われていた猫22匹を保護した。男性が倒れて入院したため、2週間近く餌を与えられていなかった。逃げた猫も含めると、約30匹はいたとみられる。

出典:飼い主孤立、ごみ屋敷に猫30匹 深刻「多頭飼育崩壊」

簡単にまとめると、兵庫県丹波市で去年の7月上旬、ボランティア団体「One for Mee@丹波」が、1人暮らしの高齢男性宅で飼われていた猫22匹を保護しました。男性が倒れて入院したので完全に飼育できなくなっていて、逃げた猫も含めると、約30匹はいたというものです。

このような多頭の場合は、ニュースになりますが、数匹の犬猫がネグレクト状態になっているケースが報道されることは少ないです。しかし、実際には、全国各地で数多く起こっているとみられます。そこでまずは、セルフネグレクトとは、何かを考えてみましょう。

セルフネグレクトとは

「セルフネグレクト」とは、セルフは自分自身、ネグレクトは、怠る、放置することです。つまり、自分自身の生活環境や栄養状態が悪化しているのに、それを改善しようしないことです。近隣住民から見て以下のような生活環境になっている場合、その可能性が高くなります。

・外であまり見かけなくなります。

・郵便受けが一杯になっています。

・部屋から異臭がします。

・部屋の中や外にごみ袋が一杯あります。

このような状況が重なり、セルフネグレクトになった人が、犬猫を飼っていれば、ほぼ、ペットのネグレクトも起こります。自分自身のこともできないので、ペットまで手が回らないからです。

なぜ、セルフネグレクトに陥るのでしょうか。それを見ていきましょう。

なぜ、セルフネグレクトになるか?

・仕事のストレス

・貧困

・病気

・老い

・配偶者や家族の死

などです。

高齢者に多いですが、一般的には、年齢に関係なく陥ると考えられています。

話題になったテレビドラマ・『MIU404』(TBS系)の人気脚本家・野木亜紀子さんが描かれた『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)の「七、病苦」に、このセルフネグレクトが出てきます。この回で門脇麦さんが演じる神野あかりは、看護師ですが、仕事のストレスから、何をするのも面倒くさくなり、セルフネグレクトになり、自宅のマンションがごみ屋敷となっています。ドラマの中でそれをコタキ兄弟が、救出するというものです。神野あかりは、まだ30前後ですが、それでもなぜこのような事態に陥るのか、よく描かれているドラマでした。

なぜ、犬猫の飼育放棄、ネグレクトは起きるのか?

ペットのネグレクトは、主に多頭飼育によるものが多いです。一方、1匹でもネグレクトは起きますが、そのときは、まだ根が浅いです。

多頭飼育の場合は、複雑な問題が絡みあっています。まずは、かわいいといって犬猫を拾ってきて、避妊・去勢手術をせずに飼っているうちに、ペットがどんどん増えすぎて自分一人で飼育できなくなってしまいます。

どちらの場合も飼い主の社会的孤立や経済的困窮などの要因が背景にある場合が多いです。

コロナ禍で、年代に関係なく社会的孤立が起きやすい時代背景になっています。ペットを飼っている人が、セルフネグレクトの状態に陥らないか、飼い主の救済を含めて、ペットを守るために飼い主の状態を周囲が見守ることが必要になってくるのでしょう。

セルフネグレクトの飼い主の飼育放棄 実話

10年以上前の話です。

猫好きで当時は70代後半の女性の飼い主でした。おしゃべりな女性で、野良猫に餌をやっていて、弱っているからといって保護して、動物病院に連れてきていました。始めのうちは、猫の不妊手術もちゃんとして、何かあれば、すぐ連れて来るので、月に2回か3回は、お会いするような飼い主でした。しかし、彼女は、年齢を重ねて、だんだんと歩くことが難しくなり、動物病院に来る回数が減りました。

数年して、そういえば、最近、彼女が来なくなったな、と思っていたときに、猫を連れて動物病院に現れたのです。

そのときの彼女は、以前とはもう別人になっていました。以下のように変わっていたのです。

・顔の表情が乏しい。

どこを見ているかわからない。以前は笑顔で話していたのに、下を向いて要領を得ないことを呟いていました。

・悪臭が漂っていました。

尿などアンモニア臭が混じった異臭でした。傍で話すときも息を止めないといけないほどでした。その悪臭は彼女だけではなく、猫にもそのキャリーケースにも付いていました。

何か思い詰めたのか、動物病院に来たので私には、彼女はセルフネグレクト状態だと認識しました。もちろん、認知症などの原因のせいなのでしょう。その後、彼女は、施設に入り、猫は他の方が保護したようです。あれだけ猫のことが好きでも、加齢のためにこのように変化するのは、気をつけないといけないです。誰でも、起こりうることだと、考えさせられました。

どうやって、犬猫の飼育放棄、ネグレクトを防ぐか?

一般的な獣医師は、動物病院に連れて来られた動物を診ています。往診に行く獣医師は、家庭に行き、犬猫の飼育状況を観察できます。

セルフネグレクト状態になっている飼い主が、動物病院に治療の依頼をするとは、考えにくいですね。

このような理由から、動物愛護の関係者だけで対応するのではなく、ケースワーカーらが、ペットのアニマルウェルフェア(動物の福祉)の知識も共有していただき、そして、社会福祉分野と人たちと連携しないと解決しないのでしょう。病気や老いや貧困などの理由で、飼い主がセルフネグレクトになっていれば、ペットも飼育状態が悪くなり、虐待されていることになります。

まとめ

ペットは家族の一員です。いまや、ひとり暮らしや核家族が多くなり、飼い主の精神状態は、すぐにペットにも反映されます。

筆者は、臨床現場にいる獣医師です。それでも飼い主、キャリーケース、首輪、リードなどが醸し出すニオイから、犬猫の飼育状況を察することができます。動物病院には、あまり連れて来られないですが、ネグレクト状態になると、アンモニア臭が混じった悪臭がします。

脚本家の野木亜紀子さんは、テレビドラマ『MIU404』で菅田将暉さんが演じたキャラクターに久住と名前をつけています。「“クズ”を“見捨てる”の“久住”や……」だとドラマで菅田将暉さんが語り、自分自身を社会で空虚な存在にしています。しかし、彼はそれ以外にも五味、トラッシュなどの名前も持っていて、ゴミという存在を表現したそうです。

小動物臨床の立場から見れば、犬猫の愛護状態の見極めるひとつが、野木亜紀子さんのいうところの「ごみ」が「排泄物」になり、その処理でいろいろなものが見えてきます。そして、ひどい飼育状況だと、隠しきれないニオイが漂ってしまうのです。悪臭のあるところに、劣悪な飼育環境が潜んでいるのでしょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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