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佐賀県有田町で猫が針金を巻かれた脚を切断手術...動物の虐待を目にするリスクとは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

毎日、猫や犬の治療をしている私は、野良猫の四肢に針金が巻かれた虐待の記事を読み、何とも痛ましい。野良猫だから、虐待をしてもいいというわけではないです。動物虐待は動物愛護法により犯罪です。

動物に対する暴力と人に対する暴力は、関連性があると、近年、言われています。過去の連続殺人犯は「幼少期に動物を虐待していた」というようなことは、ニュースで耳にしている人も多いと思います。筆者は、動物の医療の専門家なので、人のことは、専門家に譲ります。今日は、積極的(非偶発的)な動物虐待を考えましょう。

 猫の虐待とみられる事案が相次いだ西松浦郡有田町で、新たに虐待された猫が見つかった。今年5月に傷を負った猫が確認された場所とは別の地域で、脚に針金が人為的に巻かれた黒猫が1匹見つかり、切断手術を余儀なくされた。同町の動物愛護団体アニマルライブは「猫の虐待は犯罪で許されない行為」と憤り、警察への告発の準備を進めている。

出典:有田町でまた猫の虐待 針金巻かれた脚、切断手術

事件が起こっている有田町のその地域は、猫の捨て場所(三十数匹いることも)になっています。この地域では、死亡、骨折、刃物で切られたような傷を負ったなどの猫の虐待とみられる事案が相次いでいます。住民の中には、野良猫を捕獲して避妊・去勢し、元の場所に戻して自然減させるTNR活動(※)をしています。それでも今回のような針金が巻きつく猫が発見されたのです。外にいて、勝手に針金が巻き付くなどは起こらないので、積極的虐待ですね。

※TNR活動とは、Trap(トラップ)、Neuter(ニューター)、Return(リターン)を略した言葉で、捕獲器などで野良猫を捕獲(Trap)し、不妊・去勢手術(Neuter)を行い、元の場所に戻す(Return)ことです。望まれない出産をなくし、殺処分数を減らすために有効な手段と考えられています。

動物虐待とは?

動物虐待については、昨夏、池田詩梨ちゃん衰弱死の家庭で13匹の猫がネグレクト… 改めて動物虐待を考えるも書いていますが、ざっくり復習をしておきます。

動物虐待とは「動物に不必要な苦痛を与える」ことです。

つまり、動物の肉体と精神に苦痛や多大なストレス等を与えることです。

 

2つのタイプ動物虐待

積極的な虐待

マスコミで騒がれる動物虐待といえば残虐な殺傷事件など、この積極的な虐待がほとんどです。

やってはいけない行為を行う、または、行わせることです。具体的には以下です。

・暴力を加えます(殴る、蹴る、刺す、焼く、など)。

・熱湯をかけます。

・溺死させます。

・薬品をかけます。

・農薬や薬品を食べ物に混ぜます。

・動物同士を闘わせます。

・心理的抑圧、恐怖を与えます。

など

ネグレクト

やらなければならない行為をやらないことです。直訳すると「飼育放棄」(人の場合は「育児放棄」)と表現されることもあります。積極的な虐待は、認識があるのですが、ネグレクトは虐待という認識を持たない人もいます。

積極的な虐待を受けた動物を見たら

この有田町の猫は、針金が左側の前足と後ろ足に針金が巻かれていたのですが、ひとつの虐待だけではなく、複数の可能性が多くあります。それで、獣医師は以下の箇所も調べます。

【ペットの所見】

・外傷がないか?

犬や猫は、被毛が生えているので、わかりにくいです。あやしいケースは、毛刈りをして、内出血の有無を調べます。。

・性器、肛門の損傷がないか?

棒のようなものが挿入されて、粘膜が損傷していないか調べます。

・頭蓋骨の骨折、損傷がないか?

被毛に覆われていますが、陥没しているところがないか調べます。

・その他の骨折がないか?

レントゲン検査でわかります。骨折は、治癒してもレントゲンを撮れば、治った跡があるのです。臨床現場では、膀胱がん、下部尿路疾患、難治性の胃腸疾患などで、いわゆるソソをした場合は、飼い主が腹を立ててペットを壁に投げつけたり、叩いたりして、骨折をしている場合があります。レントゲン検査をして、注意深く骨も見ます。

・目、口腔内、歯の損傷がないか?

口腔内は、外からはわかりにくいですが、口を開けて、歯が異様に損傷をしていないかを調べます。

鳴くからうるさいので、口を紐で括っていた(実話)

親戚に不幸があり、どうしても犬を預かってほしい、と飼い主が病院に連れてきました。「よく鳴くので、よろしくお願いいたします」ということでした。そこの家は、他の犬は連れてきていましたが、その子は、初めて見るミニチュア・ダックスフンドでした。よく見ると、口のところに、輪を通したように毛の色が変わっていたのです。「差し毛」と言って、怪我などで毛が抜けたときに、緊急に生えてくる毛はもともとと違う毛が生えるのです。

つまり、この犬は、鳴いてうるさいから、口を括られていたのでしょう。そして、皮膚が化膿して紐の部分の毛が抜けて、新しい毛が生えていたのです。

虐待されていた犬の特徴で、びくびくしていて、顔の前に手を近づけると、怯えて手を噛みに来ました。精神的に怖い目に遭っていたのでしょうね。

飼い主が、迎えに来たときに「口のこの差し毛は、なぜ、できたのか」を尋ねところ、口を括っていたことを認めました。話し合いの結果、その子を飼育放棄すると言ったので、愛護団体経由で、新しい里親を見つけました。

筆者は、動物の法医学を学んだわけではないですが、臨床経験が長いので、矛盾点がわかり虐待がわかるときもあります。飼い主は、みんな自分の愛犬、愛猫をかわいがもらっていたいと考えていますが、悲しいことにこのようなこともあるのです。

まとめ

動物虐待は動物だけの問題にとどまらず、人の社会の治安にかかわると言われています。

人はさまざまな行動を他者から見て学ぶこともあります。動物虐待を多く目撃すると、目撃者が暴力的になるリスクが高まるとも言われています。日本での研究はまだ十分ではありませんが、米国のイェール大学教授のスティーヴン・ケラートらによると、「暴力的犯罪傾向のある成人は、そうではない人と比べて、児童期・青年期に動物虐待をしていた可能性が高い」ということです。つまり頻繁に動物虐待していた子どもは、その後、重大な暴力犯罪を起こす可能性が高まるということです。

「アニマルウェルフェア(動物の福祉)」が高まると、人のウェルフェアもよくなります。つまり、動物愛護の精神が根づくと、幼児や立場の弱い人も住みやすい社会になるのです。人も動物も幸せはひとつで、「ワンウェルフェア」といわれています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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