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子犬と思って保護したら、実はキツネ! 見誤った原因の「ベビースキーマ」とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

北海道の路上で男性が子犬を保護し、飼い主を探そうと思ってTwitterにあげたところ「子キツネ」と判明しました。子犬と子キツネを間違えることは、本当にあるのでしょうか? 「私はキツネと犬の違いぐらいわかる」と思っていませんか。しかし、誰でもこのようなことは、起こりうるのです。それを「かわいい」の観点から読み解いてみましょう。

以下は保護した人のSNSです。

MARCYさんのTwitterから(MARCYさん許可を得ています。)
MARCYさんのTwitterから(MARCYさん許可を得ています。)

↑保護した頃のルナちゃん、ポメラニアンの子犬に似ていますね。

ざっくりまとめると

北海道の路上で男性が子犬を保護

   ↓

飼い主を探そうとTwitterに投稿

   ↓

指摘を受けて、子ギツネと判明

   ↓

「ルナ」と名付けた子ギツネは北きつね牧場へ

なぜ、子犬と子ギツネを間違えたか?

子キツネを見たことのない人が、子犬と間違えるのは、よく理解できないのかもしれません。動物病院の獣医師さえも子ギツネとわからなかったのですかね。しかし、誰にでも起こりうると考えるのは、以下の理由からです。

・北海道なので、野生のキツネがいます。

・キツネはイヌ科の動物です。

・大人のキツネではなく、子ギツネだったからです。

子ギツネだったので、ベビースキーマという身体的特徴を持っています。

「ベビースキーマ」とは?

この身体的特徴をノーベル賞受賞者で動物行動学者コンラート・ローレンツ氏は、人間や動物の赤ちゃんに見られる身体的な特徴を「ベビースキーマ」と定義しています。

人や動物の赤ちゃんは「かわいい」と思わせる肉体的特徴や行動を持っています。産まれてすぐの子は、自分で生きていけないので、このようになっているのです。これにより親の庇護責任を刺激し、自分の身を守ってもらう効果もあるのです。

ベビースキーマの身体的特徴と動作

・平坦な顔

・浅い彫りです。

・短い鼻です。

・体に対して頭の割合が大きいこと。

・目が大きく丸い。

・頬がふっくらしています。

・手足が短いです。

・動作がぎこちないです。

撮影筆者 『動物行動学』K.ローレンツ 日高敏隆 訳
撮影筆者 『動物行動学』K.ローレンツ 日高敏隆 訳

左が「かわいい」で右が「養育衝撃を解発しないもの」

子猫や子犬などは、このような特徴を持っています。鼻が長いミニチユア・ダックスフントでも、子犬のときは、丸い顔をして鼻は長くないのです。成長とともに伸びてきます。ルナちゃんは、写真で見ると、ポメラニアンの子犬のような顔をしていますね。このベビースキーマは、実はキャラクターのデザインにも応用されているとの説があります。国際的な例を挙げると「ベティちゃん」や「キューピー人形」、日本では「キティちゃん」や「ドラえもん」などが代表とされます。「かわいい!」の理由ですね。

キツネは飼えないのか?

キツネは、野生動物なので鳥獣保護管理法により飼えないのです。

同じように、私たちの動物病院で、スズメを保護した人に、来院した場合にも飛べるようになったら自然に返すように説明しています。

ルナちゃんは、北きつね牧場に行くことが決まってよかったですね。少しの間でも人が育てた動物は、自然に帰ったときにうまく生きていけないケースも多くあるからです。

キツネはエキノコックス症が

獣医師から見れば、キツネといえば、エキノコックス症なので、MARCYさんが、感染していなくて本当によかったです。

エキノコックス症とは

日本では北海道のキタキツネが主な感染源です。

糞虫にエキノコックスの虫卵を排出され、口から入ることで感染します。

症状とは

・初期症状は、だんだんと通常は10年以上かかります。

・肝臓の腫大

・腹痛

・黄疸

・貧血

・放置すると約半年で腹水が貯留し、やがて死に至る。

まとめ

最近は、東京のシカで問題になっているように野生動物は、自然環境の破壊などが原因で人里に降りてきます。しかし、野生動物は、鳥獣保護管理法でペットとしては飼うことはできません。それに、エキノコックス症のように、人に感染する病気を持っていることもあるのです。動物が好きな人は、いろんな動物に囲まれて生活をしたいのは理解できます。一方、いまコロナ禍で人から動物、動物から人への感染症が問題になっています。動物を飼うことは、その辺りのことを踏まえて、科学的な知識を持ちましょう。

参考サイト

エキノコックス症について 厚生労働省

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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