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新妻が子猫をサプライズで買ったら、夫が「捨てに行く」と… なぜ悲劇は起きたのか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

数年前のクリスマスに、新妻が子猫をサプライズのプレゼントとして買ったところ喧嘩になり、夫が「猫を捨てに行く」と言い放つ出来事があったそうです。結果、離婚に発展したそうですが…。 動物好きにとっては、クリスマス時期の寒空の下に「子猫を捨てに行く」という字を見て、心を落ち着けてからしか読めなかった悲しいニュースです。

ペットショップでクリスマス・プレゼントとして買ったシンガプーラの子猫。それが原因で夫婦喧嘩に…。新婚の夫は「猫を捨てに行く」と言い放った。

(略)

「電話をかけてきた友達の友達が新婚だったのですが、結婚前にご主人に『猫を飼いたい』と言ったところ、『いいよ』と承諾してくれたそうなんです。それで結婚してまもなく、奥さんは夫を驚かせたいと思い、黙ってペットショップでシンガプーラの子猫を買ったんです。ところが、夜9時過ぎに帰宅したご主人は、猫を見るなり、激怒したそうなんです」

 激高したご主人は「今から返してこい」と言い、「ペットショップはもう閉まっている」と奥さんが言うと、「すぐに返せないのなら、公園に捨てに行く」と言い放ったのだという。

出典:新妻がサプライズで買った子猫 夫婦喧嘩に発展し、夫は「猫を捨てに行く」と言い放った

撮影筆者 『MINI COMPACT GATTI』 シンガプーラより
撮影筆者 『MINI COMPACT GATTI』 シンガプーラより

臨床経験の長い私は、似たような場面に遭遇することがあります。この出来事は、獣医師の目から見ると起こるべくして起こっています。なぜ、そのようになるか、何がダメなのか、具体的に見ていきましょう。

ペットをサプライズで迎えてはいけない

この新婚さんだけではなく、ペットを迎える時期は大切です。

命あるものなので、飼い始める時期は、注意が必要なのです。詳細は以下をご確認ください。

・クリスマス、お正月は控える。

クリスマスやお正月は、イベントが多いので、飼い主が忙しいし、気が散りやすいです。子猫や子猫の微妙な変化を見落とす可能性があります。同時に、この時期、動物病院が休んでいるところが多いので控えましょう。ペットの誤飲も多い時期です。

・これから寒くなる時期ではなく、だんだんと温かくなる時期に。

子猫や子犬は、体温調節が下手です。だから、兄弟と母と団子になって寝ています(人の赤ちゃんは、未熟児で生まれると保育器に入れられていますね)。ひとりでいると、低体温になるからです。もし、寒い時期に放置してしまうと、子猫の体温を奪いますので、保温を忘れずに。

・仕事が忙しい時期は避ける。

子猫や子犬は、幼い時期、食事の回数が増えますし、トイレのしつけなどもあり、世話に時間を取られます。いまから、仕事が忙しくなるとわかっているときは、控えましょう。

家族の同意を取る

確かにこの記事によると、結婚前に、新妻は、夫に「猫を飼ってもいい」と許可を得ています。そのときは、奥さんに好かれたい一心でそのように言った可能性もありますね。

いくら動物好きな人でも猫アレルギーや犬アレルギーを持っている人もいます。そのような場合は、家族の命に関わることもあるので、そのチェックもきちんとしてください。

実際に、相手が犬や猫とどう接するかを見てからが良いかもしれません。

いまや彼らは、長寿になっています。数年ではなく、十年以上も同じ屋根の下で暮らすわけですから、何度も家族の同意を確かめてください。

衝動買いで飼い始めるのも注意してくださいね。途中で捨てたりすることができません(どうにもならない場合は責任を持って保護センターに相談を)。命あるものと暮らすことは、そういうことです。

撮影筆者 『MINI COMPACT GATTI』 シンガプーラより
撮影筆者 『MINI COMPACT GATTI』 シンガプーラより

シンガプーラとは

シンガプーラは、2キロ前後の血統書付きの猫ではもっとも小型です。「赤血球ピルビン酸キナーゼ(PK)欠損症」という遺伝的な疾患を発症することがあります。症状は貧血。効果的な治療法がないため、4歳ぐらいで亡くなる子が多く血液検査でわかります。

動物を飼うのなら、動物好きのパートナーを

世の中には、動物好きの人とそうじゃない人がいることは、理解しています。動物好きかどうかは、その人の問題で、とやかくいうことでないですね。

ただ、動物と一緒に暮らしたいと思うのなら、やはりパートナーは動物好きな人がいいですね。

筆者などは、道を歩いていると、ノラ猫の視線は感じるし、散歩している犬を見ると、歩き方などから年齢を推測して、どこか病気がないか、遠目に見てしまいます。これは、動物に関心ない人には、理解できない行動なのでしょう。

なぜ、動物好きのパートナーがいいか

犬や猫は、生きているものなので「可愛い」だけではないのです。ウンチもするし、オシッコもします、毛だって抜ける子が多い(巻き毛のプードルやシュウナザーなどは抜けにくい)です。

年齢を重ねると、病気もするし認知症にもなります。そのような状態を全部、含めて、愛おしいと思える人じゃないと一緒にいることはできません。現実問題として、がんになったら、飼うことを放棄する人もいますから。

元大リーガーのイチローさんは、一弓くんという柴犬を飼っています(いまもいるかどうかわかりません。2019年で18歳です。柴犬だと超ご長寿です)。弓子夫人に世話されながら室内で飼われています。一弓くん(いっきゅうくん ♂)の名前の由来は、イチローさんの「一」と弓子夫人の「弓」を取って名づけられています。動物好きの私からしたら、イチローさんご夫婦は、犬を飼うという点からも理想のカップルですね。

まとめ

犬や猫は、道具ではなく、命あるものなのです。「可愛い」「びっくりさせよう」などの軽い気持ちで飼わないで欲しいと切に思います。

個人的には、シンガプーラのおかげで、新郎の性格があぶり出されてよかったのかな、と思います。「子猫を返してこい」というのはわかるとして、寒空の下に「公園に捨てにいく」は理解に苦しみます。新郎は、子猫のシンガプーラが、目の前から消え去って欲しかったのでしょう。本当に捨てに行くと、他の子猫よりシンガプーラは、小さく(成猫で2キロ前後なので)、毛もふさふさではありません。病気になるか、ひどい場合は命に関わります。激高していて、そこまで、考えられなかったのでしょうか。猫や犬をどんなときも、ながーく愛して、いとおしんでね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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