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子猫に毛布をかけてあげたら命の危険に 知られざる「ウールサッキング」の恐怖とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

朝晩、肌寒くなってきました。公園で保護した子猫が寒そうにしているので、毛布などに包んで外出していませんか? 本当は、お母猫と一緒の時期なのに、ひとりでかわいそうと思って、毛布やフリースを敷き詰めておけば大丈夫と、思っていませんか?

自宅に帰ると、子猫の反応が鈍く、吐いた後があり、ぐったりしている場合もあります。

もしかしたらそれは「ウールサッキング」かもしれません。

あまり知られていないようですが、猫には、羊毛製品や紐などを食べる子がいるのです。

今回は「ウールサッキング」について解説します。

撮影筆者 フリースに包まれた猫
撮影筆者 フリースに包まれた猫

寒い時期、子猫をフリースで包みたくなりますが、行動をよく見てからにしてくださいね。

ウールサッキング(症状)とは

ウールは「羊毛」、サッキングは「しゃぶる」という意味です。つまり直訳すると、羊毛をしゃぶることです。猫の中には、羊毛だけではなくて、毛布、絨毯、レジ袋、ひも、輪ゴム、段ボール箱など、いろいろなものをしゃぶったり、噛んだり、あげくは食べたりする行動を取る猫がいます(食べた場合は、腸閉塞を起こして、食欲不振になり命を落とすこともあります。こういう場合は、内視鏡で取るか手術になります)。つまりウールサッキングの子猫は、室内で乳房の代わりのものを探して吸うのです。

猫の問題行動のひとつです。とくに、不安を感じたり、欲求不満などがあるとこのような行動をします。犬の場合は、不安があると、オッポを追いかけまわしたり、過剰に爪の辺りを舐めるのに、似ています。人が爪を噛んだり、パイプをくわえるのと同じような行動です。

生後数か月の子が、兄弟のペニスを噛みちぎった

臨床現場で本当にあった話なのですが、3頭の子猫が保護されました。生後2か月ぐらいの子猫で、一頭が兄弟のペニスを母親の乳房だと勘違いして吸い(疑似乳房)、やがて噛み切りました。当然、オシッコは自力では出ません。連日、膀胱を抑える圧迫排尿もしていました。それでも出ないときは、膀胱に外から針を刺して抜いていました(膀胱穿刺)。噛みちぎった猫が、ウールサッキングだとわかったので、他の兄弟猫から隔離していました。被害に遭ったオス猫は、成長に伴いペニスもしっかり形成されて、自然排尿ができるようになり、事なきを得ましたが、たいへんな治療になりました。

かかりやすい猫種

・シャム その血をひいているミックス

・バーマン その血をひいているミックス

上記の猫がなりやすい傾向がありますが、どのような猫でもなります。ミックスの子で、ウールサッキングの子は多く見られているので、一概に、血統だけでは片付けられないです。

原因

早い時期に、母猫と離れて、母乳をしっかり飲んでいない子に、ウールサッキングが多い傾向があります。生まれたての子猫が生き残れるかどうかは、母猫が子猫に触れる行為にかかっています。母猫は子猫のお腹やオッポの辺りを舐めて、排泄を促します。それを母猫が食べて、寝床を清潔に保ち、母猫の懐に包まれて寝ているのです。このような行為を受けていない子猫がなりやすいのです。

生後すぐのとき、性的に敏感な部分は口の周辺

犬や猫や人は、哺乳類なので、ミルクを飲んで成長します。口に入ってきたもの(母親の乳首)を強く吸います。これを吸てつ反射といいます。そしてミルクが入ってくると、飲み込みます(嚥下反射※ これがないと口の中でミルクがたまり、よだれとして外に流れます)。これらのことを含めて、哺乳反射といいます。

人の場合は、この反射は、生後4か月から次第に薄れて、7か月で消失するといわれています。猫や犬の場合は、生後2か月ぐらいから、離乳が始まるので、もっと早い段階になくなるのですが、母猫の乳房からミルクをもらっていない猫が、この吸てつ反射が長く残っているので、このようなことになるのでしょう。

口に温かい乳房を含んでミルクを飲み込むことが、子猫のときは、快感と安心をもたらします。母猫から母乳をもらっていない子が、口の感覚に依存が残るのは、仕方のないことかもしれません。人の場合でもこの唇がさみしいという感覚から、過度の飲酒、過食、喫煙、爪を噛むという問題につながることもあります。

治療

このような子は、哺乳の時期に、母猫から乳房からミルクをもらっていないことが多いので、遊んであげることです。スキンシップをたくさん持ってあげましょう。異物を噛んだり、舐めたりしているときに、怒ったり、叩いたりするのは、逆効果です。なかなか治らないときは、抗不安剤などのサプリメントや薬物を併用することもあります。

予防

全ての猫ではないですが、子猫を保護したときは、ウールサッキングがあるかも考えてください。行動を見ていて、やたらに何かを吸う子は、口にするようなものを部屋に置かない。ストレスを与えない。では、では、このような子 が暖かく過ごすにはどうすればいいでしょうか。それは エアコンで室 内温度を暖かめにして、その中においてあげることです。そうすると空気も含んでずいぶん違います。ペットシーツなどは、尿を固めるものなどが入っているので、よくないです。

多頭飼育をしている場合は、メス猫が面倒をみてくれる場合もあります。ミルクが出なくてもオッパイを吸わせてくることもあります。珍しい例ですが、オス猫や犬がその母猫の代わりをしてくれることも。

まとめ

猫を育てるということは、ただミルクを与えていればいいというものではありません。口の周りの快感も一緒に提供しないといけないのです。母猫のように、乳房があればいいのですが、人が育てると、粉ミルクを哺乳瓶か、スポイトであげるだけになりがちです。しっかり撫でて、愛情を吹き込んであげましょう。人間同様に、猫も温もりや愛情が必要な動物です。飼い主が、猫にウールサッキングという問題行動があるのだということを知っておいてください。そうれすれば、問題行動もなくなり、異物を飲み込み腸閉塞が防げるのですから。寒い季節、猫の保温にも気をつけながら、育ててあげましょうね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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