「ありんこ軍団」「まだ だめだ」甲子園の勝敗を分ける”スローガン”

昨年は東海大相模が45年ぶりの優勝(写真:岡沢克郎/アフロ)

リオ五輪の陰で、甲子園が開幕した。個人的には、甲子園のほうがメインだ。

だから、プログラムの関係か、第一日目の夜に「熱闘甲子園」(ABC)が放送されないのは納得がいかない(第二日目から放送される)。今日も、リオ五輪とはまったく趣の違う開会式に引き続き、熱戦が3試合も繰り広げられたというのに。ぶつぶつ。

それはさておき。現在、高校野球のチームはそれぞれモットーを掲げていることが多い。昔で言うなら「全員野球」とか。昨今は「必笑」など、笑顔に注目しているものも多い。

勝敗を左右する!?言葉の力

牧歌的な高校生の部活というレベルではなく、プロ顔負けに激しく競い合っている現在の高校野球において、言葉の力は見過ごせないほどに大きい。

というのも、激しい地区予選を突破して出場している各チームだから、個々の技量やチームの攻撃力・守備力に、それほど差はないわけだ。となるとものを言うのは、メンタル。

それを支えるのは、ピンチのときにすがるスローガンであり、チャンスの時に平常心を保つためのモットー。「言霊」が勝敗を支配している、というのは言い過ぎかもしれないが、コミュニケーションの上で大きな要素となっているはずだ。

というわけで、今回、各チーム・監督が掲げているモットーや合い言葉を、週刊朝日増刊号「甲子園2016」からピックアップしてみる。もちろん、たったひとつだけに決まっているわけではないし、とくにチームの指針というのは代ごとに変わるのが通例だが、少なくともチームの個性とイデオロギーのようなものが表れていることは間違いない。

野球にフォーカスを当てるタイプ

出場49チームのモットーや監督の信条・合い言葉を見ていくと、方向として大きく二つに分かれるようだ。一つは野球のプレーそのものに関するもの。

クラーク国際(北北海道)の佐々木監督の信条は「打って、打って、打ち勝つ野球」。中越(新潟)のチームモットーは「よく見て、状況判断をし、ことをなす」、中京(岐阜)のチームモットーは「くらいつけ 一球に魂を込めて」

山梨学院(山梨)の吉田監督の信条は「練習は試合以上に緊張感を持ち、試合は練習以上に明るく楽しく」。履正社(大阪)の野球は「雑さを徹底して排すること」

どれも、練習の合間、ワンプレーごとに、こういった言葉をかけあっているイメージが湧くものばかりで強い力を持っている。

人間形成にフォーカスを当てるタイプ

ところが、このように野球のプレーに関する方針を掲げている監督・チームは意外と少ない。代表49チームの主流を占めているのは、人間形成や心の教育面だ。

鶴岡東(山形)佐藤監督の指導方針は「野球を通じての人間形成」。創志学園(岡山)の長沢監督のモットーも同じ「野球を通じての人間形成」。名門である明徳義塾(高知)の馬淵監督の指導方針も「野球を通じての人間づくり」だ。

松山聖陵(愛媛)の荷川取監督の指導モットー「人間的形成なくして技術の成長なし」、東北(宮城)吾妻監督のモットーは「人間味のあるチームをつくる」なども、同じような趣旨だろう。

さらには、盛岡大付(岩手)関口監督のモットー「一瞬懸命」、聖光学院(福島)斎藤監督のモットー「不動心」、常葉菊川(静岡)の「ストレスに勝っていく野球」にいたっては、もっとストレートにメンタルについて言及している。

その他にも、「自律」(京都・京都翔英、浅井監督)、「不撓不屈」(兵庫・市尼崎、竹本監督)、「考動(こうどう)」(長崎・長崎商、西口監督)など、自己啓発書やビジネス書のタイトルのようなフレーズが並ぶ。

それぐらい、高校野球といい、ビジネスといい、勝負の世界で最後にものを言うのは心であり、メンタルなのだということを、経営者・指揮官たちは分かっているのだ。

実際、多くの強豪校が選手の心を鍛えるために「投手だけがトイレ掃除をする」「通学路では街の人に挨拶を欠かさない」など、ふだんの生活習慣を厳しく律している。

「報連相確確」とは?

ちなみに、こちらは「東洋経済」誌(8/6号)からになるが、花巻東(岩手 ※今大会は出場を逃している)の合い言葉は「報連相確確」とのこと。いわゆる、報告・連絡・相談だけでは不十分で、そのあと確認、そして確認、ということで、これなどはもはや、一流のビジネス格言の雰囲気をたたえている。

僕たちはありんこ軍団!

さて、今年の出場校に話を戻すと、変わったところでは初出場でスター選手のいない八王子(西東京)は選手たちが「ありんこ軍団」を自称して自分たちを鼓舞するし、出雲(島根)は「逆転の出雲」を自任する。

広島新庄(広島)の迫田監督は選手たちに「全員が主役になろう」と呼びかけて選手の自主性を重んじるいっぽうで、高川学園(山口)が、地区予選を勝ち抜いた原動力は「監督を胴上げする」という目標。

このように「人との関係性」を核に、チームのモチベーションをあげるのもよく見かける手法だ。

最も異彩を放ったモットー

そんな中、出場49校の中で圧倒的に異彩を放ち、筆者がこの原稿を書くきっかけにもなったのが、鳴門(徳島)のチームモットー、「まだ だめだ」

きつい練習に耐えた後も「まだ だめだ」。技術が向上して仲間と勝利をつかんでも「まだ だめだ」。

そうやって、選手全員が日々休まず互いを励まし合っているのだとしたら、なんという向上心、というか、どこまで自分に厳しいのか、というか。怖いぐらいの迫力をたたえた名コピーである。

歴代優勝校の言葉力は?

さて、筆者の手元には同じ週刊朝日増刊のバックナンバーが2015年、2014年、2013年と3年分ある。その年、見事甲子園優勝を飾ったチームは、それぞれどのような「言葉の力」に支えられていたのだろうか?

・2015年 優勝校 東海大相模(神奈川)

「アグレッシブ・ベースボール」、「1点への強いこだわり」「終盤の1点」「タテジマのプライド」と、実に多くのキャッチフレーズが並んでいる。

・2014年 優勝校 大阪桐蔭(大阪)

大阪桐蔭野球部の部訓は「一球同心」。だがそれ以外にはこれといったフレーズは見当たらない。

・2013年 優勝校 前橋育英(群馬)

荒井監督の信条は「凡事徹底」。選手間のコミュニケーションも増やし「勝てばいい」ではなく「身近な人から応援されるチーム」を目指したそうだ。

まさに、三者三様で興味深い。

「とくになし」のチームも

さて、話を今年の戦いに戻すと、誌面にこれといったフレーズが載っていないチームは、八戸学院光星(青森)、常総学院(茨城)、関東一(東東京)、九州国際大付(福岡)、秀学館(熊本)など数えるほど。

もちろんこれは、チーム内で共有されているモットーや指針がまったくないということではなく、注目選手や戦績にフォーカスを当てたいという執筆方針によるものだろう。だが、そうそうたる実力校ばかりなだけに、まるで「手の内は明かさない」「うちの野球はひと言では言えないよ」と余裕を見せられているようにも感じる。

勝負の行方は?

ちなみに、本日の大会初日、第1試合では、「まだ だめだ」の鳴門(徳島)が、「考える野球」の佐久長聖(長野)を3-2で下した。

第2試合では、「逆転の出雲」の出雲(島根)が、春夏連覇を目指す強豪で今回は「初心」に戻っているという智弁学園(奈良)相手に、逆転しきれず1-6で敗れた。

第3試合では、「とくになし」の九州国際大付属(福岡)が、「一瞬懸命」の盛岡大付(岩手)に6-8で競り負けた。

明日から21日の決勝まで続く熱戦。勝敗の行方を左右するかもしれない「言葉の力」にも注目してみてはいかがだろうか?

(五百田 達成:「察しない男 説明しない女」著者 作家・心理カウンセラー)

※各チームに関する分析は、週刊朝日増刊「甲子園2016、2015、2014、2013」の誌面をもとに、筆者があくまで個人的に行ったもの。

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