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日本電産が「驚異」の決算発表 コロナ禍でも利益率8%超

井上久男経済ジャーナリスト
日本電産の永守重信会長(右)と関潤社長(2020年6月17日、筆者撮影)

業績悪化を外部環境のせいにしない

 モーター大手の日本電産が7月21日に発表した2021年3月期決算第一四半期の業績は、営業利益が前年同期比1・7%増の281億円となった。営業利益率も0・6ポイント上昇して8・3%だった。自動車などのグローバル製造業は新型コロナウイルスの影響で生産を落としているため、第一四半期決算では赤字に落ち込む企業が多いと予想される中で、世界40カ国以上に拠点を持つ日本電産が、黒字を確保し、かつ前年同期の実績を上回ったことは「驚異」であり、その経営手法が改めて注目されそうだ。

「うちはリーマンショックの時もその1年後に過去最高益を出した。不景気になれば強い会社だ。4月以降は業績が落ち込んでも新型コロナのせいにするなと社内で言ってきた。業績悪化を外部環境のせいにしない。風が吹かなければ自分で吹かせて凧を上げる」。同社の永守重信会長は、決算をこう総括した。

 

売上高半減でも利益出る構造改革

 売上高を見ると、前期比6・6%減の3368億円。主力製品のモーターの顧客である自動車メーカーや家電メーカーなどが操業を落としていることが響いた。地域別の工場の稼働率は、新型コロナウイルス禍以前の状況を100とした場合、今年6月の欧州地区は75%、北米は84%、アジアは87%、中国は97%の状況で厳しい。特に大きな伸びを期待している電気自動車(EV)向けモーターなどの車載事業で売上高が175億円、営業利益が68億円それぞれ減少したことも経営に与えるインパクトは大きかった。

 しかし、日本電産は売上高が半減しても営業黒字を確保できる構造改革を展開。たとえば、家電・商業・産業用向けモーターの事業では、サプライチェーンの見直しでグローバル共通購買を拡大させたことや低収益ラインの撲滅、間接経費の削減をしたことなどにより、収益性を高めた。

 

永守会長、関社長の「2トップ体制」も奏功

 これについて永守会長は「営業利益281億円のうち100億円は構造改革によって稼ぎ出した。ちまちましたコスト削減で利益を出したわけではなく、社員から何万もの改善提案が出てくる企業体質に変わっている。(買収によって)新しくグループ企業に入ったところも、日本電産が過去に蓄積したノウハウを共有して構造改革を進めて大きな成果を出した」と語った。

 こうした構造改革が素早く実行できたことも大きなポイントだ。2年前、永守会長は社長職を日産自動車出身の吉本浩之氏に譲って集団指導体制に移行した。しかし、「これが大きな失敗だった」(永守氏)として、今年4月に社長に就任した同じく日産出身の関潤氏と、永守氏に権限を集中させる「2トップ体制」に変更して意思決定を早めた。

 関氏は今年1月から顧問として日本電産に移り、3月までの間に世界の主要生産拠点を回った。特に生産性の低い工場を重点的に回って改革の抜本策を練った。稼働率が65%~75%くらいないと利益が出ない工場を、稼働率が50%切っても利益が出るように短期間で立て直した。

 関氏は日産のエンジン工場で20年以上のキャリアを持つ生産技術のプロであると同時にコスト削減でうるさいカルロス・ゴーン氏の下でも実績を出して生き延びてきた。こうした経験が生きているようだ。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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