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日産とオマーンの怪しい関係 役員に高級時計をプレゼントも

井上久男経済ジャーナリスト
保釈後、異例の4度目の再逮捕をされたカルロス・ゴーン氏(写真:ロイター/アフロ)

 東京地検特捜部は4日、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏を会社法違反容疑(特別背任)で逮捕した。ゴーン氏の逮捕はこれで4度目であり、保釈中の被告を再逮捕するのは極めて異例なこととされる。日産のCEO直轄費からオマーンの販売代理店に3500万ドル(約39億円)の資金が流れ、その資金の一部がゴーン氏側に還流し、ゴーン氏の息子の会社側に流れるなど私的流用したことなどが今回の逮捕容疑だ。

オマーンに世界最大級のショールーム

 ゴーン氏の3度目の逮捕も今回と同じく特別背任容疑で、その内容はCEO直轄費からサウジアラビアのゴーン氏の知人に対して、日産の事業とは関係ないゴーン氏の信用保証に対する見返りとして巨額の資金が流れたとされる。ゴーン氏側が、販売促進費やロビー活動費だったことを主張し、容疑を否認している。おそらく、今回のオマーンの件でもゴーン氏側は販売促進費などとして正当な対価だったと主張するだろう。

 事件本筋の流れの解説は、弁護士ら専門家に任せるとして、日産と中近東の関係について少し考察してみたい。

 調査会社によると、オマーンの自動車販売は市場全体で2017年が約14万6000台、18年が約12万4000台とそれほど大きくない。市場規模は日本の40分の1程度だ。その中で日産は17年に2万8000台、18年に2万7000台を売り、シェアは19・2%、21・4%。オマーンではシェア1位がトヨタで、2位が日産、3位が韓国の現代自動車だ。

 単純計算して車の卸価格を200万円として、日産のオマーン向け出荷売上高は540億円程度、粗利益は27億円程度ではないか。オマーン市場は将来伸びる可能性があるとはいえ、こんな小さな市場の販売代理店に、日本円で39億円もの大金が流れるのか不思議でならない。

高級時計・宝飾品をプレゼント

 このオマーンについてさらに言うと、日産は2000年代半ばに、当時で世界最大級のショールームを建設して、販売強化に乗り出しているが、その割には、オマーンで販売が大きく伸びたという話は聞かない。むしろ、販売台数はそれほど大きくないのに、販売会社オーナーの気前が良いといった話を日産関係者から聞く。

 元役員はこう振り返った。

「オマーンに出張に行ったら、代理店オーナーからお土産をもらった。帰国してお土産の箱を開けたら、旧東ドイツ製の高級時計が入っており、価格を調べると400万円近いものだった。こんなものはもらえないと思い、秘書室経由で返却しようとしたら、『ゴーンさん以下みなさんがもらっているので、あなただけが返却すると角が立つのでもらってほしい』と言われた」

 こういう話を聞くと、リーマンショック前のゴーン氏が損失を被る前の出来事とはいえ、オマーンの販売店と日産は何か特別な関係があるのかと勘繰りたくなる。ただ、自動車業界では、中近東の販売会社はお世話になった人に対しては日本の常識では考えられないような高価で派手な贈答品を送ることもあるという。日産以外のメーカーで、かつて中近東を担当した幹部は「私の場合は、担当が変わる際に挨拶に行ったら、300万円のロレックスを餞別でもらった」と言う。

 オマーンの話とは関係ないが、日産OBによると、ゴーン氏は米国内にも日産の金で購入した宝飾品を保管しているオフィスがあり、気に入った役員にはその宝飾品を渡すこともあるという。

中近東での資金の流れの胡散臭さ

 3度目の逮捕容疑であるサウジアラビアルートに関して、同国の王族扱いされている有力者である知人に対して日産から日本円に換算して約16億円が流れていたとされる。検察側は会社の業務とは関係ないと見て特別背任で立件、起訴したが、ゴーン氏側は販売促進費やロビー活動費と主張している。過去5年間のサウジアラビアにおける日産の販売台数は14年の約5万8000台をピークに18年は半減して約2万7000台にまで落ちた。そんな有力者が知り合いで販売促進に協力してくれているのに、サウジでこんなに落ち込むのだろうかと思ってしまう。

 はっきり言おう。やはりどう考えても、CEO直轄費からオマーンやサウジに流れている資金には、胡散臭さを感じてしまうのである。産経新聞によると、今回の4度目の逮捕の背景には、特捜部が、事件の本質を、中近東を舞台にしたゴーン氏の資金工作にあると見ていることがあり、それを徹底解明するためにオマーンルートの強制捜査が不可欠と判断したそうだ。

アブダビに隠し口座を画策

 レバノン・ベイルートやブラジル・リオデジャネイロなどにゴーン氏用の豪華邸宅を保有しているジーア社という会社がある。当初は、ベンチャー企業に投資するための会社として日産の子会社の位置づけでオランダに設立されたが、巧妙な連結外しが行われ、日産の監査の目が届かないようにして豪華邸宅を保有していた。関係者によると、そのジーア社を設立する際に、ジーア社がアラブ首長国連邦の一角、アブダビに「隠し口座」を開設し、その口座にゴーン氏の報酬を払う計画がなされていたことも把握されているという。また、ゴーン氏は租税回避地にある会社の口座に私的に使う資金を送金することを指示しているという。

 CEO直轄費を含め、ゴーン氏が日産の資金を流用させた手法は、マネーロンダリングの手法に似ているといった見方も専門家からは出ている。

 ゴーン氏が有罪か、無罪かという話はさておき、株主などから預かった日産の資金がゴーン氏によってどのように使われていたのか、捜査と社内調査によって徹底解明されるべきだし、ゴーン氏だけではなく、他の取締役にも責任がなかったかを公明正大に調べるべきだろう。そして、社会をこれだけ騒がしている事件なのだから、その結果を公表すべきではないだろうか。

 

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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