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サラリーマンが退職・独立し、成功するための5つの思考法

井上久男経済ジャーナリスト
会社員が独立してやっていくのは簡単ではないが、軌道に乗せることができれば楽しい(写真:アフロ)

 年末年始の休暇に入って、今年の仕事のことを振り返りながら、来年はどんな年になるのかと考えている読者も多いことでしょう。特に、現在のように先行き不透明な時代になれば、仕事人としてのキャリアをこれからどう構築していくべきかと考え、転職しようか、独立しようかと悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

 筆者は13年前の40歳の時に大手新聞社のサラリーマン記者を捨てて、自営業として食ってきました。「ドクターX」ではありませんが、自分の腕だけが頼りのフリーランスで稼いできました。

 こうした経験を踏まえて、この激動の時代に自分のキャリアをどう築いていけば、生き残ることができるのかを考えてみたいと思います。特にサラリーマンが独立して稼いでいくためには何が重要かを述べていきます。

むやみに勉強会には出るな

 筆者の独断と偏見も入るかもしれませんし、記者という「職人的な仕事」は特殊かもしれません。しかし、筆者の友人・知人らに独立後の経験を話すと「普遍性がある」「参考になる」と言われることも多くあります。

 組織から独立してやっていくための思考法は5つあると思います。

 まず、第一に「むやみに勉強会には出るな」ということです。会社を辞めたので情報網が狭くなるとの危機感を抱いて、勉強会のような会合にせっせと出て新たな人脈を作ろうと思いがちです。しかし、独立後の第一歩の行動としてはよくありません。なぜなら、広く自由に参加できる「勉強会」と言われているようなものに、売り上げ獲得で役立つものはほとんどないからです。むしろ、そこで知り合いになった人から、逆に人の紹介など煩わしいことをノーギャラで頼まれたり、欲しくもない宣伝メールが来たりするようになります。

 何が言いたいかと言えば、真の人脈は、自分で金と時間をかけなければ安易にはできないということです。そして、何よりも仕事で実績を出せば、人が寄ってくるようになり、情報も入ります。まずは実績を出すための「個別営業」を優先すべきです。筆者の場合、勉強会に出る時間があれば、直接出版社の人に会えるように工夫して、企画を売り込むことに注力しました。

 また、仕事を通じて親しくなった人は本当の「友だち」にはなかなかなれません。親しくなったのは、お互いに仕事上でメリットがあるからに過ぎません。けんかしたわけでもないのに、付き合うメリットがなくなると、関係は自然消滅することも多いです。

 ここで言う「メリット」とは、経済的利得だけではなく、お互いに新たな気づきがあるといったことも含まれます。売上にも勉強にもつながらない元同僚や元取引先なんかと全く付き合う必要はありません。そこをシビアにできないと、独立しても失敗します。

 筆者は独立する際、「1年間に仕事で30人以上とは付き合うな。あなたの仕事で売り上げに貢献してくれる人はせいぜいそのくらいだ」とのアドバイスをもらいました。そう言った方は、同じく40歳で大手銀行を退職してソーシャルベンチャーなどでそこそこ利益を出していました。そして、「30人のうち毎年10人くらいを入れ替えていけ」とも言われました。これは、自分の置かれている環境は変化するので、それに応じて付き合う人も変えろという意味でした。今から振り返れば、結果として、その人のアドバイスに近い行動を取っていたかと思います。

会社作りに走るな

 第二は「会社作りに走るな」です。独立に当たっては会社設立から動く人が多いのも現実です。資本金が1円でも株式会社ができるようになったことや、一般社団法人などが設立しやすいようになったため、いとも簡単に「社長」「理事長」の肩書が手に入れられようになったことも背景にあります。ペーパーカンパニーのようなものでも、名刺に企業名と肩書が書かれ、法人登記簿を取引き先に見せれば一定の信用力が増すことは否定しません。

 しかし筆者は、会社作りを優先することを疑問視しています。それは、いくら「見せかけの信用」を作ったところで、取引先はその人の「能力」を買うわけであって、対価を払う価値なしと判断されれば、すぐにお払い箱になるからです。職人的独立の場合、会社という形を整えても結局は、自分しか頼る人がいません。

「共同事業をしよう」には乗るな

 第三は、「共同事業をしようには安易に乗るな」です。独立してある程度の実績が出てくると、「一緒に会社を作って共同経営しないか」といった誘いが必ずあります。独立して一人でやっていると寂しい時もあるので、つい傾くこともあります。しかし、簡単に誘いに乗ってはいけません。そう誘ってくる人の中には、リスク軽減のために、手っ取り早く「人の褌(ふんどし)」を利用させてもらおうとの魂胆があるケースもあるからです。誘いの際に取引先を探るように聞いてくるのはまずこのパターンと言って間違いないでしょう。

 こうした誘いをしてくる人は、55歳くらいの人が多いです。役職定年も間近で自分の将来がある程度見えてきた中、一定の専門性や力量もあるとの自負から「あいつが独立してうまくやっていて、能力が上の俺がやれないはずがない」といった思いも内心秘めています。

 でも結局、そういう人は、自分一人では独立してやる覚悟のない人です。筆者には自分でリスクを取ることができない「サラリーマン根性」が抜けていない人にしか見えません。こうした人と組むといずれ「重荷」となります。仮に共同経営で小さな成功を収めても、自分一人でやれると思うようになれば、自分勝手に共同事業から手を引くことも考えられます。いったん手を結んだ後に分かれることになると、知的財産の所有権や株の保有などで、ややこしい問題も発生するでしょう。

 そもそも人生設計は個人によって大きく違います。これは当たり前のことです。一方、独立することとは、人生設計を練り直すことでもあり、他人の価値観と合致することはまずありません。今は大きくなった著名なベンチャー企業、たとえば楽天などでも創業の頃の重鎮メンバーがほとんど辞めているのは、価値観のずれに起因しています。

キャッシュフローを意識しろ

 第四は「キャッシュフローを意識する」、第五は「事務所を安易に借りるな」です。当たり前ですが、サラリーマンは給料日が決っています。しかし、自営業者は、自分がやった分だけしかお金入って来ません。そして留意すべき点は、売上と入金には時間差があるという点です。小さな個人事業であっても、今月の入金はいくらかを把握していないと、結局は蓄えからの持出しになります。金を貯めるのは大変ですが、お金は羽根が生えたように出ていきます。

 また、信頼関係ができた取引先から直接売上に繋がらない仕事を頼まれることもあります。たとえば、情報を扱う筆者のような仕事だと、無料で情報提供を求められることもありますが、そこはケースバイケースで、次の売上に繋がるならば協力し、一方的に利用されるなと判断すればきっぱり断る。この辺はドライにしないと、自分が干上がってしまいます。

安易に事務所を借りるな

「安易に事務所を借りるな」については、先述した「キャッシュフローを意識すること」や、「会社づくりに走るな」とも関連します。事務所を借りれば体裁は整いますが、余計な出費もあります。業種や事業規模にもよりますが、独立当初は自宅を活用することを考えた方がいいでしょう。最近では「ビジネス図書館」が出現しているほか、大学の図書館も外部にはオープン。公共の施設を上手に活用しながら無駄な出費を抑え、その浮いた分を顧客獲得の営業費用に回す方が得策でしょう。

 私がこれまで述べてきたことは、よく考えてもらえば、「基本のキ」に当たる部分ではないでしょうか。しかし、いざ独立して舞い上がったり、必要以上の不安感に駆られたりして我を見失ってしまうこともあります。その際に冷静になって、「基本のキ」に戻ってみてください。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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