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トランプ氏が後悔する「3つの失敗」

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

米大統領選挙は、主要メディアがバイデン前副大統領の優勢を伝える中、トランプ大統領は大方の予想通り法廷闘争に持ち込む見通しで、最終決着はしばらくつきそうにない。だが、今回の選挙はトランプ氏の信任投票の性格が強かっただけに、得票が過半数に達しそうにないトランプ氏にとっては、明らかな敗北と言える。敗因は、同氏が犯した「3つの失敗」だ。

失敗その1:コロナを軽視

今回の大統領選で、有権者の最大の関心事が新型コロナウイルス問題だったことは、多くの世論調査から明らかになっている。新型コロナによる米国内の死者は23万人を数え、ブラジルやインドを大きく上回って、世界最悪だ。

にもかかわらず、トランプ氏は当初から感染拡大防止よりも経済活動を優先させる姿勢を鮮明にし、感染対策の専門家の意見を無視して、ロックダウン(都市封鎖)やマスク着用などの有効な感染防止策を打ち出してこなかった。理由は単純で、経済活動を制限すれば景気の悪化を招き、再選がピンチになると思ったからだ。

しかし、トランプ氏の経済優先策は結果的に感染拡大を加速させ、皮肉にも景気の大幅な悪化を招いた。それに伴い、支持率も大きくダウン。そして、新型コロナはその後も沈静化せず、争点となり続けた。

失敗その2:BLMへの威圧的態度

5月の白人警官による黒人男性の暴行死事件を機に、全米はおろか世界各地で黒人の人権を訴えるBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動が発生した。抗議デモのほとんどは秩序を守り、平和的に行われたと報道されているにもかかわらず、トランプ氏は「法と秩序」を連呼し、軍を投入して力ずくでデモを止めようとするなど、威圧的な態度を取り続けた。

これもトランプ氏ならではの計算があった。再選には、前回の大統領選で自身が勝利する原動力となりつつも、2年後の中間選挙で早くも離反した、都市郊外の無党派層や女性層を呼び戻すことが不可欠。そう考えたトランプ氏は、抗議デモを利用し、彼女らの重大な関心事である「身の回りの安全」を争点にしようとした。1人で家にいる女性が暴徒に襲われるかのような映像の選挙用CMを盛んに流したのが、好例だ。

しかし、抗議デモによる暴動や略奪はほとんど起きなかったため、都市郊外の無党派層や女性らは、BLMに恐怖より共感を抱いた人が多かった。共和党員の多い地方の小さな都市にまで抗議デモが広がり、多くの白人がデモに加わったのが、その証拠だ。対立を煽るトランプ氏に対しては逆に、嫌悪感が増す結果となった

失敗その3:政治を甘く見ていた

トランプ氏は、日本では「不動産王」「ビジネスマン」「大富豪」などとメディアに紹介されているが、米国民には「テレビタレント」「色物」のイメージが強い。

例えば、人気映画「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」に、ちょっと間抜けな悪役として登場する自己顕示欲の強い大富豪「ビフ」は、若いころのトランプ氏がモデルになっていると、この映画の脚本家が後に明かしている。トランプ氏はそのころから、よくメディアに出ていたのだ。

一方、ビジネスでは、6回も会社を倒産させたり、ひんぱんに訴訟を起こしたり起こされたりするなど、組織を束ねる大企業のCEO(最高経営責任者)というよりは、ワンマン経営者のイメージだ。

そんなトランプ氏の知名度を揺るぎないものにしたのは、長年にわたり高視聴率を叩き出したNBCテレビのリアリティショー番組「アプレンティス」だ。トランプ氏は番組内で経営者の役割を演じ、素人の若者にビジネスのスキルを競わせて、毎回、番組の最後に1人ずつクビを言い渡す。その時の決め台詞、You are fired(お前はクビだ)は有名だ。

ニューヨーク市マンハッタン地区にそびえ立つ金ぴかのトランプ・タワーは、トランプ氏の成功と性格の象徴だ(筆者撮影)
ニューヨーク市マンハッタン地区にそびえ立つ金ぴかのトランプ・タワーは、トランプ氏の成功と性格の象徴だ(筆者撮影)

この台詞はもちろん、番組上の演出だが、トランプ氏の「素」の部分を表してもいる。実際、トランプ氏は大統領就任以来、自ら任命した側近を、意見が合わない、気に入らないなどの理由で、次々とクビにしてきた。逆に、自らと同様、政治経験のない実子や女婿を、側近として重用している。

選挙戦の終盤でバイデン氏の応援演説をしたオバマ前大統領は、「(トランプ氏は)自分と自分の友人のためになることにしか関心がなく、大統領という職を、彼自身を有名にするためのリアリティショーとしか見ていない」と痛烈に批判した。

トランプ氏のこうした性格や振る舞いは、不動産業やテレビの世界では成功したが、時には妥協や合意形成を必要とする政治には、向かなかった。その証拠に、トランプ氏は、民主党や多くの無党派層、主要メディアだけでなく、身内の共和党員も次々と敵に回した

例えば、トランプ氏から解任されたボルトン前国家安全保障問題担当・大統領補佐官は、「トランプ氏は国益のことなどどうでもよく、自分のことにしか関心がない」と述べ、「トランプ大統領が1期で終わることを望んでいる」と語っている。選挙戦で大々的に反トランプ・キャンペーンを展開した「リンカーン・プロジェクト」は、トランプ氏に批判的な共和党員のグループが立ち上げたものだ。

結局、トランプ氏は米大統領の職を、ワンマン経営で事足りるビジネスや、テレビのリアリティショーの延長ぐらいにしか考えていなかったのだ。そのツケがいま回ってきていると言える。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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