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強まる逆風、止まらぬ離反、終焉の足音近づくトランプ大統領

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

トランプ政権の終わりを告げる足音が日増しに大きくなっている。新型コロナウイルスや人種差別抗議デモへの対応のまずさで支持率を大きく下げているトランプ大統領だが、今週に入り、連邦最高裁が立て続けに政権に不利となる判決を出したり、国務省幹部が抗議の辞職をしたりするなど、11月の大統領選を前に一段と逆風が強まっている。

国務次官補が辞職

「大統領のしていることは、私の中の価値観や信念とまったく相いれない」。18日、国務省の高官であるテイラー国務次官補がポンペオ国務長官に辞表を提出したと、ワシントン・ポスト紙が報じた。ミネソタ州で5月25日に起きた白人警官による黒人男性の暴行死事件に端を発した人種抗議差別デモに対し、トランプ氏が軍の投入を示唆するなど高圧的な態度を取り続けたことが理由という。

テイラー国務次官補は黒人女性だが、母親も初代ブッシュ大統領に仕えるなど筋金入りの共和党員で、マコーネル上院院内総務のスタッフとして働いた経験などを買われ、30歳という異例の若さで国務省の要職をこなしていた。そのテイラー氏の辞職は、黒人票や女性票をさらに減らす要因ともなりかねない。

相次ぐ暴露本の出版

今週、メディアを騒がせているのが、国家安全保障担当だったボルトン前米大統領補佐官が近く出版する政権内の暴露本だ。本には、トランプ氏が中国の習近平国家主席に自身の再選への協力を迫ったり、英国のメイ前首相に「英国も核保有国なのか」と真顔で質問したりするなど、大統領としての資質が問われるエピソードが満載されているという。出版されれば再選に向け大きなダメージとなるのは間違いない。

ボルトン氏はABCテレビとのインタビューで、「大統領はずっと、自分の再選のことしか頭にない」と述べている。トランプ氏は、新型コロナ危機の対応でも、国民の命より自身の再選のために経済活動の再開を強引に進めているとメディアや民主党から指摘されたが、元側近の証言で、その非難が的を射ていることが裏付けられた。

トランプ氏の姪であるメアリー・トランプ氏がトランプ一族のスキャンダルを暴露する本をこの夏に出版することも、今週、明らかになった。2018年にニューヨーク・タイムズ紙が、トランプ氏本人を含む一族ぐるみの巨額脱税疑惑をスクープしているが、メアリー氏は「情報源は私」と著書の中で告白しているという。

政策面で大打撃となったのが、今週相次いだ連邦最高裁判所の判決だ。

最高裁判事の“裏切り”

最初は15日。LGBTなど性的マイノリティ(少数派)を性的指向や性自認を理由に解雇することは、性別に基づく差別を禁じた連邦法に違反するとの判断を初めて示した。米国では性的マイノリティへの理解が徐々に広がりつつあり、企業もLGBTへの差別禁止を打ち出すところが増えている。

しかし、トランプ政権は、この判決のわずか3日前に、トランスジェンダー(自認する性と出生時の性が一致しない人)に対する医療サービス提供を拒否できる新ルールを公表するなど、自身の支持基盤である白人保守層の意に沿う形で、LGBTの権利拡大を抑制する政策を進めてきた。

2度目は18日の判決。子どものころに親に連れられて不法入国した若者の強制送還を猶予するためにオバマ前大統領が導入し、トランプ大統領が撤廃を表明した「DACA」について、当面、撤廃を認めない判断を下した。トランプ氏は不法移民の摘発強化やメキシコとの国境沿いの壁の建設など、移民への強硬姿勢を売りにしてきただけに、この判決もダメージは大きい。

トランプ氏にとってショックなのは、いずれのケースも、保守派の判事がリベラル派の判事と共に多数派に回ったがために、トランプ氏に不利な判決が出たことだ。特に、LGBT裁判の判決文を書いた保守派のゴーサッチ判事はトランプ氏自身が任命しただけに、裏切られた感が強い。これらの判決後、トランプ氏は得意のツイッターを使い、最高裁攻撃を繰り出している。

一縷の望みは敵失

ところが、そのツイッターも最近はトランプ氏に冷たい。ツイッター社は5月下旬から、虚偽情報を含むと判断したトランプ氏のツイートに、ユーザーの注意を促すマークを付けて本人の怒りを買っているが、18日にはトランプ氏が投稿した動画に3度目となるマークを付けた。動画は、天敵のCNNテレビが偽情報を流しているように見せかける内容で、別の投稿者が投稿した人気動画を編集し直した点が、ツイッター社の掲載基準に違反すると判断されたようだ。

トランプ大統領の支持率はこのところ急落しており、共和党内部からも批判や不満が噴出している。頼みの景気も、新型コロナによる落ち込みが激しく、再選のためのタイムリミットである7~9月期までの本格回復は望み薄だ。一縷の望みは、民主党の大統領候補であるバイデン前副大統領に、オバマ前大統領のようなカリスマ性がないところ。バイデン氏が自滅すれば、トランプ氏再選の芽が再び出てくる可能性もあるが、あくまで敵失頼みなのが辛いところだ。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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