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欧州、人気農薬の規制強化へ

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

 欧州連合(EU)で、食品の安全性に関する助言を行う欧州食品安全機関(EFSA)は、人気農薬のネオニコチノイドが、蜂の生存を脅かしているとする調査結果をまとめ、公表した。EUは現在、ネオニコチノイド系農薬の一部の使用を暫定的に制限する措置をとっているが、今回のEFSAの調査結果を受け、規制強化は避けられないとの見方が出ている。ネオニコチノイドの使用量が多い日本への影響はあるのだろうか。

蜜蜂の大量死、集団失踪の原因か

 生物の神経を狂わすネオニコチノイドは、様々な虫の害から農作物を守れるとされ、現在、世界で最も人気の殺虫剤だ。だが、世界各地で起きている蜜蜂の大量死や、人の発達障害の原因と疑われるなど、自然環境や人の健康への影響が懸念されている。そのため、各国が使用禁止や使用制限に乗り出している。

 EUの行政執行機関である欧州委員会は2013年12月、EFSAの助言を受け、他国に先駆けてクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムの3種類のネオニコチノイド系農薬の使用を、安全性が確認できるまで厳しく制限する措置をとった。「因果関係がはっきりしないから規制しない」ではなく、「因果関係がはっきりしないから規制する」という「予防原則」に基づいた決定だ。

 その直後、EFSAは安全性を確認する作業に着手。世界各国の研究機関による最新の研究成果を分析し、今年2月28日、ネオニコチノイドが蜜蜂の活動や生存にとってリスク要因であることが「確認できた」と発表した。(https://www.efsa.europa.eu/en/press/news/180228)

 今回は、飼育されている蜜蜂だけではなく、野生のマルハナバチやハナバチについても調査。やはりネオニコチノイドの影響が確認できたとしている。

 EFSAの発表を報じた英ガーディアン紙は、EU域内におけるネオニコチノイドの使用は今後、「全面禁止になる可能性が高い」と報じた。

 蜂は、花の蜜を集めて蜂蜜を作るだけでなく、花粉を運んで作物が実を結ぶのを助けるポリネーターとしての大切な役割を果たしている。このため、世界各地で報告されている蜂の大量死や集団失踪は、自然界の生態系のバランスを崩すだけでなく、世界の食糧需給にも深刻な影響を与えかねないとして国際問題になっている。

 さらに、ネオニコチノイドは農作物に残留することから、食事を通じて人の体内に入り込み、神経の発達を阻害するなど人の健康を害する可能性があるとの研究報告がある。

 このため、EU以外にも、韓国や米国など、ネオニコチノイドの使用規制に踏み切る国は徐々に増えている。

日本でも大量に使用

 日本でも、ネオニコチノイドは農作物やガーデニング用の殺虫剤として大量に使われている。しかし、「因果関係がはっきりしないから規制しない」が原則の日本では、今のところ、海外のような厳しい使用規制はない。むしろ、11年にイミダクロプリド、15年にクロチアニジン、アセタミプリドの一部農産物に対する残留基準が緩和されるなど、使用を後押しする流れだ。

 一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストが一昨年、ネオニコチノイド系農薬7種類と、化学構造がネオニコチノイドと似ている農薬2種類、あわせて9種類について、スーパーなどで売られている小松菜、ホウレンソウ、白菜、レタスへの残留量を調べたところ、全30サンプル中、20サンプルから1種類以上の当該農薬が検出された。国の残留基準を超えたサンプルはなかったが、EUの基準を上回ったものは8サンプルあった。

 日本の消費者にとって最大の問題は、スーパーなどで買い物をする際に、自分が買おうとしている米や野菜、果物にネオニコチノイドが使われているかどうかわからないことだ。使用農薬に関する情報が開示されていない現状では、ネオニコチノイドを心配するなら、農薬不使用の有機認農産物を購入するのが賢明かもしれない。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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