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ゴルフ好きはダメ経営者?

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
所有するゴルフ場のレストランで政権スタッフとランチをとるトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

「ゴルフ好きの会社経営者は会社をダメにする」。米国の著名な経営誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』に少し前に掲載された記事が、いま、米国内でちょっとした話題になっている。きっかけは、就任3カ月で早くも「ダメな大統領」の烙印を押されつつあるドナルド・トランプ大統領の、ひんぱんなゴルフ場通いだ。

複数のゴルフ場を所有するトランプ大統領は、自らも大のゴルフ好き。2月の安倍首相との首脳会談の際も、同氏の所有するフロリダ州のゴルフ・リゾートで、一緒にゴルフを楽しんだ。

だが、米国では最近、トランプ大統領のゴルフの回数が多すぎるとして問題視するメディアの論調が目立っている。

9週間で計14回

ワシントン・ポスト紙によると、トランプ大統領は1月下旬の就任以降、3月末までの9週間の間に計14回、自分のゴルフ場を訪れ、うち少なくとも12回は実際にプレーしている。週1回以上のペースだ。

大統領側は、ゴルフ場に行くのは、ゴルフ場内の施設で閣僚や政権スタッフらと重要な会議を行うためと説明しているが、メディアはその理由に納得していない様子だ。

トランプ大統領が週末をバージニア州のゴルフ場で過ごした翌週、CNNテレビは、「ホワイトハウスのスタッフは、トランプ大統領はゴルフ場で会議をしたと記者に説明したが、何人参加したかや誰と会議をしたかについては答えなかった」と報じ、果たしてゴルフ場訪問が職務のためだったのかどうか、疑問を呈した。

ニューヨーク・タイムズ紙は、「大統領はゴルフ場にとって『歩く広告塔』の役割を果たしている」というトランプ大統領に批判的な市民団体のコメントを紹介し、トランプ大統領がトランプ・ファミリーの経済的利益のために自分の所有するゴルフ場を利用している可能性があるとの見方を示した。

ゴルフ好きの大統領はけっして珍しくない。オバマ前大統領もゴルフ好きで知られ、実際、在任中もひんぱんにプレーしていた。しかし、トランプ大統領は大統領選挙戦中、オバマ大統領のゴルフ場通いを公然と批判していただけに、大統領と仲の悪いメディアが、その言行不一致ぶりをここぞとばかりに叩いた格好だ。

トランプ大統領は、自ら任命した大統領補佐官がスピード辞任に追い込まれたり、政策をめぐって与党共和党の議員と激しく対立したりするなどして、国民の支持率が低迷。こうしたことも、ゴルフ場通いに対するメディアの風当たりが強い背景にある。

また、大勢のスタッフや警護を引き連れたトランプ大統領一行がフロリダ州のゴルフ・リゾートを訪問する際の費用は、1回につき200万ドル(約2億2000万円)という試算もある。これだけ高額だと、かりに職務だとしても、国民の理解は得にくい。

こうした中、ワシントン・ポスト紙は先週、「ゴルフをやりすぎる経営者は仕事ができない」というセンセーショナルな見出しの記事を掲載し、政権運営をしばしば企業経営になぞらえるトランプ大統領を強烈に揶揄した。

回数多いほど業績見劣り

記事の内容は、経営学などが専門の3人の学者が、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に昨年11月に載せた共同調査の成果を要約したもの。

調査は、まず、「S&P1500」株価指数を構成する上場企業の中から、ゴルフをする最高経営責任者(CEO)350人をピックアップ。350人はいずれも米国ゴルフ協会に登録し公式ハンディキャップを発行してもらっているため、プレーの詳細な記録がとれたという。

その結果、経営者の年間プレー数は平均16回だったが、人によって差が大きく、回数上位25%の平均プレー数は40回以上。100回以上プレーした経営者も数人いた。

次に、なぜ経営者によってプレーの回数が大きく違うのか分析。すると、会社に投資している自分の資産額が大きい経営者、また、報酬が業績連動型の経営者ほど、プレーの回数が少ないことがわかった。

さらに、経営者のプレーの回数と会社の総資産利益率(ROA)、および株式時価総額の関係を分析したら、プレーの回数の多い経営者の会社ほど、両方の数値が低いことが明らかになった。

こうした結果から、研究者は、経営に真剣な経営者ほどゴルフをする回数が少なく、企業業績もよい、逆にゴルフをする回数の多い経営者の会社は、業績で見劣りがし、株主にとってマイナスとの結論を導き出した。さらに、ゴルフに打ち込み、経営者としての責任を十分に果たしていない経営者は、そうでない経営者に比べて、より首になりやすいとも指摘している。

大統領の仕事は企業経営とは違うため、この調査結果はトランプ大統領のケースにそのまま当てはめることはできないが、ワシントン・ポスト紙は「もしトランプ大統領が企業経営をするように政権運営をしたいと望んでいるなら、この調査結果を少し考慮してもいいかもしれない」とコメントしている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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