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幼児教育「無償化」で、保育施設の給食が「有料化」の方向

猪熊弘子ジャーナリスト/       駒沢女子短期大学 保育科 教授
保育所保育指針にも「食育の推進」があるほど、食事は保育の中でも重要だ。(写真:アフロ)

2019年10月から「幼児教育」無償化予定。その影で逆に「有料」になるものがある……?

 本日2018年10月10日付けの朝日新聞に、認可保育所・認定こども園にお子さんを通わせている人にとって見逃せない重要な記事が掲載されていました。

2019年10月から始まる幼児教育・保育の無償化に伴い、保育所の給食費を無償化の対象にするのかの議論が、9日に開かれた内閣府の「子ども・子育て会議」で本格化した。この日は賛否が割れたが、内閣府は年内に方針を決め、来年度予算案に反映させる考えだ。

出典:朝日新聞デジタル(2018年10月10日05時00分)より

 この問題、実はすでに水面下では長らくくすぶっていたものでした。5月30日に行われた「幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会報告書」には、すでに以下のようなことが書かれています。

保護者から実費として徴収している通園送迎費、食材料費、行事費などの経費 については、無償化の対象から除くことを原則とすべきである。なお、そもそも 認可施設における食材料費の取扱いが保育の必要性の認定種別間で異なっている現状があり、上記原則を踏まえた対応について早急に検討すべきである。

 さらに、7月30日に行われた第36回子ども子育て会議で「幼児教育の無償化について」という資料が提出され、「その他今後検討する事項」として、給食費の実費負担について同じ文言で書かれています。

支給認定の号数によって違う給食費負担

 では、現在の給食費の実費負担はどのようになっているでしょう?

 現在、認可保育施設に子どもを預けるためには、施設型給付・地域型保育給付という2種類の「給付」を受けるための「支給認定」を受ける必要があります。これは介護保険によく似た制度で、認定を受けた分だけ保育が利用できるという制度です。

 

 具体的には次のようになっています。

1号認定(幼稚園児相当、3〜5歳の保育が必要ない子ども)

2号認定(3〜5歳の保育園児相当)

  親が月120時間以上就労→保育標準時間(1日11時間まで)

    月48〜120時間未満就労→保育短時間(1日8時間まで)

3号認定(0〜2歳の保育園児相当)

   親が月120時間以上就労→保育標準時間(1日11時間まで)

     月48〜120時間未満就労→保育短時間(1日8時間まで)

 そして、給食費についてはこのような制度になっています。

  1号認定給食費実費(費用は保護者が負担)。

  2号認定…給食費のうち主食(パン・ごはんなど)は実費

        副食費(副菜)は無償

    *主食は自治体や施設が別に費用を徴収して提供、または「主食弁当」を持参。

  3号認定給食費無償(費用は国が負担)

 たとえば東京23区では、認可保育園に通う子については2号認定の子どもでも、主食(パン・ごはんなど)が無料で提供されていますが、それは国が予算として出していない分を、都が予算を出して主食を提供しているのです。東京23区の保育園にお子さんを通わせている方には馴染みがないかもしれませんが、3歳児以上(2号認定)になると、給食のときに「主食弁当」として、ご飯やパンをを持参して登園しなければならない地域もまれではありません。

 そして、主食弁当の持参が必要な園でも、保育園では2号、3号認定のお子さんだけなので、保護者のみなさんはなんとなく「3歳以上になると、主食弁当を持っていくんだ」「3歳以上になると主食費だけは実費になるんだ」と当たり前に思っているかもしれません。ところが、認定こども園では、制度的には1号認定のお子さんからは給食費の実費徴収を行うのに、2号認定のお子さんからは徴収しない、ということになっています。園によっては、1号認定のお子さんからも給食費を徴収せず、保育園と同じようにすべてのお子さんに給食を実施しているところもあります。そのための費用は園の持ちだしになります。また、給食がない幼稚園で、あるいは選択してお弁当を持参してくる1号認定のお子さんにとっては、現在はすべてを実費負担をしていることになります。保護者が毎日お弁当を作る労力も大変なものです。

 そのように、現状ではさまざまな矛盾があるのです。

 そこで、無償化を契機にこの矛盾を無くし、保育園での給食費もすべて実費負担にしようと考えられているのです。

 給食費の実費負担化に対する意見は、立場によって主張が異なっています。

財務省は全ての子どもの給食費を自己負担にするべきだと主張しているが、この日の会議では負担のあり方について意見が割れた。一橋大経済研究所の小塩隆士所長は「給食費は自己負担でいい。ただ、低所得者への支援は必要だ」と主張。一方、全国保育協議会の佐藤秀樹副会長は「給食は食育、保育の根幹だ」として、給食費は保育料に含めて無償化の対象にすべきだとの考えを示した。

出典:朝日新聞デジタル

 

 これらの議論がどのように決着するかわかりませんが、今のところ、保育園で提供される給食は実費になる可能性が高い、と言われています。今年4月から新しく実施されている「保育所保育指針」の中には「食育の推進」が大きく掲げられています。1号認定のお子さんにとっても、同じように「食育」は重要です。子どもたちの命を支える「食」をどのように提供していくかは非常に重要な問題で、ぜひ「お金」ではなく「子ども」を優先した制度にしてほしいと願っています。

ジャーナリスト/       駒沢女子短期大学 保育科 教授

お茶の水女子大学大学院 博士後期課程(保育児童学領域)在籍中。 ジャーナリストとして、日本の保育制度、待機児童問題、保育事故等について20年以上にわたり取材・執筆・翻訳。現在はイギリスなど海外の保育・教育制度、保育の質、評価について研究するほか、保育者養成にあたる。 双子を含む4人子の母。 『死を招いた保育』(ひとなる書房)で第49回日本保育学会 日私幼賞・保育学文献賞受賞。 最新刊は『子どもがすくすく育つ幼稚園・保育園』(内外出版社・共著)、『保育園を呼ぶ声が聞こえる』(太田出版・共著)。 名寄市立大学非常勤講師。元・私立幼稚園/保育園副園長。

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