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世界的なムーブメント「グローサラント」。果たして日本で浸透し、外食を脅かすのか?

池田恵里フードジャーナリスト
阪急オアシス 「キッチン&マーケット」筆者撮影

Eコマース、ドラッグストアの参入により、日本のスーパーの土台が揺らぐ

今、スーパーでもっとも話題となっているのが「グローサラント」。

以前にも取り上げたが「グローサラント」とは、グロッサリーとレストランを融合させた造語であり、スーパーでは売り場に導入し、各社、取り組んでいる。

イートインさらなる進化、「グローサラント」

これは世界的に大きな流れとなっている。

昨年は「グローサラント」でも有名なあのホールフーズがアマゾンに買収されたことは記憶に新しい。

「あのアマゾンがリアル店舗を・・・」と驚いたものだ。アマゾンはEコマースでは出来ないことを熟知し、ホールフーズにおいても最近の業績が芳しくないことから双方の思惑がマッチしたのであろう。

日本においてもEコマースの急激な成長、そしてドラッグストアでは低価格で弁当の販売を手掛け、いずれも進行がすさまじい。

ちなみにEコマースの大手3社(YAHOO、アマゾン、楽天)、そしてドラッグストアにおいて、既にデパートの総売り上げを超えている。

つまり日本の小売りの環境は、劇的に変化しているのだ。

ご承知の通り、日本は人口減からの人手不足もあり、スーパーマーケットの売り場効率とコスト構造を従来通りのままであれば、2030年までに全国2500店舗以上が淘汰の憂き目にあると予想される。

そんななか、スーパーは生き残りをかけて、Eコマース、ドラッグストアに対抗できることは何かを突き詰めて考えると、世界各国で見受けられるスーパーの店舗内で調理した商品をその場で食べる「グローサラント」を導入し始めたのだ。

日本における「グローサラント風」から本格的な「グローサラント」

この2年間、スーパー動向を見ると、イオンが手掛けた「イオンスタイル板野前橋店」「イオンスタイル碑文谷店」、そしてヤオコー「南古谷店」成城石井の「調布店」といったスーパーが導入している。他社でもぞくぞくと導入が見受けられ、面白い試みもあったものの、多くの場合、まだまだ課題は残っている。

顧客の動線がうまくイートインにつながっていなかったり、バイオーダーで提供されている商品は独自性に欠け、差別化につながっていないなど。

そして何といっても、多くの場合、外食より低価格ではあるが日常では使えない若干高め設定なのである。

進化中の「グローサラント」

今年に入り、さらに磨きのかかった「グローサラント」が見受けられるようになった。

そのなかの一つ、先月4月1日にオープンした阪急オアシスが手掛けた梅田ルクア1100に出店した「キッチン&マーケット」はこれまでとは違い革新的な売り場となり衝撃的であった。

阪急オアシスが手掛けた売り場574坪は圧巻で売り場毎にマルシェの色合いを上手に醸し出し、レストラン機能もオペレーションも緻密に考慮し、自社の商品97%の品ぞろえで、300席がその場で食べられるようになっている。顧客の動線といった問題は中央に100席置かれているため、その回りをぐるりと売り場が配置され問題がない。

阪急オアシス「キッチン&マーケット」売り場中央に100席配置(筆者作成)
阪急オアシス「キッチン&マーケット」売り場中央に100席配置(筆者作成)

価格設定については若干、高め設定が気になるところであるが、地代も高いので致し方無い。

出店先はJR大阪駅北側と直結している「ルクア側地下2階」。売り場ごとにそれぞれ特徴があり、イタリア食材、料理を提供する「メルカ」、惣菜、飲食もある生鮮マルシェ「フレッシュガーデン」スイーツを集めた「スイーツアットホーム」、精肉を集める「ミートフェスタ」などといった7つのエリアで形成されており、見ているだけで楽しい。

梅田という大阪の中心地で180万人という圧倒的な通行量でその立地にものの見事にあてはめた売り場作りであり、これまでの阪急オアシスは出店するたびに売り場が着実に良くなっていき、その集大成がこの「キッチン&マーケット」と言える。海外でも十分に通用する売り場だと思う。

とはいえ、その一方で果たして今後、「グローサラント」は日本に浸透するのだろうか。

将来的には、一部のスーパーが「グローサラント」を導入することでうまく変貌を遂げ、日本全体でみると、多くのスーパーはなかなか厳しいと考える。

日本のスーパーが抱える問題

理由はいくつかあるが、日本のスーパー、そして日本のそのものの状況について述べることにしよう。

日本のスーパーの状況

・まずスーパーそのものの体力がある企業が極めて少ない。

アメリカで「グローサラント」の代表選手と言われるWEGMANでは利益率が6.7%をたたき出すと言われている。

これはファミリー企業のため、非公開のため、古いデーターである。

米国における非公開企業と非公開化の動向

一方、日本のスーパーの売上高営業利益率を見ると、平均1.88%(スーパーマーケット白書2018年参照)。

利益率を見ても歴然と差があり、加えてWEGMANでは1店舗で年間100億の売り上げをたたき出すとされる。

つまり利益率は勿論のこと、これほどの売り上げを上げるには当然、集客が可能な商圏であることを意味する。

そしてこの驚異的な売り上げがあってこそ、WEGMANでは売り場の各部署ごとに「グローサラント」に必要な調理のスペシャリストを配置することができるという好循環が生まれるのだ。

対し、人口減と商圏の狭い日本では極めて難しい。

・日本のスーパー人手不足から店舗内での厨房が可能なのか?

より外食に近い調理方法をと考えると、これまでのスーパーの厨房で出来ることは限られており、難しい。勿論「グローサラント」を導入する際、レストランに近づけるならば従業員の教育も必要となってくる。日本のスーパーでは、外食のように調理技術を持っているところは少ないというより、ないに等しい。そして人手不足から時給は1030円まで上がっている。

ちなみに阪急オアシスでは「キッチン&マーケット」では、レストラン運営はきちりに委託している。

成城石井ではセントラルキッチンのものをほぼ100%レストランの食材として使っている。

とはいえ、これほどできるスーパーは極めて少ない。

日本の置かれている状況

次に日本の置かれている状況を見てみると

・日本では年収300万未満が既に39.6%(平成28年 民間給与実態統計調査)となっており、なかなかニーズがないのではないか?これから話すことは脱線しているように思われるかもしれない。しかし現状と今後の食については「グローサラント」に少なからず影響を及ぼすので述べる。

アメリカにおいて、肥満は問題視され、貧困による影響が肥満につながるとされる。

つまり野菜を食べなくなり、その分、スナックに移行しているのだ。

これはアメリカに限ったことではない。日本でも同様の傾向になっており、以前、300万以下の年収の人々にインタビューをした際、「野菜は高いため、普段はどうしても満腹感を満たすカップラーメンとおにぎりで食事をすます」といった回答が多かった。

自ら、アンケート調査を2016年、2017年、これまで2年連続して調査をかけた。いずれもクラスター分析をした結果、日本の年収300万以下の人々がイートインで食べる商品を見ると、単価の低いデニッシュ、ドリンクですませることが多い。

ちょっとしたことも節約しているのが2年間のアンケート調査から垣間見える。

今後、日本人の年収が上がれば店内で食べる商品も違ってくるであろう。

しかし既に65歳以上が27.4%となっており、この高齢者層が増加するなか、総体的に見ても年収が上がる要因は少ない。

これまでの日本の「グローサラント」を導入しているスーパーの価格設定を見て、多くの場合、日々、日常として利用してもらえるのだろうかと思ってしまうのだ。

つまりグローサラントの言葉通り、レストランの色合いを出すと考えたならば、一部の年収の高い地域、スーパーそのものの体力があってこそ、成立すると言える。

外食からグローサラントは奪うのか?

次に「グローサラント」は外食の顧客を奪取するのだろうか。

まずこれまでも幾度か中食の台頭は、外食からの顧客奪取と言われてきた。確かに納得できる。しかし、この5年の外食市場を見てみると、25兆円前後を推移しており減少していない。

一方、中食は5年の間、じわじわ上昇しており、既に9兆8000億円となった。

この10年間で見ると、中食は2兆円の増加、伸び率は122%となっている。

次に家計調査を2010年から2016年までを見てみても然り。

加工調理食品(惣菜)外食
加工調理食品(惣菜)外食

この図でわかるように、2010年から2016年の推移を見ても、外食は年毎にバラつきはあるものの明らかに減少しているとは言えない。

つまりこの5年間は、外食からの奪取ではなく、内食から中食に移行しているのではないかと考える。

そして人々の日常食の食べ方が変化しているのだ。

確かに、外食の高単価傾向になりつつあるファミリーレストランは、今後も単価アップすることに専念したならば、高齢化、単身者の急増、そして低い年収の層が多いなか、ますます厳しくなるであろう。それらの顧客をスーパーの「グローサラント」が奪取するかもしれない。

一億総中流社会の崩壊

このように「グローサラント」を日本で売り場に導入する際、立地、その周辺の顧客の年収をよくよく考え、どんな商品を対象にするのかを慎重に考えないといけない。レストランで提供される商品は口にいれた瞬間、パンチがあり、それが「美味しさ」となる。しかし、スーパーで求められることは日常の美味しさであり、幾度食べても飽きないこと、これが美味しさなのだ。

日本は既に「一億総中流社会」は幻想であり、「グローサラント」を導入できるスーパーは限定されていくのではないだろうか。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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