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「食塩摂取量の上限目標を更に低く設定、表示も改定」 市場拡大予想、一方、偏りも懸念  

池田恵里フードジャーナリスト
ナトリウムではなく塩分量(写真:アフロ)

塩分の多い食生活からの脱皮、食品表示への一元化

「この商品に記載されいている裏面のナトリウム、これって塩の量?」

画像

いえいえ・・・

塩分の測り方は、ナトリウム量(mg)×2.54÷1,000=食塩相当量(g)でございます。

ということで、塩分を明記している商品もあるが、とにかく一般消費者にとって、実際、計算するのは、非常に面倒であり、わかりづらかった。

消費者の塩分摂取量をみると、この図のように減少推移にあり、年齢関わりなく、70%の人が減塩に興味があるとされる。

厚生労働省 平成25年国民健康・栄養調査結果の概要より出典
厚生労働省 平成25年国民健康・栄養調査結果の概要より出典

しかし興味があったとしても、現状、日本人の塩分摂取量は、他国に比べ、高いことも事実。図でもわかるように10gとなっており、これは欧米人より高いと言われ、男性は女性より、塩分摂取が高い。本来、日本料理が他の国と違って、塩分が高くなりがちということも一理ある。しかし表示をよりわかりやすくすること、これだけでも塩分摂取を減少しやすくなるのでは、と思っていた。

今回、2015年 厚生労働省では「日本人の食事摂取基準」が打ち出され、食塩摂取量の上限目標を更に低く設定した。

これまで男性9gから8g、女性7・5gから7gとなった。

表示に関しても、以前よりわかりやすく、塩分としての設定に変更となった。

「食塩相当量」での食品成分表示の義務化が決定!(2015年4月1日食品表示法施行)'''

ということで、とにもかくにも国の改定により市場は膨らむであろう。これまでも市場の伸びしろはあるとされていた。減塩市場は、2013年では412億円と前年比より7・3%増となり、売り場で良く見受けられる減塩味噌は、2012年からみると2014年では約1・5倍売り上げ上昇している。それ以前にも減塩、塩分控えめを唄った商品は2010年以降急劇に成長を遂げ、2013年には1・5倍である。

〈富士経済、KSP-POS参照)

減塩によって、効果はこれだけではない。

塩分10%削減で2600億円の医療費が減少する

イギリスでは、国が旗振り役となって食品業界に対し商品の塩分削減の自主目標を設定させることに成功。2005年からの3年間で塩分摂取量を10%削減でき、医療費も年間2600億円減ったという。どうすれば日本で減塩は広がるのか、国内外の事例を通して考える。

出典:クローズアップ現代

減塩先進国であるイギリスでは、表示をいち早く「塩分」に切り替えたことも大きく、医療費が削減したきっかけとなったと思う。

加工品メーカーや外食店は取り組みが必須となる

塩分摂取量を引き下げについては、このg設定の実現に向けて、製造元の加工品メーカーの塩分制御、外食も勿論、取り組みが必要となる。つまり消費者が努力しても、食の外部化率も既に2012年45%(農林水産省政策研究所 小林上席主任研究官が講演を参照)であることを考えると、個人での減塩はしづらい。

そのため、日々、消費者が手にとってもらうには、減塩は勿論のこと、商品は何といってもまず美味しいことに尽きる。

これまでも健康にまつわる商品を打ち出したが、美味しくないということで販売が続かなかったことが幾度もあった。減塩、つまり健康に関しては「おいしさ」が購買動機のNO1になる。

お客様 「美味しくないと減塩とはいえ、もう購入したくないのよ。味気がないし・・・」

店舗側 「本部から言われて、一応、陳列しているけれど、売れないのよね」

といった声もよく聞かれた。

減塩とはいえ、単純に塩分を減らすと「おいしさ」も平行して減らされ、どうしても味気ない、平坦な味になりがちなのだ。

メーカー取り組み

ということで、最近では各メーカーは、おいしさをも考慮した研究に余念がない。

少しそれるようだが・・・食塩を減らすためにということで、

幾つかの研究から、しょう油と食塩と比較すると、約30%食塩摂取量を抑えられることが示されている。

トマトスープに使用される食塩0・9%をしょう油に置き換えたところ、結果、しょう油にすることで33%食塩摂取量が少なく示された。満足度も高かった。この他に醤油を使うことで、サラダドレッシング40%、ポークステアフライ29%の減塩が可能となった。

出典:日本味と匂学会誌2015年4月今村美穂氏「醤油中の水溶性多糖が旨味の後味に与える影響

この他にも信州みそからメーラードぺプタイドというコクを抽出し、減らした塩分に添加させることで、失いやすい味気、つまりコクと持続性が加わえたり、ジペプチドを含む鰹エキス、大豆たん白エキスとアルギニン、塩化カリウムの併用により、塩味増強と後味の改良など〈食用塩の表示に関する公正競争規約及びその施行規則の一部引用)、各社、減塩と同時においしさも追求している。

今後、メーカー側では、国が強化したことで追い風となり、市場は広がるとみて、おいしさをより追求した減塩研究開発を手掛けることになるだろう。

極端な減塩は果たして? 塩は生命維持として必要不可欠であることも忘れない

ここまでは今回の減塩改定に極めて肯定的なことを述べてきた。しかしその一方で忘れてはならないこと。それは日本人は、ダイエットで見受けられるように、極端から極端に走り、まるでブームのようになる傾向があること。

減塩についても同様で、あまりに極端に走りすぎやしないかと思ってしまう。

塩分摂取を控えることで、むしろ死亡率も増加することもあると言われているからだ。警告している論文もあり、議論が分かれているのも事実。カリウムの必要性をも論ぜず、減塩のみに目がいっているようにも。

減塩に降圧効果はあるのか?また減塩は可能であり,危険性はないか?

WHOが1日当たり5g未満を推奨している。WHOを基準に改定を比較し、まだまだ高いと言った内容文も目につく。しかし本来、WHOの「5g」そのものも低すぎるのではないか、といった意見もあることも事実。今も、専門家の見解は、大きく2つに分かれている。そのため、私も含めて、消費者はとにかく、自分の身体に合わせて、塩分を取りすぎない、やりすぎないことが大切ではないか。とはいえ、少なくとも表示はわかりやすくなったことは、個人的に良かったと思っている。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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