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父親の頭部を切断してYouTubeに投稿 極悪非道な事件が浮き彫りにする「陰謀論と分断のアメリカ」

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
父親を斬首した容疑で逮捕されたモーン容疑者。写真:news.yahoo.com

 「陰謀論と分断のアメリカ」を浮き彫りにする事件が起きた。それはあまりにも残忍極まりない極悪非道な事件だ。

 1月30日、米ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外の一軒家で、切断された男性の頭部と胴体が発見された。切断された男性は、その家の主人であるマイケル・モーン。胴体は血の海と化したバスルームで、頭部はビニール袋に入れられた状態で、ベッドルームに置かれていたクッキング・ポットの中から発見された。バスタブには切断に使われたとみられるナタと大型のナイフがあったという。

 同じ頃、警察には、切断された頭部の動画がYouTubeで公開されているという通報が多数寄せられていた。頭部を持って動画に写っていたのはマイケルの息子ジャスティン。ジャスティンはカメラに向かって「これは、20年以上連邦職員を務めた僕の父マイク(マイケルのこと)・モーンの首だ。彼は今、祖国の裏切り者として永遠に地獄の中にいる」と述べ、バイデン政権が経済を破壊していると訴えたり、不法移民が侵入したりしている状況を以下のように批判したという。

「アメリカ連邦政府は米国市民や米国の州に対して宣戦布告した。アメリカは内部から腐っている。極左の意識高い系たちが大暴れして、かつて繁栄していた都市を無法地帯へと変えているからだ」

「税金は説明もなく納税者以外のために使われ、経済は破壊に近いほど膨張し、そのため多くのアメリカ人がもはやアメリカンドリームを持てなくなっている。不法移民は国境から侵入している」

 ジャスティンはまた、LGBTQコミュニティーやアンティファ(極左勢力)、ブラック・ライブズ・マター運動、アファーマティブ・アクション(社会的弱者に対する差別を是正する取り組み)なども非難し、自身をミリシア(民兵)のリーダーと称して、愛国者たちは武器を取って連邦職員に反逆せよと呼びかけたという。

 約14分の動画は何時間にもわたって公開され、YouTube側に削除されるまで、少なくとも5,000人が視聴した。

 ジャスティンは動画を公開後、州兵を動員するべく軍事訓練施設に向かったが、その施設で逮捕され、第一級殺人などの容疑で起訴された。

トランプ氏支持の極右の陰謀論者?

 事件後、メディアやSNSでは、ジャスティンが極右の陰謀論者だという見方があがった。

 米紙USA Todayは「父親の頭部を切断した容疑者は、極右の陰謀論に苛まれている」とし、ジャスティンがジェンダーや高学歴過ぎる白人のために差別されて雇用されなかったと思い込んで雇用主を訴えた過去に触れ、「白人男性に対する差別は極右コメンテイターに好まれるテーマだ」と述べている。

 米誌Wiredも「斬首は、極右が国境と移民に関してパラノイアになっていることに根ざしている」というタイトルで、特に、ジャスティンが移民が南の国境から侵入している状況に憤慨しており、バイデン政権下に侵入した不法移民を国外追放するよう訴えていることに言及している。動画を何度も視聴した識者からも、テキサス州のメキシコ国境で起きている出来事が、ジャスティンが投稿した動画にリンクしているとの見方を示しているという。その出来事とは、テキサス州とメキシコの国境に設置されている有刺鉄線の撤去をめぐって、撤去に反対しているテキサス州知事のグレッグ・アボット氏と設置を認めていないバイデン政権との間で対立が続いているという状況だ。

 トランプ氏が事件に影響を与えているのではないかと示唆する見方もされている。CNNは、誰とは名指ししないまでも、一部の政治家のレトリックがジャスティンに影響を与えたのではないかという元FBI副長官のアンドリュー・マッケイブ氏の発言を紹介している。

「動画でのジャスティンの発言の一部は、私たちが最近、予備選シーズン中に一部の政治家から聞かされているレトリックと変わらない。この種の発言は、もっとも脆弱で、危険を犯す可能性がある人々に影響を及ぼす」

 “X”では、ジャスティンはトランプ氏支持者だとみなす声も多々あがっている。

「彼のビデオを見た。彼は文字通り、トランプ支持者が一日中吐き出しているのと同じナンセンスなことをオウム返ししていた」

「ジャスティンは、“バイデン政権”に対する“革命”の一環として自分の父親を斬首したとされており、トランプと共和党が日々推進するMAGA(Make America Great Again)戦略に従っている」

「ジャスティンは、MAGA過激派であることを示す最高の例だ。トランプがモンスターを生み出した」

彼はトランプ支持者ではない?

 このような指摘に対し、右派は反撃している。

 トランプ前大統領に近い支援者で米下院議員選に出馬したこともあるローラ・ルーマー氏は“X”で「バイデン氏の政策が暴力的な社会を生み出している」、「ジャスティンはトランプ支持者ではない」と訴え、以下の投稿は100万回以上も表示され、拡散された。

「メディアは嘘をついて、連邦職員の父親を斬首し、ネットで反バイデンの独白を流したジャスティン・モーンはトランプ支持者だと言おうとしている。モーンはトランプ支持者ではない。彼はバイデンの政策にキレそうになるほど追い込まれていたようだが、彼のソーシャルメディアへの投稿を見ると、彼がトランプ大統領を好んでいなかったことが分かる」

 ちなみに、ルーマー氏が指摘したソーシャルメディアへの投稿の中で、ジャスティンは、自分及び自分のフォロワーvsカルトで市民戦争が起きており、カルトが自分を殺そうとしていると訴えているのだが、彼は「私自身の家族さえこのカルト信仰を支持しており、それを証明するために刑務所に行くことも厭わない。ドナルド・トランプよ、これが早急に解決されなければ、私があなたの所有物すべてについてあなたを告訴した後、あなたも生涯刑務所に入ることになるだろう。これは脅迫ではなく、約束だ、くそヤロウ」と暴言を吐いている。ルーマー氏はこの暴言がジャスティンがトランプ支持者ではないことを示していると指摘しており、右派の間でルーマー氏の見方は拡散された。

 さらに、ルーマー氏は民兵組織のリーダーだと自称するジャスティンの背後には民兵組織を禁止しようとしている民主党がいるのではないか、民主党の偽旗作戦ではないかという陰謀論まで展開している。

「ジャスティンは自分が民兵組織の一員であると述べ、民兵に連邦職員の暗殺を呼びかけた。米国上院が今何をしていると思う? 民主党政権下の米上院は、民兵組織を禁止する法案3589“民間民兵活動防止法”を提案したのだ。ジャスティン・モーンは、国境侵入を批判する人々を悪者扱いし、民兵組織禁止の支持を得ようとしている民主党のカモに見える」

 また、ジャスティンはアマゾンで7冊の本を自費出版していたのだが、その1冊「革命指導者のサバイバルガイド」では、彼が当時大統領だったトランプ氏に宛てた手紙の写しが紹介されており、その中でジャスティンは「米国と世界にすぐに前向きな変化がもたらされない場合、自分が平和的革命を行う」とトランプ氏に対して警告しているという。

 右派としては、大統領選を前に、共和党大統領候補に指名される可能性が高いトランプ氏のレトリックがジャスティンを扇動したのではないかとする見方の火消しをしたいところだろう。それでなくとも、一部の州で、トランプ氏は議事堂暴動を扇動したとして予備選出馬資格を剥奪しようとする動きが起きたし、議事堂襲撃事件をめぐる裁判を待つ身でもある。

 左派としては、トランプ氏のレトリックがジャスティンを扇動して今回の事件に繋がったという見方を訴え、バイデン大統領を再選に導きたいところだろう。

 米国を震撼させた猟奇的事件の容疑者をめぐって対立する右派と左派。結局のところ、ジャスティンがトランプ支持者だったかどうかは不明だが、事件の背後には「陰謀論と分断のアメリカ」がずっしりと横たわっている。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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