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米航空機に乗せられたペットたちに起きているヤバいこと 頭上ロッカーに入れられた子犬が死亡した事故も

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ペットケージは前座席の下に収める。写真:foxbusiness.com

 ペットの機内持ち込みの是非をめぐって起きている大論争。アメリカの国内線の機内で、ケージに入れられた犬や猫を見かけたり、大型犬が飼い主の隣の席に人間よろしく座っているのを見かけたりしたこともあるからだろうか、日本ではスターフライヤーしかペットの機内持ち込みを許可していないことに、少々驚いている。

機内持ち込みのルール

 筆者がよく利用しているユナイテッド航空のペットポリシーは、「犬や猫を旅行に連れて行くのは楽しいことですが、遵守しなければならないルールがあります」とした上で、機内に持ち込む上でのルールを詳述している。以下はその一部だ。

・空席がある時のみ、犬と猫を持ち込める。

・乗客1人につき2匹のペットまで持ち込める。

・2匹のペットを持ち込む場合は、航空券を2枚購入し、ペットの席は隣の席にしなければならない。それにより、2匹のペットをケアできる。

・重量や種類の制限はないが、ペットはキャリアーに入れて持ち込むこと。

・ペットキャリアー(サイズが規定されている)は前の座席の下に収まるものでなければ、ペットを持ち込めない。

・盲導犬はペットキャリアーなしに持ち込むことができる。

・ペットが好きな玩具や馴染みのある匂いがするブランケットや枕は、飛行中にペットを落ち着かせる助けとなる。

・搭乗したら、守るルールは一つだけ。常時ペットをキャリアーに入れ、蓋を閉めた状態で座席の下に置くこと。ペットは、キャリアーの中で立ち上がったり、向きを変えたりできる必要がある。

・子猫と子犬は、国内線の場合は生後2ヶ月以上、国際線の場合は生後4ヶ月以上の必要がある。

・ペットを機内に持ち込む場合、片道125ドルの料金がかかるが、国内線の乗り継ぎ時間が4時間を超える場合や国際線の乗り継ぎ時間が24時間を超える場合は、さらに125ドルの追加料金がかかる。

 また、国際線では、米国到着の少なくとも28日前に狂犬病ワクチンを接種することや健康証明書を求めている。

“猫様”と呼ばれたが、貨物扱いだった愛猫

 筆者も、渡米する際、愛猫を飛行機に乗せた。乗せるに当たって、航空会社に料金やルールなどを問い合わせた。対応してくれた係員は実に丁寧で、「猫様の場合、…」と猫を様づけし、立派なお客様扱いした。猫の搭乗料金を別途支払うのだから、猫様扱いしたのかもしれないが、そのエアラインでは機内へのペット持ち込みが禁止されていたため、貨物室での輸送となった。「貨物室は寒いので、ケージには暖かく過ごせるものを入れておいて下さい」と指示されていたので、くるまれるようなブランケットを入れた。成田空港から飛び立って9時間後、愛猫の入ったケージは、到着したロサンゼルス空港のバゲージクレームのベルトコンベアーの横に置かれていた。猫様ではあるが、やはり貨物扱いだった。愛猫は無事だったが、怯え、小さく震えていた。怖かったことだろう。寒かったことだろう。可哀想な思いをさせてしまった罪悪感から、アメリカの航空機の機内で、ケージの中にいる犬や猫を見かけると、あくまで人間である筆者の想像の域を出ないのではあるが、貨物室の中にいるよりはずっと快適でいられるのだろうなと思った。

頭上ロッカーに収納された子犬が死亡

 しかし、機内もペットにとって必ずしも安全な場所とはいえない。2018年、ユナイテッド航空の客室乗務員が、フレンチ・ブルドッグの子犬が入ったケージを機内に持ち込んだ乗客に、ケージを頭上ロッカーに収納するよう指示、空港到着時にはその子犬が死亡していたという悲しい事件が起きた。その子犬は酸欠状態に陥って亡くなった可能性があるとみられた。客室乗務員はケージの中には何も入っていないと思い、頭上ロッカーに入れるよう指示したと話していたようだが、ペットを持ち込んだ乗客が客室乗務員にケージの中に子犬がいることを伝えているのを目撃した乗客もいたことから、客室乗務員の怠慢による死亡事故とみられている。

 実際、アメリカでは、毎年、多数の動物が航空機に乗せられており、輸送中に死亡したり、負傷したり、紛失されたりする事故が起きている。米運輸省は、60席以上の航空機を1機以上持つキャリアーに、動物の輸送数と輸送されている動物に起きた事故数を報告するよう求めているが、以下の表は、2017年に輸送されている動物に起きた事故数をキャリアー別に示している。

エアライン別に、輸送中の動物の死亡数、負傷数、逃走数が示されている。出典:Department of Transportation
エアライン別に、輸送中の動物の死亡数、負傷数、逃走数が示されている。出典:Department of Transportation

 同年に輸送された動物総数506,994のうち輸送中に死亡した動物の数は24、負傷した動物の数は15、逃走などにより失われた動物の数は1と、10,000のうち0.79の割合で動物に何らかの事故が起きていた。

 中でも、この年、ユナイテッド航空はその数が圧倒的に多く、動物の総輸送数138,178のうち、死亡した動物の数は18、負傷した動物の数は13と、輸送動物数10,000あたり2.24の動物に事故が起きていたことになる。同エアラインの輸送動物数は全輸送動物数の27%を占めていたが、死亡数は全死亡数の75%、負傷数は全負傷数の87%を占めていた。

 ちなみに、ユナイテッド航空は、2018年3月、カンザスシティーに貨物室で輸送することになっていたジャーマン・シェパードを誤って日本に輸送するというミスもしている。カンザスシティーの空港でジャーマン・シェパードの飼い主はグレート・デーンを差し出された。乗り継ぎのデンバー空港でジャーマン・シェパードはグレート・デーンと取り違えられてしまったようだ。

 子犬を死なせてしまった事故や誤って日本に犬を輸送した事故を受けてか、ユナイテッド航空は貨物室でペットを輸送する「ペット・セイフ・プログラム」を2018年に一時停止する措置を講じたが、以降、貨物室での輸送は再開されていない。

犬や猫たちにどんな事故が起きているのか?

 ところで、航空機に乗せられた犬や猫たちには、どんな事故が起きているのだろうか? 2023年1月〜2023年12月に報告された米運輸省の「エア・トラベル・コンシューマー・レポート・フォー・2023」によると、輸送中の死亡数が8、負傷数が1、逃走後確保された数が2となっている。

 例えば、10月には、アラスカ航空で、貨物室に入れられていたゴールデン・レトリバーのミックス犬が死亡する事故が起きていた。犬はケージの側面を噛んでサイドベントを外し、ケージのプラスチックに亀裂を入れ、ケージから逃げ出す途中に喉を切り、搬送中に息を引き取っている。また、ハワイアン航空では、ロサンゼルスで手術を受けさせるためにホノルルで乗せられた心疾患を抱える柴犬が輸送中に亡くなった。報告書には「柴犬は火葬され、USPS(アメリカ合衆国郵便公社)で飼い主に送られる予定」と記されているが、火葬費や輸送費用はハワイアン航空の支払いとなっている。

 9月には、アラスカ航空の貨物室で、安全な固定が施されていなかった荷物がコリー犬の入っているケージに滑りこんでケージが損傷されたため、コリー犬が負傷するという事故が起きている。

 6月には、ハワイアン航空で輸送されていたアメリカン・ブリー犬が高熱症と脱水症で死亡したと推定されている。

 2月には、アメリカン航空でヒースロー空港から輸送されたアメリカン・ショートヘアの猫が、到着したダラス・フォートワース空港でカーゴ用ターミナルに移送される際、ケージを台車にULDしているストラップの端が台車の車輪に絡みついたことから、ケージが押しつぶされ、猫が逃走、猫は次の台車に飛び乗ろうとしたものの、飛び乗れずに地面に落下したため、台車の車輪に轢かれて死亡した。

オプションを与えるということ

 様々な事故が起きている米国のエアラインだが、それでも多くのエアラインが、ペット輸送にあたっては、貨物室預けか機内持ち込みという2つのオプションを提供している。アメリカは人々に様々な選択肢を与えることを重視している「オプション社会」だが、エアラインもサービスの一環として、乗客に選択肢を与えているといえるだろう。また、そもそも、航空機で輸送する場合、前座席の下に収まりきれない大型のペットは機内持ち込みができないので、貨物室に入れざるをえない。

 どの選択肢を選ぶかは客の自由だ。ペットを飛行機に乗せること自体ペットのことを考えていない、飼い主のエゴだと考え、飛行機に乗せるという選択肢を選ばない人もいるだろうし、10,000のうち0.79の動物が何らかの事故に遭遇しているという割合なら乗せるという選択肢もありかと考える人もいるかもしれないし、反対に、事故はゼロではないわけだから乗せないという選択肢を選ぶ人もいるかもしれない。また、海を越えての引っ越しなど、どうしても航空機でペットを輸送しなければならない状況の人は、貨物室あるいは機内で輸送するという選択肢を選ぶかもしれない。筆者は貨物室での輸送という選択肢を選ばざるをえなかったわけだが…。日本では、今、スターフライヤーだけが機内持ち込みというオプションを提供しているようだが、日本ではオプションという考え方がもっと考慮されても良いのではないかと個人的には思う。

個人の自由か、コミュニティー重視か

 しかし、乗客がペットを機内に持ち込むという選択肢を選んだとして、乗客の中には、アレルギーを持っている人や堀江貴文氏が指摘しているようにペット嫌いな人もいる。そのような人々のことを考えると、ペットを機内に持ち込むべきではないという主張が多々見られるが、そこには、周りの人々に対する気遣いを大切にする日本社会の良さが表れていると思う。

 以前取材した、ジャレド・ダイアモンド博士が、“アメリカ社会では個人の自由が重視されているが、日本社会ではコミュニティーが重視されている”との見方を示していたのだが、ペットの機内持ち込みを禁止している日本のエアラインの姿勢にも、コミュニティー重視が表れているように思われる。

 アメリカの場合、機内にペットを持ち込もうとする人が周囲の乗客のことをどれだけ気遣っているか疑問だが、同時に、ペットに対する寛容度が高いペット・フレンドリーな国なので、持ち込まれたペットに対する拒否感もそれほど大きくないのではないかと思われる。もし、座席の近くにペットが苦手な人が座っていたら、ペットの飼い主はその人と話し合って、どちらかが席を移動するだろう。あるいは、どちらかが客室乗務員に相談するだろう。

アレルギーのある人の場合

 ちなみに、米連邦航空局は、アレルギーのある人に対して、ペットの機内持ち込みを許可していないエアラインに乗るか、機内持ち込みを許可しているエアラインについては、搭乗する便にペットを機内に同伴する客がいるか事前に予約係に問い合わせることによりペットと同乗する可能性を狭めるようアドバイスしている。

 また、旅行前にアレルギー専門医に相談して薬を持参するかどうか決めたり、ペットが持ち込まれている便で飛行中にアレルギーが出た場合は、医師がしてくれた治療指示に従い、客室乗務員に助けを求めるよう勧めている。つまり、ペットを持ち込む乗客ではなく、アレルギーのある人が自身で自身の抱えるアレルギーという問題に対処するよう求めていることになる。

 白熱化している「ペットの機内持ち込み」をめぐる論争だが、日本のエアラインのペットポリシーにどのような影響を与えるのか? 

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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