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能登地震&羽田事故「比較的少ない死者数。日本の減災対策は非常に良い」「悲劇だが勝利」米英識者が賞賛

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(提供:防衛省統合幕僚監部/ロイター/アフロ)

 能登地震と羽田航空機衝突事故。新年を迎えた日本は2つの大きな悲劇に襲われた。能登地震では、この記事の投稿時点までに84人が亡くなり、羽田航空機衝突事故では5人が亡くなった。死者が出たことに心が痛むが、米英の識者は、共に、比較的少ない死者数に留められているとし、日本の減災(災害によって被る被害を最小限におさえるために、あらかじめ行う取り組み)対策を評価する見方を示している。

減災対策では非常に良い仕事をしてきた

 ノースイースタン大学で「日本の災害と復興に関する文明の対話コース」を教えるダニエル・アルドリッチ教授は、政府がセーフティー・ネットにかけた資金と地震による死亡率の関係を研究しているが、両者には非常に高い相関関係があり、「日本のような国は、人々の安全を守るためにより多くの資金を費やしており、一般的により良い準備ができている」「日本は災害に苦しんできた国であり、減災という点で非常に良い仕事をしてきた」とサイエンス関連のニュースサイトPhys.orgで日本の減災対策を高く評価している。

 一方、十分な減災対策が取られてない国では、より大きな地震が起きた場合、より多くの死者が出ているという。例えば、マグニチュード7.8という、能登地震と同規模の地震が昨年起きたシリアとトルコでの死者数は約4万1000人、また、2005年にパキスタンで起きたマグニチュード7.6の地震では少なくとも8万6000人が死亡した一方、2011年の東日本大地震はこれらの地震よりもはるかに大きかった(マグニチュード9.0)ものの、死者数は約2万人だったとしている。

トップダウンとボトムアップのアプローチ

 アルドリッチ教授はまた、日本の減災対策には、トップダウンとボトムアップの2つのアプローチがあると指摘している。トップダウンのアプローチには、災害前、災害中、災害後に政府のイニシアティブにより行われるアプローチで、災害に対する訓練やトレーニング、避難用出口の標識を設置した建物の建設、地震警告システムの設置(地震発生30秒前に人々に知らせるシステム)、危機に最初に対処するファースト・レスポンダーの訓練などが含まれており、ボトムアップのアプローチには、地震に対する備えや地震発生時の対応を国民に理解させることが含まれているという。

 羽田空港で起きた航空機の衝突事故においても、この2つのアプローチが取られていたとし、同教授は「数秒以内に消防士が現場に到着した。非常に冷静に避難誘導されたので、民間人は1人も死亡しなかった。日本は、時間をかけてトップダウンとボトムアップの対応を構築するというとても良い仕事をしてきた。政府は国民にアウェアネスを徹底させるために、非常に熱心に取り組んでいる」と日本政府の対応を評価している。

 また、自身が日本滞在中にビルの17階で地震を体験したことにも触れ、「建物全体は前後に揺れたが、ガラスは1枚も割れなかった。漆喰はどれも壊れなかった。建物全体がたわむように作られていた。これはまさに現代の技術だ」と日本の耐震技術も賞賛している。

悲劇だが、勝利でもある

 イギリスの識者からも、大規模な地震であったにもかかわらず、少ない死者数に留められている日本の減災対策を評価する声があがっている。

「甚大な被害にもかかわらず、能登地震は、減災における日本の成功を示す驚くべき物語と言える。日本は大規模な地震に見舞われるたびに被害調査が行われ、規制がアップデートされてきた。地球上で、日本以上に能登地震の被害をより少なく留められる国は他に思いつかない」(元BBC東京特派員ルパート・ウイングフィールド - ヘイズ氏)

「死者数が比較的少ないのは最終的には運が良かったからではなく、備えができていたからだ。日本は、これらのことに対する備えや国民に備えさせたり、子供たちや国民に何をすべきか、そうすることがいかに重要かを教えることに非常に優れているため、世界中で非常に尊敬され、賞賛されている。確かに今回のことは“悲劇”だが、定期的に起きている、数万人が死亡している同規模の地震と比べれば、“勝利”でもある」(ケンブリッジ大学の活動テクトニクス教授ジェームズ・ジャクソン氏のBBCラジオでのコメント)

 減災対策が評価されている日本だが、前述のアルドリッチ教授は、能登地震で古い建造物が多数破壊された点にも言及しており、耐震性のある建造物による備えの強化が求められるところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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